第32話 遺跡調査Ⅲ
しばらく歩いて行くと赤い旗のついたロープのようなもので通路が塞がれていた。
「ここから先は立ち入り禁止ってことかな?」
「そうだと思う、ここから先が中層になってるらしい。」
俺達はロープを超えて松明に火を灯して準備を始めた。
「ここからは松明の明かりだけが頼りだから気を付けて行こう。」
全員が頷き松明で照らしながら中層へ続く通路に足を踏み入れていった。
通路を抜けると空間が大きく広がっている場所に出た、ぱっと見た感じでは上層と変わらないボロボロの市街地という雰囲気だったが、奥の方に一際目立つ巨大な建物が薄っすら見えていた。
「まずはあれを目指してみよう、街中を漁ってもなにもでないだろうしね。」
「無駄なことはしないでさっさと大物を狙いに行くのでございますね。」
ムゥがノリノリで歩みだした。
「ゼル、足元気を付けてね。」
「うん、大丈夫…行こ。」
そうして巨大な建物を目指して進んで行った。
「ここは、何かの研究施設だったのかな?」
近づいてみると、そこは大きな門があり巨大な倉庫という印象の建物であった。
「とりあえず中の探索でございます~。」
ズズズズと重い音を立てて扉を開けて中を照らしてみるとそこにはなにか大きな物が無造作に転がっていた。
「なんだあれ?人型?」
近づいていくとずんぐりとした形をしているがしっかりと四肢があり頭のような部位もある人型のような金属の塊であった。
「たぶんこれ、古代ドワーフが使ってたアイアンゴーレムだと思う。」
ロゼッタの言葉になるほど、これがゴーレムなのかと感じた。
「あれ?でもゴーレムって魔法の人形でしょ?鉄って相性悪いんじゃ?」
そう、前にムゥに教えてもらったが鉄は魔法との相性が悪く上手く噛み合わないとのことだった。
「こいつはそれを逆手に取ったのさ、内部に魔導回路を通して鉄の装甲で外部の干渉を完全に遮断してインプットした命令だけを実行するルーティング人形なんだよ。」
命令されたことを無限に繰り返す鉄の人形、しかも外部からの干渉を一切受けないなら効率的な作業ができたのだろう。
「ここにあるのはもう中身がボロボロで使い物にならなそうでございますね。」
奥の方に転がっていたゴーレムを調べていたムゥが中身の千切れたコードのようなものを手に取りながら調べていた。
「なにか本とか書類みたいなのがあったら教えてくれ、俺なら読めるかもしれない。」
「それなら、ここにあったよ~…。」
ロゼッタの言葉にゼルが何かを見つけていたようで早速声を掛けていた。
「防衛用アイアンゴーレム試作型…設計図みたいだな、ジオプレート?っていう大型シールドを装備させた防衛用の試作機を作ろうとしていたんだと思う。」
設計図を読んでいるロゼッタの後ろからゼルと一緒に覗き見ていたが確かに俺では読めない謎の文字だった。
「これじゃないですか?」
奥の方からムゥの声が響いてくる。
「なんだこれ?」
奥には石の段差の上に座るよう騎士甲冑をイメージしたのであろう外見のゴーレムが鎮座したままホコリをかぶっていた。
「たぶんこいつがその試作品だと?」
「内部はズタボロでとてもじゃないけど動かねぇな、鉄も錆びててホコリも酷い実戦でも使われないまま投棄されたんだろうなぁ。」
ロゼッタがそのゴーレムを少しいじったり確かめていたがやはりボロボロだったらしい。
「タカユキ、これ見て…。」
ゼルにふと声をかけられてそっちを向いた。そこは試作ゴーレムの横の空間で直径2メートルはあるだろう黒い巨大な円盤のような物がホコリを被ったまま放置されていた。
「ちょっと見せてくれ。」
ロゼッタが金槌など工具を取り出しホコリを払いながらその円盤を調べ始めた。
「すげぇ…これジオライトだ…。」
「ジオライト?」
しばらくしてロゼッタは驚いたように呟いた。
「世界で一番硬いって言われてる金属で、その硬さから加工すら不可能と呼ばれる超珍しい物質だよ。」
ロゼッタはウキウキしたようにさらに調べていく。
「この黒い円盤がジオライトで周りを囲ってるのは…シルバーアダマンとこの突起はオリハルコン!?なんなんだよこれ…すげぇ。」
とりあえずレアな鉱石でできた円盤だということは伝わってきた。
「そうか、これがジオプレート…ゴーレムに装備させるはずだった盾なんだ…。」
