第42話 一段落

「体が、動かない、痛すぎる…。」

 タカユキは体中の痛みによってまともに動ける状態ではなくなっていた。


「ご主人、結構無茶してましたからね~身の丈に合わない力を無理やり使うからでございます~。」

「とりあえず、肩の牙抜いて止血するね?」

 そう言うとゼルに膝枕で起こされ、ムゥに肩に突き刺さっていた牙を引き抜いてもらうことになった。


「行きますよ~、3、2、0!」

 ムゥに突き刺さっていた牙を思いっきり引っこ抜かれた。


「いっ痛…!?」

 急に引き抜かれて肩から全身にズキズキとした痛みが電撃のように走った。


「おまえっ、それは無いだろっ…つぅ~…。」

「大丈夫?止血するね…。」

 そう言うと傷口に軟膏を塗られた、それはしばらくすると血を吸い周囲を巻き込んで収縮するというもので、それもめちゃくちゃ痛かった…。


「タカユキ、大丈夫?」

「だい、じょうぶ…。」

 ちょっと泣きそうなくらい痛かった…。


「とりあえず手当ては終わったようだな。」

 そう言いながら左腕を肘の少し下を失ったウガルルムが歩み寄ってきた。


「ウガルルムッ!」

 その姿を見て全員が身構える、俺も起き上がろうとするが体にズキズキと痛みが走り直ぐに倒れてしまう、手足もほとんど動かせないほどだった。


「安心しろ、我に戦意はもうない。」

 腕を失った時点で戦意喪失してくれていたのだろうか?確かにウガルルムから殺気は消えていた。


「この筋肉バカが好きなのは真正面からの全力の闘争であって瀕死の相手を襲ったり弱い相手を虐殺するのはむしろ嫌いなのでございますよ。」

 正々堂々の真っ向勝負ができない時点で興味はないらしい。


「まさか我の腕をもぎ取っていくとは、見事だった…小僧、名を教えよ。」

「タカユキ・ヒグサ…。」

「フハハハハ、タカユキよ覚えておくぞ!お前との闘争は楽しかったぞ!!」

 腕を失っているのにものすごくご機嫌なウガルルムだった。


「なに、この腕か?これは素晴らしい闘争の末に失ったのだ、本望よ!」

 腕を眺めていたらそれに気づいたように話して来た、とんでもない脳筋だった。


「それはそうと、ウガルルム聞きたいことがあるのですがちょっとよろしいですか?」

「なんだムシュフシュ?構わぬぞ?」

 ちょっと不機嫌な感じのムゥがウガルルムに話しかけてくる。


「ここに居たのはあんただけでございますか?ムシュマッヘーの奴もいたんじゃないですか?」

 ムシュマッヘー?新たな単語が現れた、名前的にムゥ関係ではあるのだろうが。


「ああ、あいつも確かにここにおったな、ネズミや冒険者になにやら吹き込んでやってるようだったが。」

「やっぱり…。」

 ムゥの顔が強張っているのが見えた。


「我があのハイドラの成長を待っている間いろいろ小細工をしていたのだが、しばらく前に面白そうなのを見つけたと全部放り投げて居なくなったな。」

「あのゴミクソ、何を企んでいるのか…。」

 聞いた感じあまりいい印象は抱かないがムゥがものすごく嫌っているのはすぐにわかった。


「ムシュマッヘー?いったい何を話してるんだ?」

 辛い体を動かし、ゼルに支えてもらいながらムゥに聞いてみる。


「あたくし達の兄妹の一人でものすごく性格悪いゴミでございます、たぶんネズミに筋肉ダルマの強化を教えたのもゴーレムに人体を接続させる方法を教えたのもアイツの仕業でございますよ。」

