第27話 出発、次の街へ!

 ラドレス城に戻った俺達は早速旅立ちの準備を始めた。


 防具に関してはすでに新品が用意され魔導ハーネスなども人数分しっかり用意されたうえプロテクションマントは無理だったが衝撃吸収マントを用意してもらえた。


「ご主人、装備は全く問題ありませんしクリスタルも風が溢れておりますしね!」

 ムゥがカバンをゴソゴソしながら荷物の確認をしていた。


「あ、お金も超余裕でございますよ、盗賊の戦利品と今回の報酬でがっぽがぽでございます~。」

 実際姫様から、今はこれしか渡せないが許してくれと袋いっぱいの金貨の山を頂いたのだ。


「タカユキ~…いる?」

 ひょこっとゼルが顔をだしてきた。


「ん?ゼル、どうしたの?」

「どおかなっ…?」

 ゼルは白いインナーにフード付きの濃い紫のコート、ブラウンのキュロット、膝上まであるロングブーツを着て薄紫の髪をふわりと遊ばせたロングをなびかせて全身を見せるように入ってきた。


「すごく似合ってる!いい感じだよ!」

俺は一目でドキッとして見とれてしまった。


「ご主人がこれだけデレデレになってるなら大丈夫でございますよ~。」

 ムゥに棘のある言い方をされてうっ…となりながらもゼルに見惚れていた、彼女もちょっと恥ずかしそうに照れていた。


「私、これで一緒に行くねっ…!」

 ゼルはそのまま部屋のベッドにボフっと座るとこっちを見つめてくる。


「私もなんか手伝うことある?」

「いや、ほとんどもう終わってるようなもんだしゼルもザツノウ貰ったでしょ?必要アイテムだけ分けちゃおっか?」

 そう話していると何かゴソゴソ作業していたムゥがこっちを振り向いた。


「ならご主人とゼルさんもこれ持っておいてくださいな!」

 ドサっと何かの袋を投げて渡してきた。中には金貨、銀貨、銅貨が入っていてお財布のような感じだった。


「ほとんどのお金はあたくしが持ってますけど何かと必要でございましょ?お小遣いでございます~。」

 結構入ってると思うのだがこれでも一部らしい…どんだけもらったのか。


「これだけあればゼルの武器も買えそうだね。」

「うん…でも私に合うの見つかるかな?」

 ゼルの魔法はネクロマンス、特殊な分類の魔法のため上手く使える武器が少ないらしい。


「とりあえず、明日には出発しよっか。善は急げって言うしね!」

「問題ないのでございます。」

 ゼルは、ん?って顔をしていた、意味が通じなかったらしい…。


「わかった、お姉さまに言ってくるね~。」

 ゼルはそう言うと部屋からトコトコと出ていった。


「そう言えばご主人、次に行く場所は決めてるのですか?」

「ん~どうしようかな、とりあえずお姫様の話してたドワーフの都市?に向かってみようかなって思ってるよ。」

 そう話しながら机に地図を広げて二人でそれを眺めてみる。


「鉱山都市ドルガードですね、確かにここならラドレスから一番近いのでいいかもしれないですね。」

「それにここならゼルの武器も見つかるかなって?」

 ムゥがジローっとこっちを見てきた。


「なんだよ?」

「なんでもございませんよ~。」

 実際世界を見て回る旅になるし一番近くに行くのは常識だろう。


 それに、いつまでもゼルに武器が無いのも冒険するには不便になる、早急に用意してあげたかった。


「あとは、食料くらいかな?」

「そうでございますね~、分けてもらうか出発の途中で市場で買いましょう。もうギルドの支援などで市場は始まってるらしいですよ?」

 戦いが終わってまだあまりたっていないが住民の生活のために市場などはギルド主体で優先的に準備されてすでに始まっているとのことだ。


「このふかふかベッドで寝れるのも今日が最後かぁ~ちょっともったいないなぁ…。」

 そう言いながら俺はボフッとベッドに横になった。


「別に旅に出ないでここで貴族になってもいいのでございますよ?」

「のんびりできるのは好きだけど、地球に居た時みたいに机に齧りつくのはもう嫌だよ!」

 サラリーマン時代のように毎日デスクワークなんてもう嫌だ!それになによりやっぱりこういう生活は暇なのだ。


「せっかくなんだ、もっとわくわくしたいんだよ!」

「そうでございますか~。」

 ムゥはあまり興味なさそうに準備を進めていた。


「なんだよ?」

