第31話 遺跡調査Ⅱ

 ボロボロの石レンガ壁に身を隠しながらドワーフの男が指差した方へと慎重に進んで行く。


「ご主人、なんか聞こえてくるのでございます。」

 ムゥが何かを聞きつけたようだった。


 そっと壁から顔を覗かせ様子を見てみるとそこには数十匹はいるだろう、数えられないほどのラットマンが何かを取り囲んでいるようだった。


「!?…タカユキ。」

 後ろからゼルに服を引っ張られ何かを指差された、そっちを覗いてみる。


「なっ!?」

 そこには生きたまま食い殺されたのだろう、お腹のあたりから内臓を食い散らかされてぐちゃぐちゃになったドワーフの女性とサイクロプスの男性が苦悶の表情のまま倒れていた。


「もうダメでございましょう…。」

 ムゥがボソッと言った、確かにあれはもう生きてはいないとはっきりわかる状況だった。


「うっ…。」

 同族がやられたのだ、見てられないのだろうロゼッタが顔を背けた。


「4人って言ってたし後2人はどこに…。」

 目の前の惨状に顔をしかめながら俺はさらに周りを見渡した。


「ご主人あれ、あの集団の真ん中で動いてるの人じゃないですか!?」

 ムゥの声にネズミの中央を見てみるとそこには何かに吊るされている人が手で必死に首を支え足をバタバタと動かしもがいているようだった。


「あれは、ネックハンガーだっ!」

 ロゼッタがそれを見てボソッと口にした。


「ネックハンガーって?」

「黒いボロ布を纏ったネズミで、人よりも遥かに長い先端がY字に別れた棒とそれに円状の縄を括りつけて背後から忍び寄り縄を首に付けて棒でその人間を吊るそうとしてくる一番厄介と言われてるラットマンだ。」

 その厄介なネズミに一人が捕まっていてしかもまだ生きているという状況だった。


「ガチャチャ、チャチュチャチャ!!」

 集団の中一際派手な装備をしたネズミが大声で周りのネズミに何かを言っているようだった。


「何言ってるかわかんね…。」

「とにかく、ピンチなのは間違いないかと?」

 時間がなく、早くしないとあの吊るされている人の命が無くなるのはわかっている。


「しょうがない、俺が囮兼救出に突っ込むから3人で援護お願い!ムゥ、背中任せるよ!」

 俺はそういうとブレスレットから雷槍ライボルザードを取り出しネズミの群れに突っ込んでいく。


「ちょっ…あぁもうしょうがないご主人でございますね!!」

 そう言いながら両手で火炎弾を作り俺に続くようにムゥが飛び出してきた。


「さすがに気づくよなぁ!」

 ネズミ共が一斉にこっちを向き急に現れた敵に次々と攻撃態勢にはいっていく。


「まかせて~…。」

 ゼルが後方で両手を広げて魔法を発動させる。


「スクリーム・オブ・バンシィ!」

 後ろからネズミ共に向けて体が震えるほどの悲鳴のような叫び声が響き渡り、ほぼすべてのネズミが怯んだ。


「ライボルザード!!」

 槍に魔力を流し込み雷撃をネズミの集団に流し込む。


「ギュー!?」

「ヂュー!?」

 複数のネズミが雷撃にやられ倒れていく。別方向から飛び掛かってくるネズミを斬り倒し、前へ前へと進んで行く。


 横から飛び掛かってくるネズミはムゥの火炎弾に焼かれて倒れていくから俺は前だけを見て突き進む。


「デッドマンズウォーカー!…」

 殺したネズミを後ろから追いかけてきているゼルがネクロマンスで操り同じネズミと戦わせて混乱に陥れてくれている。


 槍で正面の敵を薙ぎ払っているとバシュ!バシュ!とネズミの頭に風穴ができて倒れていく、ロゼッタがゼルの横から例のリボルバーで狙撃して援護してくれていた。


「もう少しだ、頑張ってくれ!!」

 ロゼッタの声を聞きながらライボルザードをグルグルと回転させながら振り回し、牽制しつつ魔力を貯めていく。


「食らえ!!」

 雷撃を走らせさらに複数のネズミを倒していく中央への道ができた!そのまま駆け抜けようとした時横から長い棒のようなものが伸びてくる、ネックハンガーだ!


