第23話 今、決着を…


「クソがぁ、もう容赦しねぇ…てめぇら絶対皆殺しだっ!!!」


 左目をやけどしたユージは痛みに苛立ちながら腰に装備していたのか黒いオーブを左手で取り出しそこから黒い霧のようなものを部屋に充満させた。


「お姫様気を付けて、何かきます!!」

「あぁ、わかっている…!」

 俺とお姫様は背中合わせで立ち、周りを警戒する。


 充満した黒い霧の中から黒いローブを身に纏ったリッチーが一体、また一体と姿を現し、さらに先に倒されていた近衛の兵士達もガタガタと鎧を鳴らしながら起き上がってくる。


「生かして帰さねぇからな…覚悟しろ!!」


 あっという間にリッチーと近衛のアンデッドに周りを囲まれてしまった。ざっと見ても20体近く発生している。

 正直、魔力の塊であろうリッチーなどはディスペリオンで斬ればすぐに消せるだろう。


 しかし、姫様を守りながらこの数に加え勇者を相手にしなければいけないのは正直辛いものがある。


 魔法を撃とうと構えたリッチーに駆け寄りそのまま斬り裂いて消滅させる、さらに近くに居たリッチーに刃を突き立て、すぐに姫様の近くに戻る。


「まずは二つ!」


 姫様もスペルシューターを撃って近衛のアンデッドを数体倒していく。

「皆、すまないっ!」

 お姫様はさっきまで共に戦っていた仲間を倒さなければいけなくなり辛そうだった。


 こっちに向かって飛んでくる魔法を払いながら隙を見つけてリッチーの数を減らしていく、だがユージがオーブに魔力を込めるたびに一体、また一体とリッチーが増えていき埒が明かない。


 ユージに攻撃を仕掛ければ間違いなくお姫様が集中砲火にさらされる、だがこのまま防戦しててもジリ貧になるのは目に見えている。

 それを知ってかユージは何もせずニヤニヤとこっちを見て楽しんでいるようだった。


 倒しても倒しても沸いてくるリッチーと近衛のアンデッドに手一杯のお姫様、少しでも気を抜けば魔法の集中砲火ですぐにでもやられてしまう。


 どうするか考える余裕もなかった。


 次第に攻撃する余裕が無くなってくる。魔法を払い正面のリッチーを斬り裂くその時だった、二体のリッチーがすり抜けてお姫様に向かってしまった。


「お姫様!!」

 声に気づき反応しようとするも姫様の方も余裕がない。


 急いで追いかけようとするも別のリッチーからの攻撃に遮られてしまいその二体は姫様に向けて攻撃態勢に入ってしまう、間に合わない!!


 その時、ギュルルルと風を切りながら二本のハンドアックスが飛んできて二体のリッチーの脳天を貫いた。


「サンダーブレス!!」

 雷撃がアンデッド化した近衛たちを薙ぎ払う。


「姫殿下、坊主!生きてるな!?」

「ご主人死んでないですよね??」

 ゴルドとムゥ、それに跳ね橋に向かっていた近衛の兵士が駆けつけてきた。ギリギリで援軍が来てくれたのだ。


「生きてます!助かりました!!」

「皆、無事だったか!!」


 ゴルドはそのまま大群に突撃していき、背負ってた大斧を抜き放ちリッチーを斬り伏せていった。


 ムゥも鉈でリッチーを横薙ぎに斬り払い魔法で攻撃し牽制してくれていて、近衛の兵達は姫様を囲み守りの態勢に入った。


「っち、余計な事しやがって…。」

 ユージは不満そうにしながらもリッチーを増やし続ける。


「ユージ!俺はな、お前に伝えなきゃいけないことがあるんだ!!」

 ゴルドがリッチーを払いながら叫ぶ。


「今更なんだよ!!貴族の動きに気づいてたのに何もしなかったくせに!!」

 ユージは怒りをあらわに叫び返す。


「すまなかった!だがな、あれはナタリア様のお願いだったんだ!!俺達は貴族が何か企んでるのを察知して会食を中止させようと動いていた。」

 ゴルドは大声でユージに向けて例の事件のことを語りだした。


「だがなナタリア様はこの機会に勇者や国民、貴族や王様の溝が埋まってくれることを期待していたんだ、自分が居るんだから貴族も下手なことはしないだろうと!もしもの時は自分がユージを守るからって!!」


