第25話 国の再興

 その後の城内はとても慌ただしかった。避難していたメイドや執事、兵や冒険者も駆り出されて城内の整備が次々と進められていった。


 紫水晶は元々マイナーエーテルのクリスタルらしく、砕けた時点で霧散し世界に戻るとのことで今後の影響はなく次第に通常のエーテルに置き換わっていくから問題ないとのことだった。


 勇者の反逆以来放置されていた城は徹底的な清掃が行われ、次第に美しさを取り戻してきている。


 食料などは紫水晶の影響でほとんどが腐ったりしてダメになってしまったらしく、しばらくはギルドの支援と輸入に頼る形になるだろう。


 そして、お姫様は殺された貴族の領土の治安や国民の今後の生活など頭を抱えているようで、ずっとゴルドや有識者を集めて会議を続けていた。


 そうして整備や調査が進められていき、いくつかの謎も浮上してきた。


 ナタリア様を刺した呪剣ガラボがどこにも見当たらない、勇者がどこから死霊を操れる黒オーブを持っていたのか、そして軟禁されていたゼルアの力をどこで知って利用したのかなどだ。


 このことから勇者とは別に国を滅ぼそうとした黒幕が存在している可能性を考慮して今後の対応が求められ、この件に対してもお姫様はギルドと協力して調査を続けるということだが、不明な点が多すぎてさらに頭を抱えていた。


 事後処理が続き数日が立った。

 俺とムゥは傷を癒したりちょっとした掃除を手伝うくらいで割とのんびりさせてもらっており、ゼルアとも一緒にいれて、よくおじいさんのことやこの世界に来てからの出来事などいろいろなことを話たり散歩に行ったりと楽しませてもらっていた。


