第52話 絡まれた…
俺達はダンジョン市場のアルメアギルド出張支部へと四人でやってきた。
「すみません、今のダンジョンの状況が知りたいのですが?」
「あ、新規の方ですね?少々お待ちください!」
猫耳と尻尾が目立つ獣人族の受付嬢が対応してくれる。
「お待たせしました、現在はまだ入り口付近の調査が終わり少し進んだあたりですね。」
思ったよりも進行が進んでいないようだった。
「まだ調査始まったばかりなんですか?」
「いえ、もう一月ほど立っているのですが今回のダンジョンは敵が強力なのとダンジョンアントが活発で複数が接敵して乱戦となり被害が多く出ておりなかなか先へと進めない状況なんです…。」
「ダンジョンアントがそんな入り口付近まで出てくるなんて珍しいですね?」
ムゥに聞いた感じ基本奥に潜んでいるということだったが状況が違うらしい。
「はい、もしかしたらクィーンに何かがあったのかと?こちらとしても進行と報告を急ぎたいのですがなかなか進展がなく…。」
「とりあえず潜ってみないと何とも言えないね。」
「まぁ装備はここで一通り揃いますし潜ってみるのでございます。」
「あ、ダンジョンに行くのでしたらこちらをお持ちください。」
そう言うと受付嬢は黄色い筒状の道具を数本渡してきた。
「救難要請用の発煙筒です、黄色い煙が出るようになっていますので緊急時に使ってください、あと可能であれば煙を見かけたら助けていただけるとこちらとしてもありがたいです。」
「わかりました、自分たちの安全最優先ですが可能なら助けますね。」
「ありがとうございます!」
受付嬢は嬉しそうに笑顔をしてみせた。
「なんでだよ!!」
そんな時、急に後ろから大きな声が聞こえ思わず振り返った。
「どうして俺がパーティを抜けなきゃならないんだ!?なんかミスったか?そんなに弱いのか??」
その男はホワイトタイガーのような顔をしていて物凄い剣幕でパーティのリーダーであろう剣と盾を背負った男性に迫っていた。
「獣牙人の虎人族でございますね、見た感じ普通に強そうですけど…。」
隣に居たムゥがそっと教えてくれた。
「違う、君は強いよ、だけど、悪いんだが…僕たちと相性が悪いというか、連携が崩れてしまうんだ…。」
リーダーの男性の言葉に頷くように涙目の杖を持った少女と弓を持つエルフだろうか?女性が頷いていた。
「意味がわかんねぇよ!!俺は前衛として敵を受け止めてお前たちに被害が出ないようにしてただろ!!なのにどうして!?」
「ガルアス、あんたは確かに前衛として強かったよ、でも敵と肉薄しすぎて私達が戦闘に参加できないんだ…連携を乱しているんだよ…。」
エルフの女性がガルアと呼ばれた虎人族の男に申し訳なさそうに、だがはっきりと言い放った。
「ガルアス、すまない…もっと強い君の戦闘に合わせられる人達を見つけてくれ…僕たちでは無理だ…。」
そう言うと男性のパーティは虎人の男を置き去りにさって行った。
「おい!待てよっ!!…ックソ…。」
虎人の男は悔しそうに地面を蹴りパーティを見送っていた。
「腕が釣り合わない人どうしが組むとああいうことがあるんですよね…。」
一緒に眺めていた受付嬢がボソッと呟いた。
「いろいろあるんだなぁ…。」
「ほんとに戦闘スタイルが合わないのか、よっぽど独壇場で戦ってたんでしょうね~。」
これだけ人が居るんだ、いろいろあるだろうし新しい出会いもあるだろう。
「それじゃ、一回戻って準備したら早速潜ってみようか?」
「うん。」
「了解だ。」
「わかりました~。」
こうして俺達はギルドを後にし馬車に一回戻るのであった。
「あ、ご主人、せっかくなんで屋台見ていきましょ!いろいろありますよ!!」
「そうだね、なんか食べ物でも買っていこっか。」
俺達は屋台をいろいろ見て歩いて行く、串焼きやリンゴ飴、たこ焼きなど地球で見たことのあるような屋台もたくさんあってまさにお祭りという感じだった。
「ねぇちゃん綺麗だね、一緒に飲まないっ?」
すっごくヤな予感がした…。
「…。」
「ねぇちゃん無視しないでよ~、俺達と飲も?でなんなら一緒にパーティ組まない?」
テーブルを囲いながらお酒を飲んでる三人組の冒険者がゼルに声を掛けていた…。
「…私?興味ない。」
ちょっと怖いくらい、ゼルはものすごく冷たい感じで拒否していた。
「そんなこと言わないでさぁ~。」
酔っぱらいの一人がゼルの肩を掴もうと手を伸ばしてきた。
「おっさん、うちの仲間に絡まないでくれない?迷惑だよ。」
俺はゼルに触られるのも嫌な気分だったので伸ばした手を逆に掴んでゼルとの間に割って入った。
「んだこの野郎!?テメェには用なんてねぇよ。」
「こっちだって酒臭いおっさんの相手なんてしたくないよ。」
「じゃあどけや?」
「うちの仲間に絡むのやめてもらっても?」
「あぁ?うるせぇよ、テメェ新米だな?ベテランの俺達に偉そうにケチ付けやがって…痛い目が見てぇようだなぁ!!」
そう言うと残り二人もこっちに寄り三人で俺を取り囲むように並んできた。
「これ持ってて。」
俺は後ろを向きゼルに羽織っていたマントを預けるとニヤニヤしてるムゥの顔が目に入った…ものすっごくヤな予感がする。
「おっと~喧嘩だ喧嘩だぁ!」
ムゥは突然大声で今の状況をアピールして野次馬を集めだした…。
「対戦カードは白い鎧の新人冒険者の青年と強そうな三人組のベテラン冒険者!!さぁどっちが勝つか勝負勝負!!」
勝負の意味が違うっ!!あの女、俺を賭けのネタにしやがった!!
