第44話 葬送魔法
ムゥとロゼッタはハイドラの死体をぐるりと見渡すと地面に簡単な図を描いて何かを相談しているようだった。
「何話してるんだろ?」
「解体についてじゃないかな。」
「二人で大丈夫かな…?」
確かに中身が竜と言っても今は小柄なムゥとドワーフのロゼッタではあの体だけでも10メートルくらいはある巨体をどうするつもりなのか想像がつかなかった。
「何か考えてはいると思うけど…どうするつもりだろ。」
そう話しているとムゥがこっちに向かって歩いてくる。
「ゼルさん、ハイドラの肉とか内臓を一気に分解するような魔法ってございますか?」
「消すってこと?」
なんかすごい話をしていた。
「なんて言いますか、ああいう爬虫類系の生物って死んで土に帰ったあとも鱗や骨などってそのまま残るじゃないですか?それを利用できないかと。」
なるほど、つまりあの巨体を分解し骨や鱗など素材だけの状態に一気にして回収しようという作戦らしい。
「ん~、一応葬送術式はあるし、ここのエーテル感なら多分実行できると思うけど、どのくらいまで分解してしまうか、どのくらい残ってしまうかやってみないとわからないって感じかな、対象がちょっと大きすぎるから…。」
「了解でございます!おそらく準備ができたらお願いすることになると思いますので、そのまま少し休んでてくださいませ!!」
そう言うとムゥはロゼッタの元へ戻っていき今聞いたことを説明しているようだった。
「あ、ご主人~武器ちょっと借りますね~!」
大声でそう叫んで来るムゥに返事をしようとするが体がまともに動いてくれず反応すらできなかった。それを見ていたゼルが両手で丸を作ってムゥ達に合図を送ってくれていた。
「ゼル、ありがと。」
「うん!」
嬉しそうに微笑んでくれた。
ガスン!!ガスン!!
のんびりしていたら何かを叩くようなすごい音が響いてくる。
「なんだ!?」
音の方を見てみるとムゥとロゼッタが一番左のハイドラの頭に鉈をあてドボルガッシュで杭打ちのように鉈を打ち込んでいたのだ。
「何してんだあれ…。」
どうやら首を切断したいらしく、鉈をドボルガッシュの衝撃力でミノのように打ち込んで切断していっているようだった。
「私は力が無いからああいうの手伝えないしなぁ…。」
「ゼルには大変な役割あるし、ああいうのはできるのに任せておけばいいんだよ。」
ちょっと非力なのを気にしていたゼルにカバーをいれつつ、二人でのんびりと作業が進むのを待っている時間が続いた。
少し時間が経ち、どうにか体を起こすくらいは動けるようになってきた。俺達の周りも焚火をしたりムゥが持ってきた美味しそうではあるが、何なのかわからない肉の串焼きが焼かれていたりしている。
「ご主人、食べないんですか~?」
「食べないって、この肉あれのだろ?」
「毒はないですよ?」
「いや、でもさ…。」
作業から戻ってきたムゥがニヤニヤと俺に肉の串焼きを進めてくる。
「せっかく倒したんですし、いいじゃないですか~割と普通に食べるものですよ?」
ムゥが俺の手にいい感じに焼けて美味しそうなハイドラの肉を握らせてくる…。
「分解したらもう食べれないんでございますから、ささ!」
ロゼッタはまだ作業中で帰ってこない、ゼルは興味ありそうに見つめてくる…逃げ場がないっ…。
「くそぅ…ええい!!」
ガブっと肉に俺は齧りついた、味は塩コショウだけだがさっぱりしていてしつこくない、鳥に近いような味で普通に美味しかった。
「何を躊躇してるのか知りませんが、魔獣の肉は普通に食材として出回ってて結構美味しいんでございますよ?」
そう言いながら別の串を取りパクっとムゥは食べていった。
「お前…知ってて反応見て楽しんでただろ…。」
「何のことでしょうか~?」
「こいつ…。」
魔獣の毛皮や牙、角などは武器や防具に使われるのはもちろんその肉も食べれるものが多いらしく普通に食卓に並ぶらしい。
「じゃあ私も、いただきます。」
そう言いながらゼルも肉をパクパクと食べ始めた。
「なんだよ、人が作業してる間に皆で美味しそうなの食べてて、あたしの分はあるのか?」
「まだ沢山あるよ、後ろに山もあるし?」
後ろで解体中のハイドラを指差しながらそう言うとロゼッタはハハハと笑っていた、やはり魔獣を食べるのは常識らしい。
「さっきムゥが何してるのかと思ったら、ハイドラの一番美味しいとこ切り取ってきてたのな。」
「これ一番美味しいとこなんだ。」
「結構な高級肉でございますよ!」
「ってなるとちょっともったいなく感じちゃうよなぁ…。」
普通に美味しい新鮮な肉の山をこの後土に返してしまうのはちょっともったいなく感じた。
「あんな肉の山どうやって維持するんですか、すぐ食べれるとこだけ食べてしまわないとあっという間に傷んで食中毒でございますよ!」
確かにそれもそうだなと思った。
