第41話 力の片鱗
「よかった、無事だったんだな!」
ロゼッタがそれを見て安心したように笑顔がこぼれた。
「皆、ありがとう…心配かけたね。」
俺は全員の無事な姿を確認して安堵のため息を漏らしつつ正面に向き直る。装備はボロボロになりすでに無いようなものだが力が溢れてくる、負ける気は全くしないのだ。
「待たせたね、もう一度いかせてもらうよ!!」
ディスペリオンを正面に構え、ハイドラとウガルルムを睨みつける。
「起き上がってきたか、ならば再び相手をしてやろう…来るがよい!!」
体から力が溢れてくる感覚を感じながらウガルルムに向かい全力で踏み込んでいく。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
「なぬ!?」
一気に懐に飛び込み一閃を撃ち込む、ウガルルムの反応を超えた一撃は奴の胸を浅くではあったが確実に斬りつけた。
「驚いた、まさか我が斬られるとは…。」
ウガルルムは俺の一撃が完全に捉える前ギリギリで距離を取り回避してきたのだ。
「まだ、これからだよ…こんなところで皆を失うわけにも負けるわけにもいかないからっ!!」
「ぬぅ!?」
俺は体がバチバチと電気が走るような感覚を感じ、それが強くなればなるほどより強く、早く動けるようになっていく気がする。
「なぁ、タカユキの体からなんか出てないか?」
「紫色のオーラと雷のような魔力が溢れ出てるような感じがする…。」
「本人が気づいているかわかりませんが目の色も金色になって明らかに何かあったって感じでございますね。」
ウガルルムと斬り結ぶタカユキは明らかにさっきまでとは状態が違っていた、魔力が溢れているように紫のオーラが体からにじみ出てバチバチと紫電が走っている。
なによりあのウガルルムを押し返す程の力と速度で剣をぶつけ合っているのだ。
「ギシャーーー!」
立ち直ったハイドラがその怒りをタカユキに向けながら歩み寄っていき、戦っている二人目掛けて思いっきり尻尾を叩きつけに行く。
「「邪魔をするな!!」」
ウガルルムと俺の剣が同時にハイドラの尻尾目掛けて振り下ろされ、ズバッと音を立てて尾が両断された。
「シャーーーー!?」
ハイドラの悲鳴のような鳴き声と共に尾を斬り落とされバランスを崩しその場に倒れ込んだ。
「まさかこれ程の力をまだ隠していたとは!楽しいのぅ!楽しいのぅ!!」
ウガルルムは嬉しそうに俺に剣を振り下ろしてくる、俺はそれを避けながらグレイプニルを再び飛ばす、今度は地面に落ちていたドボルガッシュをカチャンと掴み俺の元へと運んでいく。
「くらえぇぇぇ!」
俺はそのままドボルガッシュを左手で受け取り遠心力を利用してそのままくるりと回転しながらウガルルムを殴りつける。
「なんのぉ!!」
剣でその一撃を受け止め、そのままウガルルムは戦槌を弾き返してくる。
「くっそ!?」
そのまま距離を取ると、今度はハイドラの頭がこっちへ向かって飛んで来る。
「ジオプレート!!」
俺はドボルガッシュをその場に落とし、大口を開けて迫って来るハイドラの口の中にジオプレート叩き込みつっかえ棒のようにし、閉じれないようにしてしまう。
「お前はもう寝てろ!!」
口の中か剣をハイドラの脳天目掛けて突き立てた、口の中は表ほど硬くはなくすんなりと剣は脳髄を貫き、ダメ押しに突き立てた剣をグリっとひねりその頭に止めをさした。
「フハハハハハ!!」
笑いながらその場に飛び込んでくるウガルルムを飛び退き回避して再び剣を構えなおす。
