第30話 遺跡調査Ⅰ

 朝になり目が覚めた、一日のんびり過ごして体調も万全となり宿屋のレストランで朝食も済ませた。


「二人とも準備はいい?」

「松明も予備を含めて複数用意しましたしポーションなども買い揃えておいたのでいつでも大丈夫でございますよ。」

 聞いたらいつの間にかムゥは起きて必要そうな物資を買い揃えてくれていたらしい。


「ムゥちゃんありがと~。」

 ゼルに撫でられてるムゥはなぜかまんざらでもなさそうな感じだった。


 そんな話をしながら宿屋を後にしギルド前まで歩いてきた。


「おう、待ってたぜ…その、ちゃんと約束守ってくれてありがとう…。」

 そこには大きなリュックを背負ったロゼッタが準備万端で待っていた。


「一緒に連れていくって約束でしたしね、そちらも準備いいなら早速行きましょう。」

 ロゼッタの装備をパッと見るに腰の左側に何か機械のような四角いカバンくらいの大きさの装置を装備し右側に3丁ほどの銃のグリップのようなものが確認できた。


「あ、出発前にロゼッタさんの武器が何か確認させてもらっても?」

「あぁ、いいぜ、クリスタルキャリバーって言うスペルシューターの応用武器だぜ。」

 3丁のうち一番取り出しやすそうな先頭の物を取り出して見せてくれた。


 それはまさにリボルバー式の拳銃と言える武器だった。


「簡単に説明するとこの機械でクリスタルを加工して弾として装填するんだ、クリスタルを直接属性弾として発射できてそれを6本装填できる。」

「となると前衛は俺が受け持ちますのでゼルとロゼッタさんは後衛でお願いします、ムゥは状況に応じて臨機応変に戦ってくれるので基本は前衛1中衛1後衛2の形で行きましょう。」 