 そしてこの日、嬉しい知らせが入った。


 元々王族や上位貴族専用だったらしい大浴場が復旧したらしく使っていいとのことだった。


 ムゥは後から入ります~と言いながらベッドでゴロゴロしているので、お言葉に甘えて早速使わせてもらうことにした。


 脱衣所で服を脱ぎ、白いタイル張りの浴場に歩いていく。


 そこには大きなライオンの像の口からお湯が流れていてお湯のいい匂いがする。


 体を軽く洗い流し湯船にゆっくりと体を浸していく。

 はぁ~と気持ちのいい溜息が思わず漏れてしまう。


 久しぶりの入浴にすっかり気持ちよくなって、大きな浴槽に体を伸ばしながらのんびりと過ごしている。幸せだ…。


「タカユキ、お風呂はどお?」

「すっごく気持ちいい~疲れが一気にとれてく感じ~。」

「じゃあ私もお邪魔するね…。」

「うん~。」


 この時あれ?と違和感を感じた、一人でのんびり入っているのに誰と会話してるのか疑


問に感じているとひたひたと誰かが近寄ってきているのを感じ後ろを振り向いた。


「ちょっ!?ゼルア!?なんでここに!?」

「お邪魔するねって言ったよ?」

「そうじゃなくってっ!?」


 そこには薄い布一枚で前だけ隠したゼルアが体を軽く流してきたのか濡れた姿で立っていた。


「なんでっ!?」

 俺は顔お真っ赤にして驚いているとゼルアは不思議そうにしながら近づいてきた。


「隣いい?」

「う、うん…。」

 そう言うとゼルアは隣に入ってきてふ~っと気持ちよさそうに溜息をしながらくつろぎ始めた。


「あの、ゼルア様?どうしてこちらに?」

 俺はドキドキして、顔を真っ赤にしたままゼルアに聞いてみる。


「タカユキ、お風呂に行ったって聞いたから…、お話したかったし一緒に入ろうかなって?」

 すごく嬉しいけど羞恥心とかないのか疑問に思う。


「そう、なのね…。」

 直視できない、白い綺麗な肌に濡れた薄い紫の髪そこはかとなくいい匂いもする気がする。


「嫌だった?」

 不安そうにゼルアが聞いてきた。


「嫌じゃないけど、綺麗だしちょっと恥ずかしくなっちゃって…。」

 本音が漏れてしまった。


「タカユキとならいいかな~って思ったの…。」

 そう言うとニコっと微笑み、ゼルアはちょっと照れながらそう答えた。


「っ…!」

 完全に照れて言葉を失ってしまった。


「そういえばね、ナタリアと勇者様明日埋葬するって…仲間も一緒に…。」

 ゼルアがふと思い出したように口を開いた。


「そうなんだ、だいぶ遅くなったけどやっと安らかに眠れるんだね。」

「うん、せめて二人一緒にってお姉さまが頑張ったみたい。」

 勇者とはいえ国を滅ぼしかけた大罪人だ、普通に埋葬されるのは妹のためにそうとう頑張ったんだろうと思う。


 そしてまた会話が途切れ、お湯の流れる音だけが響いた。


「タカユキは、もう少ししたら旅に出るんだよね?」

 ふとゼルアが俺の今後について尋ねてきた。


「うん、せっかくだからいろんな国とか見て歩きたいしね。ここにずっと居たらもったいない気がするし!」

 失敗したっ。この国から離れるということはゼルアとのお別れになってしまう…このタイミングで言うのは愚策だったか。


「それでね、私もタカユキに付いて行こうと思うの、実はお姉さまにはもう許可も貰ってるの…。」

 ゼルアは何かを決意したような真剣な顔で付いて行くと言ってきたのだ。


「えっ!?」

 まさかの展開にビックリしてゼルアを見つめながら固まってしまった。


「ダメ?」

「ダメじゃないけど…。」

 いきなりで言葉に詰まってしまった…。


「ぶぉう、ぞぶいぶどごろば…。」


 急に目の前のお湯がボコボコと泡立ち、ざばーんと裸のムゥが飛び出してきた。

「はっきり男らしく答えてくださいませっ!!」


「その前にお前は体を隠せっ!!!」

 ゼルアはそれをフフフと笑いながら一緒にお湯をかぶっていた。


「別にここに居るのはご主人とゼルア様だけでございますし、あたくしは全然構いませんよ!欲情しました?」

「うるさいよ!もういいからお湯浸かってろ!!!」

 にやにやしながらムゥはお湯に体を沈め、ゼルアと俺を挟むように隣にきやがった。


「てか、お前後で入りに行くんじゃなかったのかよ…?」

「ちゃんと後から来たじゃないですか?」

 後から乱入する気満々だったらしい…。


「で、ご主人はゼルア様を一緒に連れて行くんでございますか?」

 ムゥにはっきり言えと促されゼルアもこっちを向いてくる。もちろん逃げられない。


「ゼルア、一緒に来てくれるか?せっかく出会えたのに別れるのは嫌だ。」

 恥ずかしくて真っ赤になりながら気持ちをはっきりとゼルアに伝える。


「はい、これからもよろしくお願いします。」

 すると嬉しそうに笑顔でゼルアは答えてくれた。


「とりあえず、まずは冒険者ギルドが落ち着いたら冒険者にならなきゃなぁ…すっごい寄り道しちゃったけど。」

「元々ここに来た理由がギルドに登録するためでございましたしね~。」

 そう、本来ここでは冒険者登録をしてそのまま依頼なりなんなりしながら次の街を目指すつもりだったのだ。


「私も冒険者、頑張るね…!」

 とりあえず、後日元々の目的を達成して今後の事を決めていかなければなと思いながらも今日はそのまま三人でのんびりとお風呂を楽しんだのだった。


 大切な人もできて次はどこに行こうか、どういう冒険が待っているのか、今から楽しみなことがたくさん増えていった。


「とりあえず、何か覚えたほうがいい事とかってある?」

「ん~ゼルアって普通の魔法使える?」

「最低限は使えるよ…?」

 とりあえず道具系はギルドあたりで揃えるとして必須の事から教えていこう。


「じゃあまずはおトイレ用の水玉から…。」

「ご主人、セクハラでございます!?」

「しょうがないでしょ!必要なことなんだからっ!」

 楽しそうな笑い声がお風呂に響きわたった。

 

 少し不安なこともあるがなんだかんだ楽しい異世界生活が始まってくれるだろう。

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