第35話 下層、眠る鉄巨人
通路を抜けて下層に到着した俺達はまず周りを松明で照らして確認してみる。
「ご主人、足跡がありますよ、たぶんあの肉ダルマのかと。」
ムゥに呼ばれて足元を照らしてみると、そこには大型の獣の肥大化した4本指のような足跡が残っていた。
「最後の一匹はこっちに来てると考えて良さそうだね…皆気を付けて。」
そのまま足跡を追ってみると急に横を向きバタバタと動き回った形跡が現れた。
「これは、いったい…。」
松明で照らしながら周りを見渡すと少し離れた場所にギギ…ギギギと音を立てながら擱座しているゴーレムがあった。
「このゴーレムまだ動いているのか?」
「筋肉ネズミと交戦したみたい…装甲がベコって凹んでる。」
ゴーレムはどうにか立ち上がろうとしているようだったがダメージが大きいのかもうまともに動けないようだった。
「どいてくれ、ちょっと調べてみる。」
ロゼッタがそう言いながら動けないゴーレムを観察しながらゆっくり触りだした。
「ロゼッタ気を付けて、まだ動けるなら襲ってくる可能性も…。」
「大丈夫だ、多分攻撃の衝撃かなんかで関節の駆動系がいっちまったらしくてもうまともに動けないだろうよ。」
そう言いながらガチャガチャと何かを外し始めた。
「せっかく生きてるんだ、中身がどうなってるか見させてもらおうぜ。」
ロゼッタは胴体部分の装甲に手を掛けてガコンと音を立てながら外していった。
「は…?なんだよこれ…なんの冗談だよ…ふざけんな!」
「ロゼッタ?どうしたんだ…っ!?」
中身を見て絶句しているロゼッタに気づき、一緒にそこを覗くと言葉を失った…。
なんと、ゴーレムの中にはドワーフの男性であろう人物が中央に埋め込まれて様々なケーブルのような物が繋がれていたのだった。
「生きている…のか?」
「…。」
ショックだったのだろう、ロゼッタは沈黙し、しばらくしてから口を開いた。
「人としては、死んでいると言っていいと思う…ただ人の持つエーテル循環機能をそのままゴーレムの心臓部として移植されているんだ…。」
「生きたままゴーレムのパーツにされているってことなのか?」
ロゼッタが静かに頷いた。
「だいぶ時間が経っているから生体部分ももちろん劣化していて元々まともに動けている状態ではなかったとは思うんだが…。」
「人としては死んでいるが生物としては生きていると?」
「あぁ…人としては死んでいる、けどゴーレムの機構と繋がったせいで体はパーツとして生かされ続けている感じだ…。」
趣味が悪い事実だった…人を機械のパーツにしている映像作品は見たことあるが、実際に本物を見せられるとなんとも言えない嫌悪感を感じた。
「とりあえず、ギルドカードは回収できそうだし、せめてこれだけでも…。」
俺は配線ケーブルの中にちらりと見えたカードを回収し、遠くを見つめた。
「先に行こう、ここでこの人を悲しんでいても何も解決しないし、これをやりだした犯人も居るということになる…。」
「せめて機能は止めさせてくれ、ちゃんと死なせてやりたいんだ…。」
俺はロゼッタに頷き、作業が終わるのを待った。
「とりあえず、暴走中の筋肉ネズミ、ゴーレムに人を移植した何者かがこの先に居る可能性がある、気を付けよう。」
そうして下層を進んで行くと、まだ起動しているゴーレムがちらほらと目に入ってきた。
「あれらも、もしかして…。」
「可能性はある…が下手に刺激して敵対行動をとられるのも得策ではないだろう。」
「無駄な消耗は好ましくないのでございます。」
ガタン、ガタンと今にも倒れそうな危なげな動きをしているゴーレムたちを避けながら俺達は先を進む。
「ちょっと待って…。」
俺はしばらく歩いたところで皆の止めた。
「どうかしました?」
「何か聞こえない?こう、なんかカンカンって金属を叩くような…。」
右の方だろうか、遠くから金属を叩くような音が響いてくるのだ。
「確かに聞こえる…ゴーレムの駆動音とは全然ちがうな…。」
「ならそちらに行ってみましょう、誰かいるかもしれませんし。」
俺達は音の方へとゆっくりと周りを警戒しながら進んで行った。
「なんか、ここ…マイナーエーテルが充満してる…皆気を付けて…。」
黙っていたゼルがここに来てからマイナーエーテルの量が増えてることを告げてきた。
