第48話 リハビリ

 あれから数日が経ち、俺の体もほぼ完治と言っていいくらいに回復し今はギルドの練習場に新たに用意してもらったハイドラの鎧を身に纏いながら立っている。


「今日は4体かぁ…よしっ。」

 俺は軽く準備運動をしながら正面の4体のゴーレムを見据えていく。


「行きます!!」

 俺は叫びながら奥で見ているドワーフ達に手を振り合図を送る。


 するとギギギと音を立てながらゴーレム達が起動し俺に向かって襲い掛かろうとしてくるのだ。


「はあぁぁぁぁ!」

 俺はまず正面の1体に向かい駆け出す、距離を詰めて目前に飛び込むとそのゴーレムが右腕で殴りかかってくる、それを受け流しながら懐に飛び込み腹部に膝蹴りを撃ち込んだ。


「まず一つ!」

 衝撃でのけ反ったゴーレムの胸にペタリとシールを張り付ける、これはスタンシールという発動すると雷撃によりゴーレムを強制停止させる魔道具だ。これのお陰でゴーレムを破壊せずに機能停止させることができるのだ。


「次!」 

 1体目がビリビリとシールの効果で機能停止している間に2体目が目の前まで迫っている、両手で捕まえてそのまま押し倒すつもりなのだろうがそうはいかない!!


「よっと!」

 俺はゴーレムの肩に両手をつき勢いよく飛び上がる、空中で態勢を整えながら後ろに着地しそのままシールを背中に貼り付け停止させる。


「これで2つ!」

 振り向くと3体目はなかなかの曲者で右手をロケットパンチのようにガシャンと音を立てて飛ばして来た。


「なんのぉ!」

 飛んで来るパンチを左腕で受け流し右の手のひらで叩きつけ軌道を明後日の方向に飛ばし距離を詰めていくとゴーレムの胸部がガシャンと音を立てて左右に開き網の目状の何かが出て来た。


「ちょ、まって!?これ聞いてない!!」

 なんとその網目状の筒から銃のように鉄球がバババババ!と一斉掃射されてきたのだ。


「誰だよこんなの作ったの!!」

 俺はスライディングで射線からどうにか離れ回り込むように距離を詰めていき思いっきりジャンプする。


「ふざけんなぁ!!」

 ジャンプをしてそのまま空中で綺麗な一回転を決め、勢いそのままにライダーキックよろしくゴーレムの頭部を思いっきり蹴り飛ばす、グシャンと音を立てて頭が吹き飛びゴーレムはガッシャンと音を立てて崩れ落ちた。


「3つ…。」

 そして最後の1体、これが曲者で通称木人君と呼ばれておりアイアンゴーレムより軽く動きが早い、しかもギルドの格闘家のデータを入力したらしく無駄に強いのだ。


「来たな木人君」

 木人は一気に距離を詰めてきてそのまま右ストレートを放って来る、それを紙一重で躱し懐に飛び込もうとすると膝蹴りがすでに飛んできていて俺はすかさず距離を取らされる。


「なんか動きがめっちゃよくなってるんだけど!!」

 木人との乱打戦を眺めているドワーフのおっさん達はその完成度に満足そうに微笑んでやがった…。


「くっそ!」

 なかなか攻撃が決まらず近距離の乱打戦が続く中、攻撃を受け流すため木人の腕を殴ったその時だった、パコン!と音を立てて木人の腕が割れて中のケーブルなどがボロンと出て来たのだ。


「あら、時間切れだねっ!!」

 俺はそのまま左拳に力を込めて胴体を思いっきり殴りつけた、これまたバコン!と音を立てて胴体部分が割れて中身が露出し機能を停止してしまったのだった。


「終了~。」

 木人の弱点、それは木であるが故に耐久性がアイアンゴーレムより低く、激しい動きをすると壊れやすいということなのだ。


「今回も俺の勝ちですね。」

「くっそぅ…木人8号ならいけると思ったんだがなぁ…。」

 戦闘を観察していたのはドワーフのゴーレム技師達で、戦闘データを集めていたのだ。


「てか、飛び道具使ってくるのは聞いてなかったんだけど?」

「すまんすまん、ちょっとああいうギミックタイプも使って見たくてなぁ…。」

「ああいうのは先に言ってください、死ぬかと思うじゃないですか!」 

「よく言うわい!3号だけ完全にぶっ壊しおって!作るの大変だったんじゃぞ!!」

 俺達がゴーレム関係の書物や研究資料を持ち帰ったことでドルガードではゴーレム開発が蘇り、現在様々な技師が様々な用途に合わせたゴーレムの開発が猛スピードで進んでいるのだ。


