第43話 後始末

 トコトコとムゥが戦闘の跡地を歩き回り落としまくった武器を回収していく、タルタロスのとこまでくると胸部を開き中身を見つめているロゼッタが見えてきた。


「ロゼッタさんどうかしたんでございますか?」

「あぁ、ムゥか?…いやな、親父の姿が無くなってるんだよ。」 

 タルタロスの胸部、ロゼッタの親父が入っていった部分で間違いなくそこに居ただろう接続パーツは残っているのだが文字通り肉体がそこには無く、消滅していたのだ。


「恐らくですけど、自信の体を触媒に起動させたのですよね?…だとするとその時に膨大なエーテルを受け止めて体がエーテル分解されたのでしょう、娘達を助けるという意思だけを残して。」

 コツコツとタルタロスを登りながらロゼッタに親父が消えた理由を予想するムゥであった。


「そう…だったのか、全部終わったらもう一度話せる、せめてもう一度って思っていたんだけどな…。」

 ロゼッタは寂しそうに父親に繋がっていたであろうケーブル群を眺めながら腕をギュッと握りしめた。


「その周辺を探せば遺品くらいは残ってると思いますが肉体の方はもうないでしょうね…。」

「そっか…形見はもう貰ってけど、少し探してみるよ。」

「埋葬とかは遺品だけとかになると思いますよ。」

 そう言うとムゥはピョンピョンとタルタロスを飛び降りた。


「ではあたくしはご主人が投げ捨てまくった武器の回収に戻りますね~また後ほどでございます~。」

 ムゥは周りを探しながらトコトコと歩いて行ってしまった。


「親父、もうちょっとなんか言ってくれよ…いっつも言葉が足りねぇんだよ…。」

 そう呟くとロゼッタはタルタロスの中身、親父が消えたであろう場所を探し始めるのであった。


 ムゥはロゼッタの元を去った後周りを見渡し何かを見つけたようにトコトコと歩いて行く、そこには割れてボコボコに歪んだガントレットシールドの盾部分が転がっていた。


「一応シルバーミスリルだし回収しておきますかね…ご主人も今回結構無茶しておりましたし。」

(おそらく今回のは命の危機に無理矢理あの力を解放したのでしょう、全身ではありますが筋肉断裂くらいで済んでよかったでございます。)

 ムゥは考え事をしながらディスペリオンやドボルガッシュ、吹き飛んだシルバーミスリルの防具の残骸などを回収してカバンにしまい込んでいく。

(ウガルルムもあれを渡してきたのは想定外でしたが、いい傾向でございます。このまま馴染んでいけばご主人は…。)


「ムゥちゃんどうかしたの…?」

 ムゥはその声にはっと我に返った、いつの間にかぐるりと回りタカユキとゼルの居る場所まで戻ってきていたのだ。


「いえ、ちょっと考え事をしてただけでございます、お気になさらず~。」

「そう?」

「そうでございます~。」 

 そんなことを話ながらタカユキを見つめた。


「ご主人はぐっすり眠っておりますね~幸せそうにっ!」

 ムゥは気持ちよさそうに寝ているタカユキにちょっと不満そうな顔を向けた。


「頑張ってたもん…魔力がオーラになって溢れ出てくるくらい全力で、怖いくらいに…。」

 ゼルはそう言いながらタカユキの額を撫でていた。


「なんだ、皆もう集まってたんだな。」

 ロゼッタがそう言いながらこっちに向かい歩いいてくる。


「ロゼッタさんはもういいのでございますか?」

「あぁ、タルタロスはもう完全に機能停止して動かせないし、親父の形見も一応見つけることができたよ。」

 ロゼッタはギルドカードと作業用のゴーグル、ボロボロのジャケットを見せてきた。


「戻ったら埋葬して形だけでもちゃんと葬ってやるんだ、せめてもの親孝行だな。」

「親父さんも喜んでくれるよ…。」

「タカユキ、起きたの?」

 俺は周りの話声を聞き意識が戻ってきていた。


「今、起きたよ…体はヤバいくらい痛いけどね…。」

「膝枕でとても幸せそうでしたよ?」

「うるさいよ…。」

 ムゥに茶々をいれられつつ起き上がろうとしてみるがやはり体中に痛みが走り上手く動くことができない。


「まだ無理しないで、寝てていいんだよ?」

 ゼルは優しく受け止めてくれるが正直ずっと膝枕してもらうのは申し訳ない気持ちもある。


「ご主人の体もありますが、もう一つどうにかしなければいけない問題がございますよ?」

 ムゥが指差す方向を見てみる。


「あ…。」

 そこには激戦の末に倒したハイドラの死体がどさりと転がっていた。


「このまま放置はまずい感じ?」

「アンデッド化して動き出したら地獄ですよ。」

「え、アンデッド化するのこれ?」

「ここマイナーエーテルが溜まりやすい場所みたいだから可能性はゼロじゃないと思うよ?」

 実際ゼルは巨大な骨を大量に召喚して戦っていた、つまりマイナーエーテルが多くネクロマンサーが本領発揮できる空間だったということになる。


「げぇ…どうしようか?」

「とりあえず、綺麗な部分は剥ぎ取っちゃいましょ?絶対高級素材でございますし!」

「爪や牙、甲殻や鱗、皮もいい素材になるぜきっと!」

 ムゥとロゼッタはハイドラを眺めながら早速ばらす話を始めていた。


「じゃあとりあえず、解体して使えそうな部分は貰っちゃおうか。」

「ご主人はそのまま寝ててください~ロゼッタさんと一緒にばらして素材回収してきますので!」

「そんな体じゃまともに作業できないだろ?任せとけって!」

 手伝おうと思ったがムゥとロゼッタに戦力外通告をされてしまった、実際痛みが凄くてまともに動けないのは事実だった。


「…任せたわ。」

 この時ふと疑問に思うことができた


「あれ?じゃあ上で薙ぎ倒したネズミも放置してたらまずいんじゃない?」

「え、メンドクサイでございます…。」

「おいっ!…痛っ…。」

 俺はメンドクサイと言われて思わず飛び起きようとしたが体の激痛に再び倒れてしまった。


「マイナーエーテルが溜まってたり紫水結晶がなければそうそうアンデッドになったりすることはないから上の層は大丈夫だと思うよ…。」

「まぁ、アンデッド云々は建前でございますしね!」

 ムゥがポロっと何かを漏らした。


「ムゥ?どういうこと?」

「だってアルビノのハイドラでございますよ?こんなの放置したらおこぼれ狙いの後続に回収されちゃうじゃないですか!!」

 今後、後続がこのハイドラの残骸を持っていくのが嫌らしい。


「だいたいあたくし達がこんなに苦労して手に入れた報酬を何もしてないやつに持っていかれるなんて納得できません!!」

「確かに、タダでやるのはちょっと納得できないかも…。」

「でしょ?」

 実際情報を持ち帰った時点でここまで来て貴重な素材を手に入れようとする奴らは絶対に出てくる、ハイドラの解体処理は今のうちに自分たちでしてしまいネコババを防止しようということらしい。


「この世界は世知辛いのでございます~!」

 そう言うとムゥとロゼッタは部位を確認し解体し始めるのであった。

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