 ズバッと音を立ててネックハンガーの脳天に鉈がめり込んでいく。回避が間に合わないと思った瞬間ムゥが鉈を構えて対応してくれたのだ。


「なに油断してるのでございますか!」

「わるい、助かった!」

 そのままネズミ共の中心に飛び込み地面に突き立てられたネックハンガーの棒を斬り倒す。


「ガジャ!ヂュヂュチャジュ!!!」

 派手な装飾のネズミが目の前で何かを命令しているようだった。


「チューチューうるさいんだよ!!!」

 俺は左腕で破砕球ガダラスを呼び出し思いっきりその偉そうなネズミに叩きつけた。


「ヂューーーーーーーーー!!」

 直撃の瞬間断末魔のような鳴き声が聞こえそのネズミはミンチになって地面にめり込んだ。


 リーダーを失ったようで、次第に周りのネズミがバタバタとパニックに陥っていく。


「できるだけ数を減らしてすぐに動けないようにするんだ!」

 俺達はそのまま逃げ惑うネズミ共を一方的に狩り始め結構な数の討伐に成功した。


「大丈夫…ですか?」

 後ろでゼルが吊るされていた人の様子を見てくれているようだった。


「あ、ありがとう…ございますっ。」

 ゲホッゲホッと咳をしながらお礼を言うその人は見た感じ人間の女性だった。


「おい、しっかりしな、生きてるか??」

 ロゼッタがその近くで銃を撃ちながら倒れていた男性を揺さぶっていた。


「ロゼッタ、その人は生きてるか?」

「わかんねぇ、反応がねぇんだっ!」

「とにかく周りのネズミを蹴散らすぞ!」

 そうして俺達は、周りが静かになるまでネズミを狩っていった。


 しばらくして、数えるのも嫌になるくらい集まっていたラットマンはすっかり居なくなった。


 俺達は吊るされていた女性の元に集まり状況を確認する。

「ゼル、その人は大丈夫そう?」

「うん、意識もあるしちょっと首とか痛めてるけど大丈夫そう…。」

 地面で首を押さえながら丸まっていたが大丈夫なようだった。


「ロゼッタ、そっちは?」

「気絶してるけど大丈夫、生きてるよ。」

 倒れていたサイクロプスの男性はボロボロだが生きているようだった。


 とりあえず、投げつけていたガダラスをブレスレットに回収するとしたから指揮をしていたであろうネズミのミンチが出て来た。


「うげー…。」

 ちょっと触りたくなかったがそのネズミが装備していた神官帽を回収し、ロゼッタに持って帰って貰うことにした。


「どうします?ネズミの尻尾でもまとめて帰ります?結構な報酬になると思いますよ?」

 救助のためとはいえ大量のラットマンの討伐に成功していた。確かにこれだけでそうとうな報酬になるだろう。


「いや、この帽子だけにしとこう…調査するのに絶対邪魔になるから。」

 そして、俺はお腹から食い破られていた死体の方に歩いて行く、見るのも辛いくらいの状況だが装備しているザツノウとギルドカードを回収して場所は悪いが埋めてあげることにした。


「一応、マイナーエーテルは無くなってきてるからアンデッド化はしないと思うよ…。」

 ゼルがアンデッド化は無いと言ってくれているのでそっちは安心だった。


「こんなもんかな…。」

「場所は最悪でございますが、放置されるよりマシでございますね。」

 俺とムゥは地面を掘り、死んでしまった二人を埋めて石を積んで簡易的なお墓を作ってあげた。


「ありがとう、ございます…なんとお礼を言ったらいいか…。」

 吊るされていた女性がお礼を言ってきた。


「とりあえずって形で申し訳ないですけど。あと、これもお願いしてもいいですか?」

 そう言いながらザツノウ2つと二枚のギルドカードを差し出した。


「はい…。」

 やはり思うことはあるのだろう、女性は俯きとても悲しそうだった。


「ぐっ…。」

 倒れていたサイクロプスの男性も目が覚めたようだった。


「俺は、いったい…。」

 男は女性が握りしめているギルドカードと周りにいる俺達を見てある程度状況を把握したらしく、悔しそうな顔をしている。


「くそっ…。」

「やめろ、腕が折れてる…。」

 地面を叩こうとする男をロゼッタが止めた。


「起きて早々で申し訳ないのですが、向こうの方にもう一人生存者がいます。その人とも合流しに行っても?」


「わかり、ました…。」

 そうして俺達は怪我人二人を護衛しながらドワーフの男が居る場所まで歩いてきた。


「無事だったか…。」

 ドワーフの男は二人を見て少し安心したようだった。


「でも…。」

 女性は悲しそうに下を向きドワーフの男もそれを察してそうか…と俯いた。


「俺達はこのまま調査を続ける予定なんですけど、あなた達は3人で帰れますか?」

 ちょっと残酷かもしれないがこっちにも予定はある、今ならラットマンも居ないだろうし戻れるなら戻ってもらうのが一番だった。


「はい、ここまでありがとうございました。今なら大丈夫でしょうし帰ります。」

 そう言うとドワーフの男に手を貸しながら三人で出口へ向かい歩いて行った。


「それじゃあ、俺達は先に進もうか。」

 三人を見送りながら俺達は本来の目的に戻るのであった。

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