ロゼッタは何かに気づいたようにさっきの設計図を持ってきて照らし合わせるように円盤を調べていく。
「タカユキ、お前腕力には自信あるか?」
「え?まぁそれなりにあるとは思うけど…。」
急に話を振られてびっくりした。そして嫌な予感がする…。
「このジオプレートって盾なんだが、この囲んでる部分が車輪のように転がるらしくて、もしかしたら使えるんじゃないかなって。」
「ゴーレム用の防具を!?生身で!?」
ロゼッタはやってみてと頷いてきた…。
俺はため息をしながらジオプレートの裏に回り持ち手を探した、黒い円盤だけで厚さ10センチはあるだろうか…嫌すぎる。
「見つけた、じゃあちょっと動かしてみるよ?」
俺は見つけた握りを左腕で握りしめて右手で支えるように持ち上げて、垂直に立たせてみる。
ゴゴゴと音を立てその円盤は動いた。車輪になっているということなのでそのまま前方へ向けて力を込めてみた。
「重い…。」
ゴゴゴと音を立てながら銀色の囲んでいる枠が回転して車輪のように動いていく。
動かしてみて驚いた、想像よりも重くはなかったのだ。軽く盾を構えて走ってみたり前方に即座に構えてみたりいろいろな動きを試してみる。
重いには重いのだが車輪のように動いてくれるのもあって予想以上に扱えそうな雰囲気だった。
「やっぱりな、ジオライトはその異常な硬度のわりに重量が軽いみたいだったんだ。」
ロゼッタが設計図を読みながらそう答えてくれた。
「ならいい盾になりますし貰っちゃいましょう!役に立つなら大歓迎でございます。」
ムゥが様子をみて提案してきた、確かにこれなら何かの時に役に立つかもしれないしいいかもしれない。
「じゃあ、ジオプレートだっけ?もらっちゃおうか。」
こうして俺のブレスレットに新たな武器が追加されたのだった。
「おい、ここら辺の地図見つけたぜ。」
設計図を漁っていたロゼッタが地図を見つけたらしく探索していた全員を集めた。
「ここの隣に魔法研究の施設があるみたいだ、次はここにしてみたらどうだ?」
ロゼッタは指で今居る位置から魔法研究所までを指でなぞり教えてくれている。
「確かにもうここには情報はなさそうだしそっちに行こうか。」
「じゃあ早速移動しましょうかね。」
「あ、ちょっとまってくれな!」
そう言うとロゼッタは本を何冊かとさっき読んでいた地図や設計図を自分のカバンにドサドサと突っ込んでいった。
「この資料は興味深いし放置するのはもったいなくて…。」
「おっけー、準備できたら移動しよか。」
そうして俺達はゴーレムの施設を後にし魔法研究所を目指して移動を開始した。
ギィと音を立てて扉が開きホコリが舞う。
「うっ、暗いしホコリっぽいし酷いなこれ…。」
ゲホゲホと咳をしながら中に入ってみるが松明片手に探索するにはちょっとめんどくさい雰囲気だった。
「ちょっとまってなっ。」
ロゼッタがホルスターの2番目の銃を取り出し赤いクリスタルを装填する、それは1番目のリボルバーよりも太く単発用の拳銃の見た目でアニメとかに出てくる照明弾や信号弾を撃つ銃のような形をしていた。
バシュンと音を立ててクリスタルが壁に撃ち込まれる、クリスタルはボウッと燃え上がり明かりとなり周囲を照らしていく。
「それは?」
「これは大型の加工弾を発射する単発式のクリスタルキャリバーだよ、一応サポート用のモデルさ。」
そう言いながらロゼッタはバシュン、バシュンとクリスタルを壁に複数撃ち込み周りを明るくしていった。
「これなら探索しやすそうだね、松明は一回消して早速始めよう。」
こうして俺達は施設の探索を開始した、難しい本がたくさん並んでいてよくわからないが貴重そうなものをロゼッタに選んでもらい回収していくことにした。
「ご主人、面白いものがありますよ~。」
ムゥに呼ばれてその場所に向かってみるとそこには丸められた紙が山積みになっている。
「なにこれ?」
「魔法スクロールでございます、これを使えばポンコツなご主人でも魔法が使えるのでございますよ。」
にやにやとムゥがスクロールを一枚取り出して渡してくる。
「使い方は広げて魔力を流すだけでございますよ、イメージはスクロールの方に全部記録されているのでしなくても大丈夫でございます。」
「えっと、パウダーダスト…前方に細かい粉をばら撒く…だけ?」
「みたいでございます。」
微妙な効果だった…煙幕にでもするのだろうか?
