第22話 VS勇者
侵入前に見た地図の通り廊下を駆け抜け階段を駆け上がる、それと同時にライボルザードに魔力を流しバチバチと電気を纏わせていく。
敵の影は一切なく謁見の間までの最後の階段を登り切ると廊下の先に壊れた大きな扉と煙が見えた。煙の奥で立膝をついているお姫様とそこに斬りかかろうとしてる人影が見えた。
「ライボルザード!!」
槍を思いっきりその人影に向けて魔力を放出させる、黄色い雷撃がその人影に向かい飛来し直撃したように見えた。
「姫殿下!ご無事ですか?」
お姫様にそのまま駆け寄ると、頭から血を流してはいたが比較的軽傷のようで安心はできた。
「あぁ、タカユキ殿ご無事だったか…すまない、情けない姿を見せたな…。」
周りを見ると姫の近衛がボロボロになって倒れていた、ほぼ全滅といった感じだ…。
「皆、命を懸けて善戦してくれたのだ…だが、やはり奴は桁が違うようだ…。」
お姫様もいっぱいいっぱいのような状態だ。
「お姫様とりあえずポーションを。」
回復ポーションを取り出し栓を開けて姫様に差し出す。
「すまない、私もまだ…戦える…心配無用だ…。」
そうは思えないがお姫様はポーションを受け取り飲み干していった。
「あぁ?誰だよ…もうケリがつくってとこだったのに邪魔しやがって…。」
同い年くらいだろうか、それとも年下のような少年の声が聞こえてくる。白銀にきらめく長剣、短く切りそろえた黒髪に、黒い瞳、懐かしさすら感じる日本人の顔だ。
そして元々白銀に輝いていたであろう鎧は返り血だろうか赤紫に、マントも赤黒く変色していた。
「あんたが勇者の?」
「あん?なんでお前がその槍を持ってやがる?それはフォンのだぞ!」
イライラしているのかこっちの質問は無視してライボルザードの事を聞いてきた。
「大事な仲間なら人形みたいに使ってんじゃねぇよ、何考えてんだ。」
ユージは左手を見て握ったり開いたりして何かを確認してまたこっちを向いた。
「フォンとランの反応が消えてる、お前が二人をやったのか?ふざけんなよ!!!」
そう叫ぶとユージはすごい勢いで飛び掛かってくる、俺はライボルザードを構え剣撃を受け流していく。流石に勇者というのは伊達じゃないようで一撃一撃が重く鋭い。
だが捌ききれないわけではないという感じだった。剣の攻撃を弾き低姿勢で足払いを掛けたが相手はバックステップで距離を取りながらそれを避ける。
そこを逃さず槍をブンブン回転させて魔力貯めて放出する!雷撃が勇者をとらえたその時だった、結界のようななにかに阻まれ防がれてしまった。
「なっ!?」
「あれが我が国の聖剣オーラシオンの効果だ、使用者の周りに結界を張り攻撃を防ぐ守護の剣だ…。」
お姫様が後ろから今の現象を教えてくれたが、正直最初から教えておいてほしかった。
「防御だけだと思ったら大間違いだよ!!」
ユージはそう叫ぶとオーラシオンを思いっきりその場で水平に振りぬいた、すると斬撃が魔力の塊となってこっちに向かって飛んでくる。
棒高跳びのように槍を使い空中にジャンプしてどうにかそれを躱すが斬撃は斬撃らしくマントの一部がスパッと持っていかれた。そのまま雷撃を飛ばすがやはり結界に阻まれてしまう。
すると勇者はニヤッと笑い今だまともに動けないでいるお姫様に向かって斬撃を飛ばしてきたのだ。
「くっそ!」
着地し姫様の方へと走りブレスレットから最後のバスターソードを取り出しお姫様の前で床に突き立てて盾にする。ガキーンと音を立てながらどうにか防ぐことに成功したが勇者はまた斬撃を飛ばしてきた。ガキーンガキーンと三発斬撃を耐えたところでバスタソードが砕けお姫様と一緒に吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされながらもどうにかバランスを取り戻し着地する。
「お姫様!!」
後ろを振り返ると何とか立ち上がろうとするお姫様が見えた。
「大丈夫だ!それより勇者をっ!!」
「結構しぶといな…。」
勇者は今ので終わると踏んでいたらしい。