「それでも、それでも止めるのができただろ!!なんで、なんでナタリアを危険な目に合わせるようなことを!!!」


「俺達も国がよくない状況に向かっていたことに気づいていたし溝をどうにかしたかった、上手くいけばそれが解消するかもしれないことも事実だった。だから俺はナタリア様を信じて送り出したんだ…。」


「その結果がこれか!?なんでナタリアが犠牲にならなきゃいけなかったんだよ!!ふざけんじゃねぇよ!!!」

 ユージのイラ立ちが濃くなっていく。


「俺も、ナタリア様が居るのに貴族共があんな強行手段に出るなんて思いもしなかったんだ…本当にすまなかったっ…。」


「今更謝ってもナタリアは居ないんだよ!!ふざけんな!てめぇの顔なんて見たくもねぇ消え失せろ!!エクスプロード!!!」

 ユージはゴルドに向けて爆発の魔法を放った。俺はゴルドの前に割って入り魔法を斬り裂いた。


 しかし爆風は凄まじく、部屋の窓ガラスがすべて吹き飛び充満していた黒い霧も散り散りになっていくほどだった。


「また邪魔しやがって、いい加減にしろよ!!」

「それはこっちのセリフだよ!!」


 ユージと俺は再び距離を詰める。すれ違いざまに剣がガキンとぶつかり合い、更に直ぐ振り向きざまに剣でお互いを突き合い頬を掠める。

 そしてお互いに距離を取りながら剣を構えなおす。


「マジでうぜぇ…俺は勇者だぞ、なんでこんなにやり合えるんだよ…。」

「そうやっておごってるからだろ?」


 うるせぇと斬りかかってくるユージの剣を左腕で受け流しそのまま剣で斬りつける。

 剣は左腕を掠めユージはオーブをゴトッと落とした。


「くっそ!エクスプロード!!」

 ユージはそのまま怯まずに左手をこっちに向けて魔法を唱える。すかさず剣で防御しようとしたが完全には防げず爆風に飲み込まれ吹っ飛んでしまった。


「ご主人!?」


「だい、じょうぶっ!!」

 吹き飛ばされ床を転がりながら距離を取りつつ態勢を立て直す。体がずきずきと痛み出すのをぐっと堪え立ち上がる。


 ブレストプレートは歪み皮鎧もボロボロになり始めている。いつ致命傷を受けてもおかしくないほどダメージが蓄積していく。

 だがユージの方も馬鹿みたいに魔力消費をしてだいぶ疲労しているように見える。ここが正念場だろう。


「ユージ、もう一度やりなおす気はもうないのか?これはナタリアも願っていた結果じゃないのはわかってるんだろ?」


「うるせぇよ…わかってるさそんなこと、それでも、俺はこの国を、ナタリアを殺したこの国を許せねぇんだよ…。」

 尽くしてきた国に最愛の人を奪われた彼の気持ちは分からなくもない、俺だって大切な人を殺されたらこうなってたかもしれないだろう。


「それでも、俺にも譲れないモノがある。」

 ゼルアの事を強く思いながら俺は叫ぶ。


「だから、前に立ちはだかるならお前を倒して全て救う!!」

「だから、邪魔をしやがるのならお前を倒して全て消す!!」


 残った力を振り絞り、お互いに譲れない思いを振りかざし突き進む。正面からぶつかり合いお互い一歩も引くつもりはない。


 出会った時間も距離もユージには遠く及ばない、それでもだ!それだけじゃないことを証明してみせる。


 リッチーやアンデッドを倒し終わったムゥ達も空気を読んでなのか、入り込む余地が無いのか俺とユージのぶつかり合いを見守っているようだった。


 謁見の間に何度も何度も剣と剣がぶつかり合う音が響きわたる。弾き合い、躱し、また斬りつける。


 転生勇者のなれの果て、同じ境遇なら誰もが辿るかもしれない道を歩んでしまった彼とこっちに来てたいして経っていない転生新人は何度も何度もぶつかり合う。