「それはそれは、いい性格してるね…。」

 生贄を捧げて一個体を強化していく魔法、人体と無機物の接続、聞いてるだけでロクなことしていない。


「ムシュフシュよ、お主はタカユキを強くしてどうするつもりだ?こやつが…。」

 そうウガルルムが言いかけたところでムゥが睨みつけて言葉を止めてしまった。


「フッ、まあいい、我も協力してやろう。」

 何を言っているかわからなかったが、急にウガルルムが指を立てそこに光がポウっと灯った、それを眺めているとその光が俺目掛けて急に飛んできたのだ。


「ちょ!?なに!?」

 その光は俺の体の中に入ってきたようだが何も感じない、急に動こうとしたせいで体中が痛むくらいだった。


「安心しろ、今後お前が強くなれるように少し協力しただけだ。」 

「ウガルルム、どういうつもりなのですか?ご主人はあたくしのでございますよ?」

「なに、興味が湧いたのでな、我の腕を奪った褒美とでも思っておけ。」

 そう言うとにやりとこっちを見て笑ってくる。


「もちろんあの魔剣トルナードもくれてやる、有意義に使うがいい。」

 正直、魔剣を貰えるのはありがたいが意図がわからない、どういうつもりなのだろうか…。


「そしてさらに腕を磨き強くなった時、再び我と戦うのだ!その時を楽しみにしておるぞ、タカユキ!!」

 とってもシンプルに強くなって再戦をしろということだった…。


「それでは我は目的も無くなったことだし去るとしよう、貴様らとの闘争とても有意義だった。」

「あたくしはもう会いたくないでございますよ!!」

「フハハハハ!!それではまた会おう、さらばだ!!」

 そう言うとウガルルムは振り向き歩き出したと思うと次第に影に飲まれて行き姿を消すのであった。


「何だったんだよ…。」

「ああいう奴なのでございますよ、ウガルルムは…。」

 そう言うとムゥは俺のところまで歩み寄ってくる。


「とりあえずご主人、リジェネレーション系ですがヒールしますね、まったく動けないは洒落にならないので!」

「お願いします…。」

 そう言うと俺に手をあててムゥは魔法を発動し始めたみたいで、なんとも言えないが痛みが和らぐ気はした。


「あたしは親父の方を見てくるな。」

「ロゼッタ、大丈夫だとは思うけど気を付けてね。」

「ああ、わかってる。じゃあ行ってくる!」

 やはりタルタロスの中の親父さんが気になっていたらしくロゼッタはたったと走っていってしまった。


「ご主人は自分の体を心配してくださいませ、さすがにすぐには治りませんよ?」

「わかってますよ…ゼル、重くない?」

 ありがたいことにゼルは戦闘が一段落してからずっと俺のことを膝枕してくれているのだ。


「うん、平気…やりたいからやってるだけだし。」

 正直助かっているのでお言葉に甘えることにする。


「ご主人幸せそうでございますね…。」

 ムゥの視線はちょっと痛かった。


「筋肉が断裂してる部分がございます、一応魔法で直ぐに動けるくらいにはなると思いますが無理はできないですね。」

「確かにさっきのは無理したって感じだよなぁ…。」

「牙が刺さってたとこは骨にヒビも入ってるかもしれませんし下手なことはしない方がいいのでございます。」

「タカユキ、さっき紫色のオーラみたいなの纏ってすごかったもんね…。」

「気絶した時に何かが…力をくれるみたいなこと言うから、それを借りて…立ちあが、って…。」

 限界がきたのか俺の意識は次第に暗闇に飲まれて行きそのまま寝息をたて始めてしまった。


「寝ちゃいましたね、無理もないです。ゼル様すみませんが少しそのまま寝かせてあげてください。」

「うん、そのつもり…。」

 そう言うとゼルはムゥに向かって微笑みかけた。


「さてと、とりあえずご主人は大丈夫そうですし、投げまくった武器とか拾ってきますね~。」

 ムゥはトコトコと周囲に散らばった武器の回収しに向かった。


「タカユキ、お疲れさま…ちょっとだけだけどゆっくり休んでね。」

 ゼルはそっとタカユキの額を撫でながらひと時の休息をとるのであった。

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