 とりあえず前に出るタイプではないだろうし陣形はこの感じでいいだろう。


「ご主人、鉈は今回もお借りしますね?」

「了解、ゼルも支援よろしくね!」

「任せて~。」

「あと、ロゼッタで構わないぜ…一応今回は仲間ってことになるんだしさんはいらねぇ。」

 ちょっと照れくさそうにロゼッタはそう言うと銃を3連のホルスターにしまった。


「了解、じゃあロゼッタ、よろしく頼むよ!」

 こうして俺達四人は旧ドワーフ王国の遺跡へと歩み始めるのであった。


 しばらく街を歩き奥に進んで行くと大きなトンネルが見えてくる、そこにはフル装備の衛兵が常に立ち見張っているようだった。


「止まれ、お前たちは冒険者か?」

 サイクロプスの衛兵が声を掛けてきた。


「はい、本日より遺跡調査を開始するチームです。」

「了解した、4人だな?一応ここに名前を記入してもらってもいいか?出発したっきり戻ってこれないやつらもいるもんでな…。」

 おそらく探索に出た冒険者の安否確認と話しに出てたラットマンが出てくるのを防ぐのが仕事のようだ。


「わかりました、これでいいですか?」

 俺達は書類に名前を記入して衛兵に渡した。


「ああ、問題ない…ご武運を、昨日行ったチームも戻ってきていないんだ、お前たちは生きて帰ってきてくれよ。」

 そう言うと衛兵は持ち場へと戻っていった。


「いよいよだね、皆、行こう!」

 そうして俺達はトンネルへと足を踏み入れたのだった。


 しばらく歩いて行くと広い空間に繋がった。そこはボロボロにはなっているが街があったのだろう石レンガの壁や折れた木の柱などが見て取れた。


「結構明るいと思ったら松明がもう結構置かれてるな。」

「上層は一般的に開放されてるみたいですしあんまり気にしないで先に進んじゃっていいと思いますよ?」 

「たぶん先に来てる冒険者チームが松明に火を灯して探索してたんだろ?」

 壁に松明が括りつけられたりしていてじゅうぶんな明かりがすでに確保されていた。


「とりあえず奥に進んで立ち入り禁止区域にさっさと行っちゃおう、ここら辺は得るものも特にないでしょ。」

「あぁ、上層は最近だとラットマンの討伐系の依頼がほとんどだしいまさら宝探しするほどの物も残ってねぇな。」

 ロゼッタは依頼などもずっと確認していたようでわからなかったことを教えてくれた。


 俺達は街道だったのであろう広めの道を真っすぐに進んで行った。


「ラットマンが多いって聞いてたけどまだ一回も接敵してないな。」

「あれはバカでも知能はあるから魔物みたいに目が合ったらすぐ襲ってくるってわけじゃねぇな。」

「ってことは来る時はすごくめんどくさいってことじゃないですか~…。」 

 ムゥがすごく嫌そうな顔をしていた。


「ラットマンは単体は雑魚なんだが、基本的に数匹以上で群れて行動するからな…実際めんどくさい敵ではあるな。」 

 ロゼッタの説明にさらに嫌な顔をするムゥだった。


「そろそろ次の階層の通路が見えてくるはずだ、気を引き締めなきゃ!」

 その時だった、ガランと何か金属が倒れるような音が聞こえた。


 俺は腕を上げて後ろのメンバーを止め、ゆっくりと音のした壁の方を覗いてみる。


「…っくそ、しくじった…まだ残ってたのか…。」

 そこには左手で脇腹を押さえたドワーフの冒険者が壁にもたれかかりながら倒れた斧を手探りで探していた。


 対峙しているのは80センチくらいだろうか?そのくらいの大きさの直立したネズミが2匹ほど鎧のような物を着て剣と盾を構えてドワーフを今にも襲いそうな勢いで立っていた。


「ご主人どうします?助けますか?」

 俺の隣からひょこっと顔を出したムゥがどうするか聞いてきた。


「助けよう、これで殺されたら寝覚めが悪いでしょ…。」

「了解でございます。」

 そう言うとムゥは鉈に手を掛けていつでも行ける準備をした。


「あのネズミが動いたら俺が右、ムゥが左のを不意打ちで一気に仕留める。」

 ムゥは無言で頷いてきた。


 作戦を決めて間もなくネズミ共はすぐに動きだした、ボロボロのドワーフに油断しているのか、それともその程度の知能しかないのか剣を振り上げてそのまま距離を詰めていった。


「隙だらけだよ!」

 一瞬だった、ドワーフの男はキョトンとしていたが同時に飛び出した俺とムゥは二匹のネズミの頭を鉈と剣で斬り飛ばしていた。もしかしたら死んだことに気づいてすらいないかもしれない。


 俺とムゥは武器についた血を払いながら納刀しドワーフの男に近づいた。


「大丈夫ですか?」

「あ、あぁ…すまん、マジで助かった…。」

 ドワーフの男は何が何だかわかっていなかったが、次第に自分が助けられたことを理解して安心したようだった。


「治療薬やポーションは持ってますか?とりあえず手当てしないと。」

 ドワーフを見るに脇腹だけでなく足もやられているようでとても一人で動ける状況じゃないようだった。


「ポーションはある…大丈夫だ…。」

 とても大丈夫そうには見えない。


「すみませんが服を切りますね止血します。」

 俺はドワーフの脇腹の傷口周辺の服を切り、傷口に茶色の軟膏のような薬を塗り付けていった。


「ぐっ…。」

 この軟膏は消毒をしながら傷口に塗ると血を吸い硬化して止血してくれる便利な治療薬なのだ。


「がっあっ…。」

「我慢してくださいね。」

 ただし、ありえないくらい痛みがあるらしい。


「足は折れちゃってますね、これはちょっと歩くの無理そうでございます。」

 足を見てくれていたムゥがそう言うと、痛みに悶えていたドワーフがいきなり俺の肩を掴んできた。


「俺はっ…大丈夫だ…だから頼む俺の仲間達を…あと4人居るんだっ助けてやってくれっ…。」

「わかりましたから、落ち着いてください、傷が開いちゃいますから。」

 俺は男をそのまま壁を背に寝かせた。


「あっちの方にやつらの群れがっ…たのむ、どうかっ…。」

 男はそう言うと上層の奥の方を指差してそのまま意識を失ってしまった。


「どうするんだ?」

 壁の向こうから話を聞いていたロゼッタとゼルが顔を出して来た。


「ん~助けるしかないでしょ、これで死なれたら後味悪すぎるし…この人だってこのままじゃダメでしょ。」

「もう、めんどくさいことに巻き込まれちゃって…どうなっても知らないのでございますよ!!」

 嫌そうなムゥがヤレヤレと男の指差した方へと歩き出した。


「俺達も行こう、結構な群れが居るみたいだし。とりあえずどんな形であれ助けてあげよう。」

「わかった…」

「了解だよ、確かにこのまま見捨てちゃ後味悪いしな。」

 ロゼッタとゼルを連れて奥の方へと俺達は進んで行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る