第29話 頼む!!
応接室を出るとさっきとは打って変わってドワーフやサイクロプス、人間の冒険者が集まりまさにギルドという風景が広がっていた。
「なぜか、チラチラ見られてる気がするんだけど…?」
依頼を受けたり仲間と話したりテーブルで雑談したりしているはずなのだが、なぜか視線を感じるのだ。
「朝から応接室使うほどでございますからね、注目されても仕方ないのでございます。」
「じゃあさっさと退散しましょ。」
俺達は視線が気になって居心地の悪いギルドをさっさと後にした。
外の景色は薄暗く朝も夜もあまり関係ないようだったが、ギルドの横からカンッカンッと金属を叩くような音が響いてくる。
覗いてみるとそこにはちょっとした工房がありドワーフやサイクロプス達が槌を片手に剣や農具、様々な金属製品を作っている真っ最中だった。
「ここは金属加工が盛んな街でございますからね、ギルドも戦闘系よりも製作に力を入れているんだと思われますね。」
「なるほど、バトラーよりもクラフターの方が圧倒的に多いのね。」
作業している人達を眺めて話していると後ろから人の気配を感じた。
「なぁ、あんたら地下遺跡に行くんだろ?」
振り返るとそこには赤茶の髪をツインテールのように二つに縛ったドワーフだろうか?身長120センチくらいの子が腕組をしながら立っていた。
「そうだけど、君は…?」
「あたいはロゼッタ・ブロッサ、ドワーフ族で鍛冶師をやっている者なんだけどお願いがある!」
ムゥよりも小柄だろうか?ロゼッタと名乗るドワーフの少女はこっちをまじまじと見つめてきた。
「お嬢ちゃんのお願いって言うのはいったい?」
「言っておくがあたいは二十歳だよ。」
なんと、年上だった…。
「お願いというのは、あたいも遺跡調査に一緒に連れていってほしいんだ!!」
なんとなく予想はしていたがやはり同行希望だった。
「貴女もギルド所属なら普通に行けるんじゃないんですか?」
「確かに所属はしている。でも、あたいは上層までしか行けないんだ…最深部までの調査を依頼されたあんたらとは違うんだよ…。」
全冒険者に解放されている上層ではなく彼女は奥に用事があるようだ。
「貴女、さっき盗み聞きしておりましたよね?お荷物を連れていけるほど余裕はないのでございますよ?」
ムゥがはっきりと切り捨ててしまった、確かに三人で行くため護衛しながら行くのは無理だろう。
「あたいは戦える、ちゃんと役に立つ!だから頼む!!なんでもするからどうかっ!!!」
そう言うと彼女は地面に座り頭をつけてお願いしてきた、土下座の文化があるのにちょっと驚いた。
「わかりましたから、そこまでしないでください…こんなギルドの真ん前で土下座なんて…。」
こんなことされたら周りの目が痛い…。
「これは、昔来た冒険者が言っていたんだっ!本気でお願いするなら態度で示す二ホンジィー?のやり方だと。」
文化が転生者に毒されていた…。
「じゃあ、明日の朝この場所に準備してきてください。早朝出発します。」
「荷物持ちもお願いしますので大きなバックでも持ってきてくださいませ~。」
ちゃっかり荷物持ちをお願いするムゥだった。
「わかった!ありがとう!!恩に着るっ。」
「ちなみに、そこまでして奥に行きたい理由を聞いても?」
やはり土下座されても理由は聞いておきたかった。
「あぁ、そうだな…。」
ロゼッタは少しうつむいたが語りだした。
「あたいのおやじの形見を見つけたいんだ、特殊な魔道具でうちの家宝だったんだが4年前の遺跡調査に参加してそのまま…。」
父親の形見のレア道具を回収したいらしい。依頼してくれれば探してくるのに、どうしても自分で回収したいという意思が伝わってきた。
「わかりました、俺はタカユキ、こっちの小さいのがムゥでこっちがゼル。明日はよろしくお願いしますね。」
「あぁ、あらためてロゼッタだよろしくたのむ。」
軽い挨拶を交わしその場を後にしようとした。
「ところで、なんで今日じゃないんだ?すぐに行くもんだと思ってたんだが?」
「それはですね…。」
俺はフラっとそのまま倒れそうになったがどうにか持ちこたえた。
「ちょ!?大丈夫かよ!?」
「はい、ただ悪路を馬車で駆け抜けてきたんでもう体が限界で…今日は休ませてください…。」
流石に依頼を受けるのはいいが、このまま出発は体が持たない…。あの揺れの中まともに休めるわけもなく限界だった。
「わ、わかった…宿屋はあっちだぞ…。」
「ありがとうございます、ではまた明日。しっかり準備してきてくださいね…では。」
そうして宿屋に向かい歩いて行った。
俺達は宿屋に着くなり部屋を借りてそのままベッドにぶっ倒れた。
夜だろうか、意識が戻りベッドから起き上がるとムゥもゼルもまだ眠っていた。とりあえず体の方は大丈夫そうだ、二人が起きたらご飯にでも行ってみるかなと考えていると二人が丁度目を覚ましてきた。
「ゼル、ムゥおはよ、体は平気?」
「おはよう…大丈夫~。」
「問題なさそうでございます~。」
ふぁ~とあくびをしながらムゥが背伸びをしていた。
「とりあえずご飯でも行く?朝見た時美味しそうだったし。」
「賛成でございます~!」
「私も行く~。」
ゼルはまだちょっと寝ぼけているみたいでかわいらしかった。
「じゃあいこっか。」
俺達は宿屋を出て来た時に通ったレストラン街を歩いて行き、いい感じのお店に入ることにした。
「ここはお肉が美味しいみたいですよ?」
「じゃあステーキとか頼んじゃおっか。」
テキトウに注文してすこし待っていると料理がテーブルに並んでいった。
「イノシシのステーキに野菜スープ、ウィンナーとチーズにポテトすごく美味しそう。」
「「「いただきます!」」」
そうして、雑談しながら三人で食事をしばらく楽しんだ。
食事が終わり店を出て、今度は武器屋を覗いてみることにした。
武器屋に入るとやはり剣や斧、ハンマー系の金属武器が数多く売りに出ていた。
「やっぱ杖とかゼルが使えそうな武器はなさそうだね…。」
「元々ネクロマンサーなんて特殊な職でございますからね~。」
ゼルは死霊を操るネクロマンサー旅立つ時に貰った紫水晶を直接持った方がいいん
じゃないかと言うくらい特異な職らしい。
「ん~…とりあえずこれ、使ってるよ。」
ふと見てみるとゼルは神官用の銀色の十字架をあしらった鉄の杖を握っていた。
「まぁ、同じ死霊をどうこうしよう系ではありますからね、大丈夫なんじゃないです?」
「そういうもんなの!?とりあえず、ゼルがいいなら買っちゃお…。」
そうしてゼルの武器も一応手に入ったことだし三人は宿屋に戻り明日に備えてまた眠りにつくのであった。
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