第36話 白い鱗と力の魔人
俺達は筋肉ネズミのであろう雄叫びに向かい駆けだした。
「見えてきた、やっぱり筋肉ネズミか!」
正面に毛の無い筋肉が異常に肥大化したネズミを捉えた。
「ちょっとまって!何かおかしいかも!?」
ネズミは何かを見つめるようにし、一歩も動く気配がなかったのだ。
「様子を見よう、絶対何かがおかしい…。」
俺達は近くの物陰に隠れてネズミを注視した。
「まるで何かと対峙しているみたいでございますね。」
様子を見ているとグガァーと雄叫びを上げ威嚇しながら一歩、また一歩と後ずさりを始めた。
「なっ!?」
次の瞬間だった、筋肉ネズミの頭目掛けて巨大な白い蛇の頭がすごい勢いで飛んできたのだ。
「蛇?しかもあのネズミを頭から咥えるとかデカい…。」
驚いたのはその蛇の頭が一つではなかったのだ頭を一匹目が加えた次の瞬間右腕、左腕と計3つの蛇の頭がネズミに齧りつきそのまま持ち上げて引き裂きながら飲み込んでいったのだ。
「あんなデカい蛇が3匹も居るのかよ…。」
「違いますよご主人、よく見てください。」
蛇は首を動かしネズミを飲み込みながらズルりとその体を俺達の前にさらけ出した。
「三つ首の蛇?でも足がある…。」
「ハイドラでございます、白い鱗は珍しいですけど一応ドラゴンの一種でございますよ。」
その蛇は白い鱗に三つの頭、鋭く太い前足に後ろ足、立派な胴に長い尾を持つ巨大な怪物その物だった。
「アルビノハイドラって感じかな、下層にあんなのが居たらそりゃ上層に上がってくるよなぁ…。」
「中層で見た皮の持ち主もあれでございましょうね、ネズミなんていい餌でございます。」
「ねぇ、なんか頭こっち向いてない?」
「え…。」
ハイドラを見ると明らかにこっちを見つめているような感じがする。
「確か蛇にはピット器官とかいう熱を感知する器官があったような…。」
つまり、物陰に隠れていても向こうからは丸見えということだった。
「ヤバいのでございます、もうロックオンしているのでございます…。」
「逃げ切れると思う?」
「どうでしょう?相手のお腹次第かと?」
あのまま帰ってくれればいいのだが、正直戦いたくはない相手だ…。
「誰かと思えば、ムシュフシュではないか…。」
急に真横から何かに話しかけられた、俺達は不意に驚きつつそっちを向いた。そこには2メートルは越えているだろう、金色の鬣をなびかせた獅子の頭を持つガタイのいい男が立っていた。
「あんたは…ウガルルム…なんであんたがこんなとこに居るのでございますか…。」
どうやらムゥの旧知の中らしいがあまり仲は良くなさそうだった。
「我の狙いはあのハイドラだ、至高の戦いを楽しみたく成長を待っていたのだ…。」
「この脳筋が!!そんな戦いたいなら今戦ってくださいよ!!」
ごもっともだ、正直蛇にロックオンされて大変まずい状態だがこのライオンが戦ってくれるなら願ったり叶ったりだ。
「確かにそろそろいい時期だと思っていたが、ここにムシュフシュが来たのならさらに楽しめそうなことを思いついた…。」
すごくやな予感がする…。
「我の名はウガルルム、ティアマトーの子にして最も強き力を示すもの!!さぁ!我との闘争存分に楽しもうぞ!!!」
そう叫ぶとウガルルムは両腰の枠のような装備から二本の剣を抜刀し、その叫び声に反応するように様子を見ていたハイドラが勢いよくこっちに向かって駆けだした。
「あぁ、もうこの戦闘馬鹿がぁ!!!!」
ムゥの嘆きの悲鳴がこだまする。
「とにかくゼル、ロゼッタは下がって!」
どうにかしなければ、突然現れた明らかに戦闘狂の獣人に興奮している巨大なハイドラ、一目見ればわかる最悪の状況だった。