「滾るのう!楽しいのう!!」
「うるせぇよ、お前もいい加減にしろ!!」
ガキン!ガキン!と剣を撃ち合い斬り結ぶ、ウガルルムの動きははっきり見えているしこちらからも隙を突いて攻撃を仕掛けることもできている、しかし決定打が決まらない。
「ダメだ、二人が近すぎて狙いが定まらない。」
どうにか援護しようとしていたロゼッタだがウガルルムとタカユキが近すぎて狙えない状態になってしまっていた。
「私の方も今は難しいかも…。」
「あんな激しく動かれたらこちらとしても何もできませんね…。」
(それに、おそらくあの力、まだご主人には扱いきれないはず、早くしないと限界が…。)
ムゥ達は俺とウガルルムの戦いを眺めているしかない状態のようだった。
「はぁぁぁぁぁ!!」
剣を弾き、斬りつけ再び弾かれる。何度繰り返しても決着が着く気配がない、しかし俺の体には次第に変化が表れ始めた。
「ぐっ!」
体が、筋肉がビキビキと痙攣していくような、悲鳴をあげ始めているようだった。この状態はもう長くはもたない、限界が近づいていると言っているようだった。
「あたくしも行きます!もう一度4人で連携していきますよ!!」
「おう!」
「わかった!」
ムゥがそう言うと俺とウガルルムの間に入るように牽制してきた。
「ご主人、連携していきますよ!!」
「すまん、頼む!」
ムゥは俺の体が悲鳴をあげているのをわかっているような感じだった。それでも、チャンスは今だけだろう。
「行くぞ!!」
俺とムゥは交互にウガルルムに斬りかかる、仕返しの一撃を飛び退き回避するとロゼッタの銃撃が狙い撃つ。
「ボーンパンチ!」
怯んだ一瞬を狙いゼルの重い一撃が飛び込んでくる。
「うぉぉぉぉ!!!」
ザシュンとゼルの巨大な骨の拳が斬り飛ばされそれでもなお決定打が決まらなかった。
「しぶとすぎるのでございます!!」
「ムゥ!もう一度!!」
俺はムゥにもう一度攻撃を仕掛けること伝え再び飛び込んだ。ディスペリオンのお陰でウガルルムの魔剣の能力を撃ち消しながら戦えている、体の限界も近づいているもうチャンスも時間も無いのだ。
「いけぇ!!」
俺は正面から全力の一撃を振り下ろす、ウガルルムはそれを二刀剣で受け止め力と力のぶつかり合いをして競り合っている。
「隙ありでございますよ!」
その瞬間に後ろに回り込んだムゥが斬りつける。
「なんのおぉぉ!!」
ウガルルムは俺の攻撃を左腕で反らしながら右腕を振るいムゥの一撃を斬りはらう。
「ムゥ!鉈!!」
「はいでございます!」
受け流される瞬間剣を手放しムゥから鉈を受け取りバランスを崩しながら再び斬りつける。
「ぐぉぉぉ!」
一撃は浅いが鉈はウガルルムの左腕を捉えた。しかし力が入らず肉を斬るにとどまってしまった。
「くっそ!!」
間髪入れずにバスン!バスン!とロゼッタの牽制が入りその隙に距離を取って体制を立て直す。
「ムゥ、ハンマーをっ」
「は、はい!?」
小声で隣に来たムゥにお願いしをし再び俺はウガルルムに向かって走り出す。
「ゼル!!」
「ボーンプレス!!」
ウガルルムに骨巨人の両手が飛んで行く、左右から飛んで来る骨の腕を受け止めた瞬間の隙を見逃さなかった、ここしかない!!
「くらえぇ!!」
俺はその瞬間にウガルルムに飛び込み奴の左腕に鉈を叩き込んだ!だがやはり骨まで届かないっ。
「ムゥ!!!」
「了解でございます!!」
投げ渡されたドボルガッシュを両手で受け止めそのままウガルルムの左腕に刺さったスカルチョッパーに全力で叩き込む!!