「アンデッドとかいそう?」
「ううん、アンデッドになるようなモノが無いせいかそれは大丈夫、ただすごい量のエーテルを消耗してるみたい…。」
アンデッドになるようなモノ、つまり生物が居ないということなのだろう。
「わかった、ゼルありがとう、またなんか気づいたら教えて。」
「うん、わかった!」
ネクロマンサーのゼルの感覚は俺達には感じとれないところだ、それを教えてくれるのはとてもありがたい。
「ご主人、あれじゃないですか?」
ふとムゥに呼ばれて、そっちを見ると5~8メートルはあるのだろう巨大なゴーレムが膝をつき両手で体を支えるように擱座していた。
「デカいなあれ、動くのか?」
「わかんないが、あのゴーレムの下から明かりが見えるぜ…。」
ゴーレムの下に目をやるとそこは何かが光っているようで明るくなっているようだった。
「行ってみよう。」
俺達はゴーレムの足元に身長に近づいていく、壁がありそこに背を付けながらこっそり覗き込むとそこには髭を蓄えたドワーフであろう男が何かを作っているようだった。
「なんだこれ…。」
様子をうかがっているとバッとロゼッタがその男が作業している場所に急に飛び出した。
「ロゼッタ!?」
「こんなとこで、なにしてやがんだ!親父!!!」
飛び出したロゼッタは男に向かってそう叫んだ。
「…。」
「なんとか言えよおやじ!!」
「ロゼッタまって、様子がおかしい…。」
よくよく観察してみるとロゼッタの親父と思われる男の背中には巨大ゴーレムから垂れているケーブルが接続されており、下半身もケーブルに飲み込まれてゴーレムに繋がっているようだった。
「親父…なんで…誰がこんな…。」
明らかにショックを受けているロゼッタを見向きもせず男は何か作業を続けていた。
「…サ…。」
「え?」
「作業工程5番、終了…6番ニ移行…。」
そう言うと男はズルりとケーブルに引っ張られるように移動し巨大なクリスタルから黒いドロっとした液体を抽出し始めた。
「ムゥ、あれはわかる?」
「たぶん大結晶からダークマターを生成しているのかと、ミスリルなどの修理に使われる貴重な物質でございますよ。」
ムゥに小声で聞き何をしているか教えてもらった。
「ダークマター抽出…固形化開始…。」
抽出した液体をさらにズルっと移動して何かの型に流し込み、圧縮しているようだった。
「損傷修理素材生成完了…7…7番ニ、イ、イコ…。」
黒いインゴットと言うのだろうか黒い長方形の形をした金属を取り出したところで様子が変わった。
「エラー発生…工程再確認…5番より再実行…。」
作った黒い金属をその場に捨て、男はまたズルりと移動しなにか金属を作り出した。
「ロゼッタ…。」
ロゼッタはその状態を見て唖然と立ち尽くしているだけだった。
「ムゥは何してんだよ…。」
「ダークマターは貴重でございますので捨てるのであれば貰っちゃおうかと?」
「お前なぁ…。」
そう言いながらムゥのいるさっき黒い金属を捨てていた場所に行き俺は驚いた。
「ちょ、これ全部ダークマターなのか?」
そこには今まで作りだされたのであろうダークマターのインゴットが山のように捨てられていたのだ。
「たぶんさっき言ってた工程でエラーが出て同じことを無限に繰り返しているのかと。」
「笑えねぇ…。」
「これはいいものですので全部頂いちゃうのでございます!」
そう言うとムゥがポンポンとそのインゴットを回収していった。
「ロゼッタ、大丈夫か?」
「あ、あぁ大丈夫…だ。」
父親の悲惨な姿を見てしまったのだ、無理もないだろう。
「タカユキ、これ見て…。」
ゼルがそう言いながら一冊の本を持ってきた。
「これは、日記?ダナン・ブロッサ…。」
「ダナン?親父の日記だ…!」
俺達はゼルが拾ってきた日記を開いてみた。
(今日、遺跡の最下層に到着した、驚いたことにまだ生きていて稼働しているゴーレムが何機か残っていた。調査を開始しよう。)
(後日、超大型のゴーレムを発見した、名称はタルタロスというらしい。破損しているのか擱座している、この機体を中心に調査を始めようと思う。)
(驚いた、タルタロスは死んでいなかったのだ!これなら修理できるかもしれない!!こいつを持って帰れば大発見になるぞ!!)