「このくそっ!」
ウガルルムは正面から飛び掛かってくる、俺はそれをディスペリオンを抜刀してどうにか受け流す。
「貴様がムシュフシュの選んだ器か?試してやるからかかってくるがいい!!」
「何言ってるかわかんねぇよ!!状況災厄にしやがって!!」
ガン、ガキンと剣をぶつけ合っていると音に誘われるようにハイドラの頭が迫って来る。
「フハハハ!!やはり戦いは乱戦よ!!周りには敵しかいない!!これほど血の滾ることはない!!」
「マジのバトルマニアじゃん!!」
さっきまで剣を撃ち合っていた場所にハイドラの頭が勢いよく飛んで来る。俺とウガルルムは同時に飛び退き回避するがドスンという音と共に土煙が舞い上がった。
「ムゥ、スクロールを!」
「はい!」
ムゥからスクロールを1枚受け取りそのまま開いて即発動させる。
「パウダーダスト!!ジオプレート!!」
瞬間、粉塵が正面にばら撒かれる。俺とムゥはジオプレートでゼルとロゼッタは距離がある大丈夫だ。
「ムゥ、頼む!」
「了解です!!」
ジオプレートの向こう側、粉塵がばら撒かれた場所に向けてムゥが火炎弾を投げ込んだ。
ズドーンという爆音と共に爆風が吹き荒れる、これでどっちも吹き飛んでくれればありがたいのだが…。
「フハハ、この程度どうということはない!!」
少しはダメージを受けているのだろうが爆煙を振り払いながらウガルルムが現れ、キシャーと雄叫びを上げながらハイドラの頭も爆煙から起き上がった、こちらも健在だ。
「しぶとい!しかもうるさい!」
ジオプレートを収納し爆煙の中に身を隠す、しかしハイドラの頭が場所はわかっているというように真っすぐに飛んで来る。
「くっそ!?」
ギリギリで突撃を躱して頭の付け根に思いっきり剣を振り下ろす。
「かったいっ!?」
ディスペリオンは最高クラスの聖剣だ、しかしガキンと音を立ててハイドラの鱗に弾かれてしまった。
「そんなに隙を見せているとすぐに死んでしますぞ!」
体制が崩れたタイミングでウガルルムが爆煙を突き破り飛び出してくる、咄嗟に左腕でライボルザード呼び出して攻撃を受け止めるがもう片方の剣が間に合わない!
「この戦闘狂が!少しは自重しやがれでございます!!」
ギリギリでムゥが割り込みガシャンと音を立ててもう片方の剣を鉈で受け止めてくれた。
「ムゥ、たすかったよ!」
俺は両手の塞がったウガルルムに自由な右腕で剣を突き立てようとした。
「トルナードォォ!!!」
ウガルルムが叫ぶと左腕で持っている緑色の剣が突然風を巻き上げ竜巻を作り出し俺とムゥはそれに巻き込まれて吹き飛ばされてしまった。
「うわぁぁぁ!?」
吹き飛ばされ、どうにか転がり体制を立て直そうとするがすかさず蛇の頭が飛んで来る。直撃を覚悟したその時、目の前に白い壁のような物が現れた。
「スカルジャイアント!!」
それはゼルの死霊魔法で召喚された骨の巨人だった。蛇の頭を受け止め、そのまま押さえ付けてくれている。
「タカユキ、今のうちにっ…!」
俺は態勢を立て直し、剣を納刀して骨の巨人を駆けのぼり押さえ付けられてる蛇の頭に飛び乗った。
「鱗が硬くてもここは弱いよな!!」
そのまま目にライボルザードを突き立てた。
予想通り目はそこまで硬くはないらしく刃は深く貫いた、ギシャーーーーー!!と悲鳴のような雄叫びを上げ束縛から逃れようとくねくね暴れだした。
「我を放置されては困るのだ!!」
「今それどころじゃねぇよ!!」
どうにか目から脳を狙いたい、だがウガルルムが迫って来る。
「ボーンアーム!!ムゥちゃんお願い!!」
「お任せを!!」
少し離れた場所に大きな骨の腕が現れ、何かを放り投げた。ムゥだ!