「とりあえず、今日の訓練はここまででいいですか?」

「あぁ、ありがとよ!いいデータが取れたわい!」

「お疲れさまでした!」

 そうして練習場を後にするのだった。


「タカユキ、お疲れさま!今日はおしまい?」

「ゼル、待っててくれたの?ありがと!おわったよ。」

 入り口で待っててくれたゼルと一緒に宿屋へと向かう。


「今日の訓練終わったし荷物置いたらご飯でも食べにいこっか」

「うん!」

 体がほぼ完治してから完全に鈍ってしまった体を元に戻すべく、俺は模擬戦という形でゴーレムと戦っているのだ。


 初日は手に入れた魔剣トルナードの実験がしたくて使用したら試作のゴーレムを先制で完全に大破させてしまい、ドワーフのおっさん達にギャン泣きされてしまった。

 あんな大泣きされたらこっちも加減せざるお得なくなり、それ以降は武器を使用せず防具のみ着用で格闘戦でデータ取り兼俺のリハビリという形で訓練を続けている、

おかげで新しい鎧は体に馴染み動きやすくなり、我流の喧嘩殺法もいいとこだが格闘戦も少しできるようになってきて自分自身の修行もできていい感じだった。


「じゃあ着替えてくるからちょっと待っててね。」

「わかった~。」 

 宿屋に着き、部屋へと戻り着替え始める、今、ドルガードでは白いハイドラの鎧は良くも悪くも目立ってしまうので食事など町に出る時は一般的な私服に二人とも着替えて出歩いているのだ。


「あの時はホント驚いたなぁ…。」


 数日前


 ギルドの作業場に用意されていた白い装備一式を見て驚いているとムゥが横から説明しだした。


「今回の報酬なのですが金銭はもちろんそのほかに回収したハイドラの素材を使いご主人とゼルさんの新装備の制作を依頼したのでございます。」

「すごいな…柔らかいのにしっかり硬い…。」

 ハイドラの鎧を触りながら完成度に俺は驚いた。


「凄腕職人がたくさん居るここだからこそできる最高の報酬でございましょ?」

「よくこんな鎧作れたな…素材もハイドラだけじゃないんだろ?」

「それは大破したご主人のシルバーミスリルの防具を一回インゴットに戻して繋ぎとして再利用してるのでございます、回収しといて正解だったのでございます~。」

 ほんと優秀な従者だった。


「ささ、試着してみてくださいな!」

 そうしてムゥに手伝ってもらいながら新装備一式を試着していく。


「すごいな、ピッタリだ…ん、なんで俺のサイズぴったりなんだ?計ってないよな?」

「ふふふ、ご主人の事ならなんでもお見通しなのでございます!!」

「怖いわ!!」

 万能従者に恐怖を感じながらもギュッギュと皮が擦れる音が心地良い。


「それで、こちらの剣なのですがハイドラの逆鱗から削りだした超強固な二振りでございますよ。」

 ムゥはそう言いながら二本の剣を指差してきた。


「軽い…それに振りやすい丁度いい長さだ…。」

 俺は剣を握り軽く振ってみて扱いやすさに驚いた。


「ご主人の雑な戦い方を考慮してあたくしなど他の仲間が使うことも考えて作られております、シミター型なのは硬すぎてその形にしか加工ができなかったからでございます。」

「雑で悪かったな…。」

「ちなみに逆鱗の3枚目はご主人のブレストプレートに使われております。」

 軽くて関節の動きの邪魔にならない構造でしっかりと強度もあるほんとに素晴らしい完成度だった。


「ちなみに全身真っ白は気持ち悪いので皮を黒く染色して内側は黒に白い装甲とデザイン性も重視したのでございます!!」

 すごいドヤ顔だった。


「それはありがとうございます!」

「あ、タカユキも来てたんだね…。」

 声のする方を見るとゼルが立っていた。


「うん、ムゥに呼ばれてね…ゼル、その装備…。」

「似合う…かな?」

 ゼルの装備は黒地に白い鱗が並んだショートローブにキュロット、黒に骨のような装飾を施されたロングブーツとネクロマンサーチックさが強くなった衣装を見事に着こなしていた。


「すごく似合ってる、綺麗だよ。」

 照れてるのか恥ずかしそうにしているゼルも可愛かった。


「ちなみに、ゼルさんの杖もハイドラの骨と紫水晶を使ってネクロマンサー専用の物を作っておきましたよ!」

「ムゥちゃんありがと、これで魔法も今までより扱いやすくなるよ…。」

 ゼルに撫でられてまんざらでもなさそうなムゥだった。


「あ、ご主人!」

 ムゥがふと何かを思い出したようにこっちを向いた。


「技師達が作った新型ゴーレムのデータ取りの模擬戦、ご主人のいいリハビリになると思って受けておきましたので頑張ってくださいね!!」

「おまえっ!!!」

 などということがあり新型ができる度に模擬戦に今も駆り出されているのであった…。


「ゼル、お待たせ!いこっか!」

「うん!」

 そうして着替え終わり、俺とゼルは街の方へと一緒に歩いて行くのだった。

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