「ご主人、結構子供だなぁと思っただけでございます~。」

 確かに年齢も若くなり思考も少し幼くなったかもしれない。いや、地球で諦めていたものが蘇ったのだ。 


「ほっとけ!」

 そういいながら少し寝ることにした。


「おやすみなさいませ~。」

 ムゥの声と準備のガサガサする音が次第に遠くなっていきいつの間にか意識はなくなった。


 その日の夜もいつもとなんら変わりはなかった、さすがにこのご時世で盛大なパーティなんかできるはずもない。


 ただゼルが姉妹水入らずで過ごしていたくらいだ、いろいろ話しておきたいこともあったのだろう。


 翌日早朝、俺達はお城の門の前に来ていた。

「わざわざお見送りまで、ありがとうございます。」

「気にするな、ホントは盛大に行きたいとこだが今の状況ではそうもいくまい…。」

 派手にパレードでもされたら恥ずかしくてもう戻ってこれないとこだった…。


「お気持ちだけでじゅうぶんです。チーズや干し肉など食料まで分けていただきホントなんとお礼を言ったらいいか。」

「構わないさ、元々旅立つ時に日持ちしそうな食べ物を渡せるよう準備させていたのだ。」

 城を出る時、袋いっぱいのムゥが居なかったらとても持ち運べないくらいの食料を分けてもらってしまったのだ、感謝しかない。


「そうだ、忘れるところだった。ゼルア、これを。」

 サーリヤ女王はそう言いながら一つの箱をゼルに手渡した。


「これは?」

「紫結晶だ、謁見の間の控室に消滅せずに残っていたおそらく核となっていた部位だろう。お前の役に立つはずだ、持っていけ!」

 確かにネクロマンスを使うゼルにとって紫結晶はマイナーエーテルの塊であり役に立つだろう。


「ありがとうお姉さま、大事に使わせてもらうねっ。」

 ゼルはサーリヤ女王に笑顔で応えた。


「では、そろそろ出発します。女王様、お元気で!」

「お姉さま、行って参ります。」

 俺とゼルが挨拶をするとムゥもスカートの裾を持ち上げお辞儀をして見せた。


「あぁ、神の加護があらんことを!達者でな!!」

 こうして俺達三人はラドレス城を後にするのであった。


 しばらく歩いていき、街外れに差し掛かると馬車に馬を二頭繋げ準備をしてるおじさんが目に入った。


「おじさん、どっか行くの?」

「ん?あぁ、ドルガードにここら辺に住んでる人らの農具をまとめて買いに行くんだ、うちの馬達は無事だったからなぁ。」

 どうやら目的地は一緒らしい、ちょっとお願いしてみようと思いついた。


「俺達もドルガードに行こうと思ってて、おじさんよかったらこれで一緒に連れて行ってもらえない?」

 そう言いながら俺は金貨を3枚おじさんの手を取り握らせてみる。


「こ、こんなに貰ってもいいのか?」

「はい、乗せてってくださるのならですけど。」

 そう言いながら微笑んで見せた。


「かまわねぇ、乗っててくれ!こんなくれたらしばらくうちの家族は安泰だぁ!」

 俺はゼルとムゥにピースサインをして見せた。


「なるべく早く帰りてぇから、準備いいなら乗ってくれ!すぐに出発するぜ?」

「ムゥ、ゼル行こう!」

 そう言いながら馬車の荷台に乗せてもらうことになった。買いに行くというだけあって中には袋が一つあるくらいでガランとしていた。


「それじゃあおじさん、よろしくお願いします。」

「あいよ!出発だ!」

 おじさんは馬に鞭をいれて馬車は出発した、ガタガタと揺れる荷台に慣れず酔いそうになったが次第に慣れてきて話す余裕が出てきた。


「速い馬ですね、サラブレッドですか?」

「さらぶれど?なんじゃそれ?こいつらはバイタリスっていう足の速さと持久力が売りのよく飼われてる馬だぞ?」

 どうやらこの世界の一般的な馬はバイタリスと言って地球のものとは違うみたいだった。


「そうなんですね~。」

「そんなことも知らないってお前さんら貴族かなんかだったんか?」

「ちょっと世間にうとくてっ…。」

 格好的にも貴族には見えないと思うんだが、この世界はどうなんだろうか?


「まぁ、まだ時間はかかるから後ろで休んでな?休みなしで一気に駆けちまうからこれからもっと揺れるぞ?」

 揺れに不安を抱きながらムゥとゼルの隣に腰を下ろした。

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