「アンタは邪魔するんじゃねぇでございます!!」
「ぐおっ!?」
ムゥは勢いよく飛んできて特撮ヒーローの必殺技よろしく鋭いキックをウガルルムの脇腹に直撃させ吹き飛ばした。
「ナイスキック!」
今のうちに脳に致命傷を与えようと力を込める。
「ご主人危ないのでございます!」
声に反応しすぐさま槍を引き抜きその場を飛び退く。次の瞬間別の頭がさっきまで自分が居た場所を掠めていった…。
「めちゃくちゃだな、くそっ!」
蛇の頭はそのままゼルの骨巨人に距離を詰め前足を引っ掛けて掴まれている頭以外の2頭でドスンドスンと頭突きで破壊しようとしていた。
「ダメっ…崩れるっ!!」
ゼルの辛そうな声が聞こえた、次の瞬間骨巨人のあばら骨がバキンと音を立てて砕けハイドラの体重に押し負けていった。
「「「グギシャーーーーーー!!!」」」
3つの頭はそれぞれが雄叫びを上げ勝ち誇っているようだった。
「やるではないか、だがまだこれからだ!!」
そう叫ぶウガルルムが再び立ち上がり今度はハイドラの右端の頭に飛び乗りそのまま二振りの剣で思いっきり斬りつける。
「フンッ!!」
力を込めると蛇の頭に十字の傷が入り血が噴き出す。とんでもない馬鹿力だ…。
ギシャーー!と痛そうな悲鳴を上げる頭を守るように他二つの頭もウガルルムを襲いだす。
「フハハハハ!!そうだもっと猛り狂うのだ!!」
嬉しそうにウガルルムは襲ってくる頭を蹴り飛ばし今度はこっちを向いて思いっきり飛んで来る。
「この野郎!!」
俺は槍を構え、雷撃を放出しながらそれを受け止める!バチバチと音を立てながら自分の体が衝撃に地面にめり込む感触を感じる。
「まだ、いける!!」
ゼルは崩れかけた骨巨人の両手を伸ばし、左端の頭を再び捕まえ押さえ付ける。
グギャーーーと怒り狂ったハイドラは骨巨人と腕に噛みつき今度こそ完全に破壊しようと攻撃を仕掛け始めた。
「暴風よぉぉ!!!」
「雷撃ぃぃぃ!!!」
俺とウガルルムの魔槍と魔剣の効果で周りは暴風と雷撃が吹き荒れる、少しでも気を抜くとすぐに押しつぶされそうなほど圧倒的な力だ…。
「いいぞ…いいぞ!!もっと我を楽しませてくれ!!」
そう言うと右手の剣から炎が燃え上がりバチバチと火花を飛ばし暴風と合わさり炎の竜巻となり始めた、まずいっ!?
「うおぉぉぉぉ!!」
俺は無理矢理左腕のガントレットシールドを競り合っている槍と剣の間に食い込ませて角度をずらし先ほどムゥが決めた脇腹に思いっきり蹴りを入れる。
「ぐぅっ!?」
ウガルルムが怯んだ一瞬の隙に飛び退き距離を取る、次の瞬間ウガルルムの周りで炎の竜巻が舞い上がり凄まじい音と共に爆発を起こした。
「ご主人大丈夫ですか!?」
「あの馬鹿力なんなんだよっ。」
吹き飛びつつどうにか距離を取り膝をついて爆風の方を見つめた。
「タカユキ、スカルジャイアントが完全に壊された、来るよっ!!」
ゼルの叫び声に正面を見据えると煙を引き裂き、左からハイドラが右からウガルルムが迫って来る!
「くっそ!!」
完全に対応しきれない、やられると思った次の瞬間、何かが自分たちを飛び越えハイドラに突っ込んでいくのが見えたのだった。
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