「とりあえず、体力回復もかねて美味しい部分は全部切り出して来たので食べちゃってくださいね!」
そう言ってムゥが指差す方向には4人では多すぎるのではないかというくらいのどっさりとした肉の山ができていた。
「マジか…。」
「どんどん焼くのでございます~。」
「酒が欲しいなぁ~。」
ロゼッタなんてお酒を欲しがりだした…。
実際、ムゥの厳選したハイドラの肉はホントに美味しく最初の抵抗が嘘のようにバクバクと食べてしまった。
「解体の方は順調なの?」
「はい、ギルドに見せるための頭部の切断、分解後に回収しやすくするための切り口も付け終わっているのでございます。」
「最高貴重部位の逆鱗はもう回収できたしな。」
「逆鱗?」
「竜系の持つ逆になった鱗でとてつもない強度を誇る最高級素材でございますよ。」
「ハイドラは頭が三つあるだろ?首の付け根に1枚ずつ逆鱗があるから合計3枚だ、すごいよな!」
「あの筋肉バカのせいで中央の頭の逆鱗は損傷していましたけどね…。」
「めっちゃ硬いその逆鱗を壊すとかアイツマジで何だったんだよ…。」
「ちゃんと使い道は考えてあるのでお任せくださいませ~。」
ムゥにそう言われたが、正直不安だった…。
「それでは休憩も終わりましたし、ゼルさん、分解の方お願いしてもよろしいでしょうか?」
「うん、ただ、制御のためにも姉さんに貰った紫水晶使うね?」
「了解でございます~。」
そう言うとムゥはゴソゴソとカバンからラドレスを出る時に渡された紫の結晶を取り出した。
「ありがと、じゃあ始めるね。」
「お願いするのでございます!」
ゼルは立ち上がると紫水晶と杖を持ちハイドラの正面へと向かって行った。
「ささ、ご主人あたくしの膝に寝てくれていいのでございますよ!」
自分の膝をポンポンと叩きながらムゥが手招きをしてくる。
「いいよ、どうにか座ってられるし…なんかされそうで怖いわ!」
「最近あたくしの扱いが雑なのでございます!!」
ムゥはプリプリと怒りつつも俺の後ろに寄ってきて背中に手をかざした。
「とりあえず、作業が終わるまで治癒の続きをしちゃうのでございます。」
「ありがとな…。」
フフフと嬉しそうにムゥは笑うと魔法を発動したのだろう、体がすごく楽になった気がした。
「…命を懸けて戦い抜いた偉大な竜の子よ、今、我が葬送の術においてその身を輪廻の元へと返しましょう。」
ゼルの声が聞こえる、ハイドラの正面に杖を突き立て下に紫水晶を置き膝をつき両手を広げ言葉を綴る。
「世界へかえれ、デスレクション…!」
そう呟いた途端だった、水晶を中心に黒い煙のように魔力が集まりハイドラへと向かい包み込んでいく。
「すげぇな…。」
ロゼッタがボロっと呟いた。
しばらく見つめていると魔力に包まれたハイドラは次第に萎んでいくように見えた、肉が腐り血が失われ、どんどんと干からびているような感じだった。
「ゼルさん、もう大丈夫でございます!」
眺めていたムゥがゼルに声をかける、ハイドラは完全に中身が無くなりガリガリの骨と皮、鱗だけの状態になり果てていた。
「わかった~。」
ゼルは声を聞いて魔法を辞めた、その時だった、パラパラと立てていた杖が錆びつき崩れ落ちて行ったのだ。
「ごめん、術式に耐えれなかったみたいで杖、壊れちゃった。」
「また新しいの買いに行こ!」
「うん!」
話しているとフフフとムゥが邪魔するように出てくる。
「水晶の方は大丈夫でございますね、ゼルさんの杖ももう考えてあるので心配ご無用なのでございます!!」
「お前はホント何を考えてるんだよ…。」
「ヒミツでございます~。」
これだけではない、俺の力のこともおそらく何か知っているのだろう、今は話す時ではないらしくこのノリは変わらないのだが。
「では、いい感じにダイエットできたので素材回収を始めるのでございます~。」
「おう!」
「あ、ゼルさん、またご主人の面倒お願いしますね~少しは治癒しましたけどまだまともに動けないでしょうから!」
「うん、任せて。」
ゼルが水晶をムゥに渡し、そのまま俺の隣に戻ってきた。
「おつかれさま、大丈夫?」
「うん、ちょっと疲れたけど水晶もあったし全然平気。」
そう言いながら二人で焚火囲んでいた。
「さってと、さっきより作業しやすくなったがやっぱ劣化したり損傷が激しかった部分は完全にダメになってるな。」
「長い時間をかけて朽ちていくのを一瞬でしてしまいましたからね~。」
「それでも全く劣化してない部分もあるのを見ると、やっぱ竜の素材はすごいよな。」
ムゥとロゼッタは、あらかじめ分解用に入れていた切り口からハイドラの綺麗な部分を切り取り皮、鱗、甲殻、骨と切り分けて行くのであった。
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