 ただ自分の目的のために背負ってしまったしがらみを、呪いを力として。


 そして、何度もぶつかり合う二人の決着は突然だった。


 ユージの振りかざした剣が左肩にあたりシルバーミスリルがバキッと音を立ててヒビが入る、その一瞬の隙に俺はユージの鎧のヒビの入った部分に剣を突き立てた。

 バキンと音を立てて砕ける鎧を突き破りディスペリオンは深々とユージの胸を貫いた。


「ぐぁっはっ…。」

 剣を引き抜くとユージは胸を押さえながら後ずさる。


 じいさんの鎧を貰ってなかったら肩から左腕が吹き飛び負けていただろう。


「ユージ、お前の復讐は終わったぞ…。」

「こんなところで、これで終わりとか…ナタリアに顔向けできねぇだろ…。」


 ユージは胸をぐっと押さえながら剣を握りしめ、一歩また一歩と前へまた進みだす。


「やめろ!!もう終わったんだよ!!」

「まだ、だ…終わらせてたまるかよっ…。」


 その時だった、ガチャッと音を立て謁見の間の奥へと続く扉が開いた。


 そこからは白に青色の花をあしらった綺麗なドレスを身に纏う水色の髪をポニーテールに結んだ少女がゆっくりと歩み出てきた、少女はそのままユージの方を向き、一歩ずつ歩み寄ってくる。


「ナタ、リア…?」

 ユージはその姿見て呟く。


 ナタリアと呼ばれた少女の瞳は虚ろで肌も青白く精気を感じられない、それでも彼女は微笑みながらユージへと歩み寄る。


「なん…で、お前には、何も…ただ、せめて、安らかに眠って…。」


 ユージはガランとオーラシオンを床に落とし、ナタリアの方を向きながら一歩ずつ歩み寄る。


 ナタリアは目の前にユージが来るとそれを受け入れるかのように両手を開き自身の胸へと受け入れた。


「冷たいよ…ナタリア…。」

 ユージは涙を流しながらナタリアを抱きしめ返す。


 ナタリアは白いドレスを赤く染めながらその場に座りユージを受け止める。

「あぁ…ナタリア…そっか、いいんだな…お前はもう…。」


 ナタリアは呟くユージを抱きしめ、全てを包み込んだ。

「ナタリア、今度こそずっと一緒…に、いよう、ね…約束だよ…。」

 ゆっくりとユージの体から力が抜け、ナタリアに包まれながら動かなくなっていった。


「あの黒いオーブを壊せば依り代の無いアンデッドは消滅すると思われます。」

 ムゥがボソッと俺に伝えてきた。やれということなのだろう、俺は痛む体を堪えながらユージが落とした黒いオーブの前に歩み寄りそのまま剣で貫き砕く。


 バリンと音を立ててオーブは砕け散り黒い霧は次第に薄れていった。


「終わった…のか?」

 お姫様の声が聞こえ、しばらくの間静寂な時間が流れた。


「ゴルドさん、周囲に居たアンデッドが突然消えちまった!!」

 謁見の間に外で戦っていたであろう冒険者が急に駆け込んできた。


 俺は落ちていたオーラシオンを拾い上げお姫様に歩み寄る。


「さぁ、お姫様、最後のお仕事です。」

 そう言いながらオーラシオンを差し出した。


「あぁ、世話になったな。行ってくる!」

 お姫様はオーラシオンを受け取り近衛を引き連れ外で待つ多くの兵と冒険者に報告に向かった。


「俺も行ってくるかなっ!」

 報告に来た冒険者を連れてゴルドも外に歩き出す。


「お前さんはどおする?」


「少し、休ませてください…。」

 俺はその場にドサっと座りこみ上を向きながらボソッと答え、ゴルドはそっかと笑いながら謁見の間を出ていった。

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