第37話 起動、タルタロス!!
「とにかくゼル、ロゼッタは下がって!」
その声が聞こえゼルとロゼッタは距離を取りハイドラ、ウガルルムとの乱戦に突入するタカユキとムゥを眺めている。
「あれじゃ不利過ぎる…どうにかしないと…。」
「まかせて、ここはマイナーエーテルが多いから私の魔法も本領発揮できる…!」
それでも不安は残る、いくら強い二人が前に居ても形勢逆転を考えなければジリ貧になるのは目に見えている…。
「ゼル、少しここを任せていいか!?」
「え、うん、大丈夫!」
ロゼッタの急な一言に疑問を浮かべながらもゼルは信頼して前を向く。
「少し待っててくれ!!」
そう言うとロゼッタは今来た道を全速力で走り出した。
「親父!!」
ロゼッタは父親が永遠に作業しているタルタロスの元まで戻ったのだ。
「親父、頼む!!皆を助けてくれ!!こいつの力が今、必要なんだよ!!」
「作業工程…継続…継続…。」
「親父ぃ!!!」
ロゼッタは作業をする父親の胸ぐらを掴み思いっきり揺する。
「作業ヘノ障害ヲ…確認…エラー処理ヲ…。」
「いい加減に動いてくれよ!頼むよクソ親父!!」
ロゼッタはそのまま右手の拳で思いっきり父親の頬を殴り飛ばした。ガツンと鈍い音を立てながら壁に激突し項垂れたように頭をたれてしまった。
「親父…?」
「サ、サギョ…ガタガタうるせぇ…黙ってろっ!!」
そう叫ぶとゴツンとダナンは自分の頭を思いっきり殴りつけた。
「親父…意識が!?」
「ようロゼッタ…情けないとこ見せちまったな…。」
「親父ぃ!!」
ロゼッタはダナンにギュッと抱き着き、ダナンもそれを受け止めるように抱き締めた。
「しばらく見ない間に立派になりやがって…ロゼッタ、大きくなったな…。」
「こんなとこで何しんだよっ!クソ親父!!」
「悪かったな…。」
その一言に今までのすべてがこもっていた…。
「ロゼッタ、少し手伝え!こいつはまだ治ってねぇんだ。」
「わかってるよ、どうすればいい?」
「ワシはこのまま魔術回路の心臓部を直しに行く、お前は脚部の出力ポンプを頼む。」
そう言うと下半身に繋がったケーブル群に引っ張られるようにタルタロスの胸部へとダナンは上がっていった。
「任せな!」
ロゼッタは膝の部分へと向かい中のケーブルや骨格の点検を始めた。
「ロゼッタ、ダークマターの使い方はわかってるな?そこら辺に転がってるだろうからそれを使え!!」
「あいよ!」
地面を見るとダークマターのインゴットがゴロリと転がっていた、さすがにムゥは多くて全部の回収はできなかったらしい。
「補助フレームが折れてやがる…。」
ロゼッタはダークマターに魔力を流しながら折れた部分に擦り付けて行く。ダークマターは魔力に反応し、軟化して物質に接着していき結合した物質へと変化する特殊鋼材だ。
結合した物質へと変化する性質上希少なミスリルやアダマンの修理にも使える万能物質だが、単体では鉄や銅より脆く直接加工ができないなど欠点もあるが製法が特殊なため高額で取引される希少品なのだ。
「親父!こっちは大丈夫だ!!」
ロゼッタはダークマターを使い数か所あった破損部位の修復を終えた。
「こっちも終いだ。」
ダナンはそう言うとスルスルと下へ降りてきた。
「さてと、最後の仕上げの前にロゼッタ、受け取れ…。」
そう言うとダナンは自分の腰に巻いていた工具セットをロゼッタに手渡す。
「親父、これは…。」
「うちの先祖代々の機構技師工具だ、お前も鍛冶師をやりながら機工術の勉強してたんだろ?なら、受け取りな…。」
ロゼッタは押し付けられるように工具を渡された。
「あともう一つだ、そこの机の下にある黒いケースを開けてみろ。」
ダナンに言われるがままにロゼッタはそのケースを取り出した。
「これって…。」
ケースにはロゼッタへと書かれていた。
「正直、自分の手で渡してやれるとは思わなかったぜ…開けてみな。」
ロゼッタはケースを開ける、そこには長砲身のクリスタルキャリバー地球でいうМ24のような形の狙撃銃が入っていた。
「ロゼッタ18(エイティーン)ワシの最後の最高傑作だ、両サイドに2つずつあるユニットはそれぞれクリスタルを装填すれば推進と冷却の性能を高めている。」
銃を持ち上げ構えて確認しているロゼッタを見ながら続けてダナンは語る。
「マガジン式を採用していて8発装填できる、弾丸はお前のトライバレットと同系だ、連射できるが撃ちすぎるとオーバーヒートで術式が破損するから気を付けろ。」
「なぜあたしの名前を?」
ロゼッタはダナンに銃になぜ自分の名前をつけたのか気になっていた。
「この体になってもう戻れないことを覚悟した時、お前の顔が目に浮かんだ…せめて、誰かがここへ着てこれを見つけて、お前に届けてくれるのを願ってここに置いておいたんだ。」
「親父?」
「お前の成人祝いだ!まさか自分の手で渡せるとは思わなかったがな!!」
ダナンは小声で、もう思い残すことはない…と呟いた。
「親父、なんか言ったか?」
「いや?…さぁ!ロゼッタ最後の仕上げだ!ワシがこいつの魔術回路から直接操る、ワシが上に行ったらあの大結晶を破壊しろ!そのエーテルをコアにぶつけて強制起動させる。」
「そんなことして親父は大丈夫なのか?」
「それしか起動方法はねぇ!ワシは大丈夫だ!構わずやれ、仲間が待ってるんだろ?」
そう言いながらダナンはタルタロスの胸部へと登り、入っていった。
「…わかったよ!!」
ロゼッタはなぜか涙がこぼれるのを耐えながら貰った銃にクリスタルを装填し大結晶に狙いを定めた。
「いくぞ親父ぃぃ!!!」
ロゼッタは弾丸を大結晶へ撃ち込んだ、大結晶はバリーンと音を立てて砕け散った。
「タルタロス起動!!」
多量のエーテルを浴びたタルタロスはブーンと音を立てて起動し始めた。
胸部装甲が閉じギギギギと音を立ててゆっくりと立ち上がる、タルタロスの目に光が灯りロゼッタを見つめると親指を立てた。
「親父!あたしの仲間があっちで白い蛇の化け物と戦ってるんだ!助けてくれ!!」
ちゃんと聞こえたかはわからない、でも確かにタルタロスは今タカユキ達が戦っている方向を見据え一歩また一歩と前進し次第にガシャンガシャンと音を立てて走りだした。
ロゼッタはタルタロスを追いかけ走りだした、追いついたころには今にもやられそうなほど追い詰められていたタカユキを飛び越えハイドラに蹴り込む親父、タルタロスの姿が見えたのだった。
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