第26話 ギルドへ

 ラドレス城の裏手に広がる石レンガに囲われた空間、王家の墓地だ。


 たった今ユージ達勇者の埋葬が行われている、サーリヤ姫主導だったが勇者のやったことがやったことなので少数でひっそりと葬儀を行い、しかし四人を一緒に眠りに就かせてもらえたのだ。


 俺とゼルアも葬儀に参列し、せめてもの黙祷を捧げた。


 その後、ラドレス王国にお世話になってからしばらく時間がたった。


 お姫様が正式にラドレスの女王へと即位し、急ごしらえだが政府が設立された。


 流石に返還しないとまずいかなと思い、ディスペリオンを姫様に返そうしたところ、

(それはタカユキ殿がおじい様より譲られたものだ、これからも使ってくれ。)

そう言っていただき愛剣を手に入れてちょっと嬉しかった。


 そして、戦闘のごたごたで完全に忘れていたライボルザードやガダラスに関しては、

(ご主人!そこら辺の鈍らならともかくレアな武器まで使い捨てにしないでくださいませ!!もったいない!!)

と文句を言われつつムゥがしっかり回収してくれていた。


 シルバーミスリルの防具はそのままだがそれ以外のガタガタになっていた装備も新品を用意してもらい、何より意外だったのは武器庫の整理中にディスペリオンの鞘が発見されたのだ。


 それは深い緑色をしたとても綺麗なもので、これも譲り受けることになった。


 なかなか冒険者ギルドに余裕ができずお城での生活が長引いてしまっている。お話している時にゼルアのフルネームがゼルア・シア・ラドレスだということを教えてもらったり嬉しいこともあったのだが、正直ゲームやマンガなどの娯楽が無い異世界は暇な時間をつぶすのに困ってしまう。


 仕方がないので、衛兵の訓練に混ざって強敵に対する制圧戦の敵役など率先して暇つぶしをして過ごしていた。演習後のお風呂は最高に気持ちよかったがなぜかムゥやゼルアに乱入されて一人でのんびりはできなかった…。


 そんな日々を過ごしていたある日、ついにギルドから対応できるとの連絡が届き俺はムゥとゼルアと一緒に早速街の冒険者ギルドへと向かった。


 街はまだアンデッドの影響が残っていて復興真っただ中という感じで、歩いていくと一際大きな建物が立っており冒険者だろう人々が外装の修理を行っていた、ここがギルドだろう。


 建物に入ると奥にいくつかの窓口があり二階に上がる階段、冒険者が休憩するテーブルとイス、クエストを貼り出す掲示板とゲームやアニメで見た世界と似ている構成になっていた。


「あ、タカユキさ~ん!!こっちです~。」

 周りを見渡しながら歩いていると窓口の方から声がかかった、そこにはクランさんが座りながら手を振っていた。


「クランさん、元気でしたか?」

 俺達はクランさんの居るカウンターに向かい握手を交わした。


「はい、だいぶ時間かかっちゃいましたけどこちらの準備もできましたので任せてください!」

 クランはニコッと微笑みながらそう答えてくれた。


「じゃあさっそく登録の方お願いしてもいいですか?」


「そうですね、では早速やっちゃいましょう!」

 そう言うとクランは三人分の書類を取り出して差し出してきた。


「その紙が契約書になりますのでしっかり読んでサインと血判をお願いします。」

 契約書とは言うが、ギルド内でのクエスト受注条件やランク、命の危険がある場合でも責任はとれないなど要はゲームなどの利用規約のようなものだ。


 意外だったのは殺人に対する項目だった。もちろん村人や市民を意味なく殺すのは禁止されているが盗賊などはもちろん冒険者同士の争いの結果死者が出ても一切関与しないと人殺しに対して想像以上に寛容なのだ。