(今日、仲間がラットマンにやられてしまった、毛が無くなり筋肉が肥大化した異常個体のようだった、稼働中のゴーレムに誘導しどうにか逃げ切ることに成功した、
しかしこいつはもう助からない…。)
(悪魔に出会った、姿は少女のようだったが持ち掛けた話の内容が悪魔そのものだった…ゴーレムにやられた仲間を繋ぎ無理矢理延命させる方法を教えられた。)
(ワシは悪魔との取引に乗ってしまった…、仲間を助けるためにゴーレムに接続した、必ず助ける…タルタロス復活までもうしばらく待ってくれ…。)
どうやら最初に見た人を繋げたゴーレムはロゼッタの父親が作ってらしい。
「親父…。」
「続けるね…。」
ゼルがペラペラと日記をめくっていく。
(なんだあいつは!?あんな化け物が居るなんて聞いていない、仲間達が次々飲み込まれていく!まずい、このままでは全滅してしまう。俺は必死に逃げた。)
(仲間はあいつに皆やられてしまった…どうすればいいのかわからなかった…その時に悪魔の少女がまたやってきた…。)
(もう、このタルタロスを何としても修復してあいつを倒して皆を連れて帰るのだ、少女は言ったあれを倒せば皆助けられると…何をしてもタルタロスを復活させる!!)
(食料も付きかけている、だがダークマターを生成できる大結晶もある、これならタルタロスを復元できる、絶対できるんだ。)
(もう少し、もう少しなんだ…こうなったらワシ自身をタルタロスに接続して…。)
(ワシは何をしていた…なんでこんなことをしている…あぁロゼッタ、こんな姿は見せられない…修復作業ヲ再会シナケレバ…。)
(ロゼッタ…すまない…愛しているよ…。作業工程ニエラー発生…前提へ戻リ、再度開始ヲ…。)
「親父…どうしてっ…。」
「このゴーレム、見た感じ自体はもう動けるくらいには修復できておりますね。」
「ムゥ、今は…。」
「あら、失礼いたしました。」
そう言うとムゥは頭を下げた。
「いや、大丈夫だ…たぶん何らかの影響で工程が進まなくなってるだけで機体の修理はほぼほぼ終わってるだと思う…。」
「さすが名鍛冶師って感じだな。」
「あぁ、ありがとう…。」
ぎこちない話をしつつ、無視していたムゥが抱えているモノが流石に気になってしまった。
「ところでムゥ、それは?」
「かわいいサラマンダーでございます、妖精ですよ?」
「なんで抱きかかえてるんだよ…。」
顎を撫でられて気持ちよさそうにしたり実際可愛いが…。
「サラマンダーやノームはこの前会ったシルフと違って動くのがあまり好きじゃないのでございます、なので餌がある場所に留まる習性があるのでございます。」
「そうなのね、じゃあ食べるかな?」
俺は手をサラマンダーに掲げて魔力を流してみる。
「ちょ、うわ!?」
サラマンダーはこれでもかと言うくらいの火のクリスタルを生み出して見せた。
「気に入られたみたいでございますね。」
「それは何よりだよ…。」
俺は溢れたクリスタルをゼルと一緒に集めているとムゥが抱えてたサラマンダーを逃がして一緒に集め始めた。
「これだけ貰えればいろいろ大丈夫でございましょうね。」
「ロゼッタ、俺達はこの先を見てくるけどどおする?ここに残っても…。」
「いや、大丈夫だ一緒に行く…ただ、帰る時もう一度ここに寄らせてくれ、家族のケジメをつけさせてくれ…。」
「わかった、じゃあ火のクリスタルも分けるから今のうちに使えるようにしておいて。」
「了解だ…。」
そうして俺達は軽く準備を済ませて先を見に行くことにした。
「グアギャァァァァァ!!!!」
出発しようとした時のことだ、先の方から何かの鳴き声が響いてきたのだ。
「この雄叫びは筋肉ネズミか!?」
「行ってみよう!」
俺達は鳴き声の方へ向かい走り出したのだった。
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