「なんだぁ?ひよっこが喧嘩だと?勝てねぇだろ。」
「賭けになるのかぁ?」
「まぁいいや、三人組にだ!」
「こっちもだ!」
冒険者は賭け事が好きらしい。あっという間に人だかりができて大盛り上がりだった。
「ったく、好き勝手言いやがって…。」
「ぐだぐだ何言ってやがる?泣いて詫びても許してやらねぇからなっ!!」
そう言うと最初に絡んできた男は右の拳を振り上げ殴りかかってきた。
「…!」
俺はフーっと呼吸を整え、拳を体を反らして躱しそのまま右ストレートを男の顎に撃ち込み頭がぐらつきバランスを崩したところで左回し蹴りからの右後ろ回し蹴りをさらに男に撃ち込み完全に意識を刈り取った。
「は?」
仲間の男が何が起きたのかわからないという顔で崩れ行く男を眺めている。
「何だ今の!?ホントにひよっこか??」
「賭ける方間違えたかこれ!?」
「賭けの受付は締め切っております~。」
確信犯であった…。
「んなろ!!」
怒ったもう一人の男が飛び掛かってくる。俺は男の懐に飛び込んだ!
「ダダダダダダダダダダダダダー!!」
俺は叫びながら連続パンチを男の胴体に撃ち込めるだけ撃ち込んだ。
「うぼぇうぁ!?」
意味不明なうめき声が聞こえて来たあたりで全力のアッパーカットを顎にトドメと撃ち込んだ、クリティカルヒット!!カンカンカン!とKОのゴングの音が聞こえた気がした。
「くっそ、ふざけやがって…!!ただじゃおかねぇ!!」
最後の一人が腰に下げていた剣を引き抜き俺に向けて構えてきた。
「絡んできたのはそっちだろうが、酔っぱらい共が…。」
周囲からも武器使うのかよ?とか卑怯だろ!!、でも賭け金がなどなど様々な声が聞こえてきた。
「ゼル、リンゴ飴とイノシシの串焼きどっち食べる?」
「ん~飴!」
「はい!」
絡まれたのは自分たちだと言うのにゼルもロゼッタも芝居を見ているかのようにまったりしていた。人の気も知らないで…。
「このクソガキ…覚悟しろよ…。」
そう叫ぶと剣を振りかざし迫って来る。
「こんなとこで剣なんか振り回すなよ…。」
俺は体を反らして振り下ろされる剣を躱し顎目掛けて再び右ストレートを撃ち込み、そのまま膝でみぞおちを思いっきり蹴り飛ばす。
「ぐひゃぁっ。」
男の呻く声が聞こえたらそのまま首のあたり目掛けて肘鉄叩き込んだ。ドサっと音を立てて三人目の男も崩れ落ち動かなくなるのであった。
「お前ら程度に武器なんか使わないっつうの。」
俺は相手にならないと手をヒラヒラしてアピールしてみせた。
「兄ちゃんつえぇ!」
「賭ける方ミスったなぁくそぉ!!」
などと周囲は歓声で溢れかえっていた。
「とりあえず、目立ちすぎたなぁ…先に退散するからなんかご飯買ってきて!」
ゼルとロゼッタが手で合図をしてくれてるのを確認したらその場をそそくさと退散していくのであった。
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