「冒険者にはどうしても様々な問題が付きまといます。もちろん優秀な冒険者を失うのは痛手ですし、こちらの契約のせいで無駄に多くを死なせるわけにはいかないのです…。」

気になって読んでいたのを察したのかクランはギルドの考えを教えてくれた。


「これでいいですか?」

俺は名前を記入して人差し指をナイフで軽く突き血をにじませ血判を押してクランへ差し出した。


「タカユキ・ヒグサ様…はい!大丈夫です。」

クランは俺の書類をしまい、何かに彫刻刀と金槌のようなものを取り出し打ち込んでいった。


「あ、そうでした…ゼルア様はお名前そのままじゃないほうがいいかもしれません、王族ですしいろいろ問題が…。」

クランは思い出したようにゼルアに向かってそう言った。


「ん~そっか…じゃあ名前変える…。」

「ゼルア急にそんなこと大丈夫なの?」

ゼルアに聞いてみると少し考えているようだが俺の顔を見てニコッと微笑んだ。


「決めた…私は今から、ゼルシア・ヒグサ…。」

「ちょっとまって!?」

 名前の方はともかくゼルアは俺の名字をそのまま名乗るつもりのようだった。


「ダメ…?」

「ダメじゃないけど…いいの?」

 そのままゼルアはゼルシア・ヒグサという名前で血判を押してクランに差し出してしまった。


「いいの!…私は今から冒険者、ゼルって呼んでね?」

 ニコッと微笑んでくるゼルアにドキッとしながらも正直嬉しかった。


「じゃあ、あたくしもムゥ・ヒグサにしましょうかね!」

「お前はムゥ・シュ・フシューだろ?」

 なぜか自分もヒグサ名になろうとしているムゥにツッコミを入れてみた。


「雑でございます!!嫌でございます!!」

 自分で聖竜ムシュフシュと言ってたくせに超嫌がってきた…。


「では、ゼルシア・ヒグサ様、ムゥ・ヒグサ様で登録でよろしいですか?」

「お願いします…。」

「それでいいのでございます!」

 全員ヒグサ姓になってしまった。


 その後も二人分の何かを取り出してクランはカンカンと彫刻刀を打ち込んでいった。


「お待たせいたしました!こちらが冒険者の身分を示す証明書、ギルドプレートです!」

 差し出されたそれは、地球の運転免許くらいの大きさで縦に自分の名前が彫られていてその横に五つ程丸い穴が開いていた。


「タカユキ様はゴールド、ゼルシア様とムゥ様はシルバーランクとなります。」

 確かに俺の名前が彫られたカードだけ金色で二人のは銀色だった。


「タカユキさんは勇者討伐など英雄的活躍をしてくださいましたし、ギルドマスターからの推薦を頂いてますので、最初からなれる最高ランクのゴールドとさせていただきました。」

 俺は最高評価を頂いたらしい。


「あたくしはなんでシルバーなのですか!?」

「ムゥさんも活躍なされたのですが…すみません、ゴールドランクはそうそう出せるランクではないのです…。」

 ムゥはちょっと不満そうだった。


「気にしないで続けてください…。」


「後は皆さんは、国を転々とする予定ですか?それともここを拠点にクエストに行く感じですか?」

 どういうことだろう?冒険者というだけで特に変わりはないと思うのだが。


「国を転々として旅をしながら依頼をこなすのがアドベンチャラー、一つの国を拠点に活動するのがワークスって言って種類が違うんだよ!」

 後ろから急に声を掛けられて振り向くと、そこにはゴルドが立っていた。


「よ、坊主!冒険者登録おめでとう、歓迎するぜ!!」


「ちなみに、ワークスは戦闘特化のバトラー、製作特化のクラフター、採取特化のギャザラーの三種類にさらに分かれています。」

 クランがゴルドの説明に捕捉を加えながら説明してくれた。つまり職種によって所属が変わってくるらしい。


「アドベンチャラーは国々を回る分、縛りなく自分の好きなことをやれる感じだな。」

 ゴルドの説明だとアドベンチャラーは冒険者のなかでもさらに自由な枠になっているらしい。


「もちろん欠点もございます、アドベンチャラーは悪く言うとよそ者という扱いになるのでワークスより依頼受注の優先度が低くなってしまいます。」

 信頼できるかどうかの問題なのだろう。


「こちらの赤いのがバトラー、青がクラフター、緑がギャザラーで紫がアドベンチャラーを示すバッジで、これを自分のプレートの一番下の丸穴にはめるのです。」

 そう言うとクランは赤、青、緑、紫の四種類の丸いプレートのようなバッジを置いて見せてくれた。


「そうですね、俺達はいろいろな国を見て歩きたいのでアドベンチャラーがいいです!」

 俺は迷わず紫のバッジを受け取り自分のギルドプレートにはめ込んだ。


「おめでとうございます!これでタカユキさん達は正式に冒険者ギルド所属のアドベンチャラーとなりました!」

 ムゥとゼルも同じように紫のバッジを受け取り自分のプレートにはめ込んでいった。


「で、だ!お前さんには世話になったし紫の欠点を少し補えるバッジをプレゼントだ!」

 ゴルドはそう言うと俺に赤い星型のバッジを手渡してきた。


「あの、これは?」

「ルビースターだ、戦闘系の任務や事件で多大な貢献した者に与えられる特別なバッジでその人物の評価に直結するんだ。」


「星持ちはめったに居ないので任務優先度もかなり上がります、その代わりその支部の抱えてる問題をお願いされる可能性もありますが…。」 

 やっぱ利点もあれば欠点もあるみたいだった。


「お前はその星を貰うだけのことをしたんだ、誇ってもってけ!」

 ゴルドにドン!っと背中を叩かれ少しむせながらルビースターを自分のプレートの一番上にはめ込んだ。


「ちなみに冒険者ランクは本来アイアンから始まりブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ブラックと上がっていきますが現状ブラックとプラチナは少ないのでゴールドはそうとう優遇されると思いますよ!」

 全くいないというわけではないのだろうがゴールドランクはそうとう優遇されるみたいだった。


「あと、もしもの際、個人の特定や確認にも使われるので大切に持っていてくださいね!」

 ギルドプレートは免許証やドッグタグのように身元確認に使う大切な物らしい、危険な任務多いだろうし当然だろう。


「ゴルドさん、クランさん、ありがとうござます!」

「タカユキさん達はもう出発されるのですか?」

 クランからそう聞かれた、ラドレス王国に滞在していた理由がこれだったので旅立つ準備はできたようなものだった。


「はい、準備ができ次第出発しようと思います。すっかりお世話になっちゃいましたね!」

「ちょっと残念ですがこれからのご武運をお祈りしていますね!」

 そう言いながらクランは微笑んでくれた。


「また近くに来たら顔出してくれ、歓迎するぜ!」

 ゴルドはそう言いながら手を上げて挨拶してくれた。


「では、また来ますね!さようなら!!」

 そして俺は冒険者ギルドラドレス支部をあとにした。

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