「微妙な魔法でございますね。」
はっきりと言うドラゴンだった。
「ほとんど同じ魔法みたいでございます、とりあえず貰えるだけ貰っちゃいましょ。」
そう言うとスクロールをぽんぽん自分のカバンへとしまい込んでいった。
「タカユキ、とりあえずロゼッタさんが貴重そうな本は選んでくれたからこっちはもう大丈夫だよ…。」
「わかった、こっちもたいしたものはなかったしそろそろ戻ろっか。」
ゼルに呼ばれ、俺は手に持っていたスクロールをザツノウにしまいムゥと施設を後にした。
「魔導施設というか、図書館って感じでございましたね。」
「そうだったね、機材みたいなのは何もなかったし…。」
「ゴーレムの資料が多かったからあのゴーレム倉庫が作業場でこっちは資料室だったんじゃねぇかなぁ…?」
なるほど、それなら図書館のようになっていたのも頷ける。
「この先は、一度大きな広場に出るみたいだぜ。」
松明の準備をしているとロゼッタが地図を読んでくれていた。
「じゃあ、この層はあんま広くないみたいだしそっちの方に進んで下層を目指してみよう。」
そして再び俺達は中層を進み始めた。
「タカユキ、あれ…。」
ゼルに止められて振り向くと、そこには白骨化した遺体が壁に寄りかかるように座っていた。
「足が片方無いのでございます、これでは助かりませんね。」
そういいながらムゥは腰のあたりを調べてギルドカードを拾ってくれた。
「この感じだと、この先に結構あるのかなぁ…。」
「可能性は十分かと?」
さっきまでは死体のようなものは一切なかったがここから先は何が出るかわからない、気を引き締めなければいけないと感じた。
しばらく歩いて行くとやはり、どれも白骨化したりミイラ化していたが遺体がいくつも転がっていた。
ネズミに食い荒らされたのかバラバラな者、隠れたまま命が尽きてしまった者、どれも触れば砕けてしまいそうなほど酷い状態だった。
「六枚は回収しましたね。」
ムゥが拾ったギルドカードを確認しながら歩いていた。
「立ち入り禁止にされるだけあってあんま状況はよくなさそうだね…ロゼッタ、お父さんは?」
「まだ、見つかってない…もっと奥に行ったんだと思う…。」
「そっか…。」
「大丈夫だ、覚悟はできてる…。」
ちょっと不安そうなロゼッタになんて声をかければいいかわからなかった…。
しばらく沈黙したまま先へ進み、広場の噴水のようなオブジェクトが薄っすらと見えてきた。
「まってっ!」
俺は後ろに手で止まるように合図しながら片手で鼻を覆った。
「くっさいのでございます…。」
「血の臭いが…。」
「生物の腐った臭いもあるぞっ。」
広場は血や生物の臭いが充満していて笑えないくらいの悪臭だった。
「ロゼッタ、明かりを!」
ロゼッタが2番目の銃でクリスタルを広場の方に飛ばす、地面に突き刺さった瞬間何かの丸い物体に光が反射すると、バーっとその光が広がっていきガササっと一瞬で散らばっていった。
「今のは…目?」
「気を付けて!ロゼッタ、明かりをお願い!」
ロゼッタが明かりを地面にどんどん突き立てていき周りを照らしていく、そこには動物や人の食べかけであろう肉片、骨や内臓が散らばっていた。
「そりゃ一匹も居ないなんて都合のいいこと無いよなぁ…。」
広場に足を踏み入れた時、ガサガサと四方八方から音が聞こえてくる、広場の入り口俺達を囲むように光る目がずらりと広がっていった。
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