「ぐあぁぁぁぁ!?」
ウガルルムの苦しそうな叫び声を初めて聞いたかもしれない、ドボルガッシュの衝撃の力を楔となった鉈に全力で叩きこむことで左腕をもぎ取ることに成功したのだ。
「タカユキ危ない!!」
しかしその拍子にズレた骨巨人の腕がウガルルムの正面に居た俺にも激突してしまった。
「ぐあっくはっ!」
ウガルルムと共に俺は骨ビンタで吹き飛ばされてしまった。
「タカユキ!?」
「ご主人!?」
「ちょっ大丈夫かよ!?」
ドサっと転がり倒れ込む俺のとこに3人は寄ってきた。
「いっ痛っ…。」
「ご主人無茶しすぎです、攻撃食らうの前提の特攻はよくないのでございます。」
「お願いだから無茶しないでっ!」
ゼルに抱え起こされながら怒られてしまった。
「ごめん、でもこうするしか…思いつかなくて…。」
「実際あいつの左腕を持って行ったしな。」
「一歩間違えればご主人死んでましたけどね…。」
「ごめんって…。」
「立てる?」
体がズキズキ痛む、全身の筋肉もビキビキと痙攣し悲鳴をあげている感じがする。
「大丈夫…どうにかっ。」
ゼルに支えられながらどうにか立ち上がる。
「ギシャーーーーー!!!」
その時だった、怒り狂ったハイドラの最後の一頭がこちらに飛び込んできたのだ。
「ゼル!!」
「タカユキ!?」
俺はゼルを突き飛ばし助けることはできたが代わりにその巨大な口の中に囚われてしまった。
「うっ!?」
生臭い匂い、鋭い牙、どうにか飲み込まれないように両手で牙を握り両足で踏ん張り耐えている、しかし奥に隠れていた鋭い牙がぬらりと現れ肩に突き刺さってくる。
「がっくそっ…!」
体も限界が近い、ビキビキと筋肉が悲鳴をあげている、どうにかしないとこのまま飲み込まれてしまう。
「ご主人!!」
「タカユキ!!」
どうにか飲み込もうとハイドラも頭をブンブンと振り回してくる、本当にヤバイ!!俺はどうにかしようと必死に考えるが今は手元に武器すら何もない万事休すか…。
キラン。
振り回される中何か光るものが目の隅に飛び込んできた、俺は起死回生をかけてその光にグレイプニルを飛ばす。
「ぐあぁ!」
左腕を放したことで牙がさらに突き刺さるのを耐えながら必死にその光を手繰り寄せた。
「これは!?」
左手が握りしめた希望、それは一振りの緑色の剣だった。ディスペリオンよりも深く濃い緑色していたその剣はウガルルムが振るっていた魔剣、俺が斬り落とした左腕で握っていた魔剣だった。
「頼む、魔剣よ…力を貸してくれ…こんなところでっ死ぬわけにはいかないんだっ!!」
そう言いながら魔剣に残った力全てを注ぎ込む、すると魔剣の力、そして名前が頭の中に流れ込んでくる、俺は剣をハイドラの口の中に向けてその名前を力いっぱい叫んだ。
「暴風よ荒れ狂え、トルナードォォ!!!」
その瞬間、魔剣からハイドラの口の中に向けて激しい竜巻が吹き荒れる。
「ーーーーッ!!!」
ブチブチブチっと音を立て、声にならない悲鳴をあげながらハイドラの喉はズタズタに引き裂かれて行く。
暴風が口の中を駆け巡りグワングワンと動き回っていた頭はやがて力尽き、ドスンと音を立てて地面へと崩れ落ち、俺もごろんと口の中から解放されたのであった。
「タカユキ!!」
「ご主人!」
「無事か!?」
ゼル達3人が慌てて駆け寄ってくる。
「俺、生きてる…よな…?」
「生きてますよ!」
「勝ったよ…。」
俺は3人に向けて力を振り絞り、親指を立てて見せるのであった。
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