「お前は勇者の癖に性格悪いな、フォンのこと見習ったほうがいいんじゃないのか?」
「あぁ!?てめぇにフォンの何がわかる!!ほざくなぁ!!」
急に激昂した勇者が斬撃を飛ばしてくる、それを飛びながらギリギリで回避して衝撃波で煙を立たせた。
「お前なんかに俺の、俺達の何がわかるって言うんだ!!」
勇者の叫ぶ声に向けて煙の中からガダラスを投げつける。
魔力を封じるグレイプニルが繋がっているおかげかガダラスは勇者の結界を打ち砕いた。
「なんだよその球は!!」
勇者は剣でガダラスを受け止め軌道を反らして受け流した。不意打ちは回避されてしまった。
「きたねぇ攻撃してくるんじゃねぇや!!」
ガダラスを引き戻しブンブンと振り回しながらもう一度狙いすます。
「その言葉そっくりそのままあんたに返すよ、山田雄二君!!」
ユージ目掛けてガダラスを投げつける。
「っち!」
山田雄二と呼ばれ驚いたのか反応が遅れつつもまた剣で軌道を反らして受け流されてしまった。
そのまま勇者は一気にこっちに距離を詰めて斬りかかってくる。
勇者の攻撃をグレイプニルの鎖で受け流しながら競り合っている。
「なるほど、お前も俺と同じあっちの世界の人間ってことか…そりゃ強いわな!」
競り合いながら勇者は同郷なのを察したのか話しかけてきた。
「そうだよ、お前みたいに馬鹿みたいな暴走してないけどな!」
「ぬかせよ!大切だった仲間が殺されたんだぞ!?普通怒らないほうがイカレテルだろうが!!!」
「それでもお前は関係ない人を巻き込みすぎなんだよ!復讐だけなら勝手にやってろで済んだのに!!」
「俺の仲間はこの国に殺されたようなもんだ!!全員同罪なんだよ!!」
「極端すぎるだろ!お前に親切にした人や一緒に思い出を作った人達すらも巻き込んだ時点でおかしいんだよ!」
「勝手に召喚して勇者にされて、危険な化け物と戦わされてその結果大切な仲間も愛した人も奪われたんだぞ!!!」
「それでも、お前はやりすぎてんだよ馬鹿野郎!!!」
そう叫びながら鎖でユージの体制を崩しその隙にガダラスを引き戻してそのまま叩きつける。しかしユージはそれをマントをグルグルに巻いた左腕で受け止め逆に剣を突き刺してくる。
その瞬間鎖を解除して後ろに転がるようにして回避しながら距離を取った…。
「クソ国王も…皆を殺したバカ貴族共も皆殺しにして領土もアンデッドに襲撃させて滅ぼした…殺した糞共をムカデみたいに繋げて笑ってやってもこの怒りは収まらないんだよ…どんどん溢れ出てくるんだよ…!」
ガダラスがドスンと床に落ちお互い息も絶え絶えな状態で斬り合い言い争った、それでも分かり合えない平行線が続いていく。
「正直、お前には同情するよ…この国が復讐されるのも自業自得だし俺には関係なかった…でもな、お前が関係ない人たちを、ゼルアを巻き込んだ時点で話は別だ!!こっちも引けないんだよ!!」
「うるせぇ…。」
「そもそもそんなに大切な仲間を人形みたいに使ってんじゃねぇよ!」
そう叫びながらマントをバサッと脱ぎ捨てる。
「うるせぇぇぇ!!!!!」
ユージも叫びながら一気に接近して斬りつけてくる。
ガキーンと音を響かせながら左腕のシールドガントレットでそれを受け止める。
「大切な人を失ったんだ、誰もいない虚無感も悲しみも怒りもわかるよ、でもダメなことはダメなんだよ…。」
ギリギリとお互いの腕に力がこもるっ!
「わからねぇだろ!!お前は他人だろ!?なんでそんな肩入れしてんだよ!!馬鹿なのはてめぇだろうが!!!」
「最初は他人だったさ、でもお姫様と知り合ってクランさんやゴルドさん達と知り合って…ほっとけないだろ?」
お互いの剣と盾に力がこもりギギギと音を立てている。
「俺やお前には力がある手を伸ばせば届く、助けられる力があるんだよ…。」
「それを、それをやった結果がこれだ!!なんでフォンやランが…ナタリアが死ななきゃいけないんだよ!!!」
「それをやったやつらに同情の余地はないさ、罰も受けたんだろ?そこで止まってればもっと他に道もあったかもしれない、隣に居てくれる人も居たかもしれないだろ…!!」
「無理だ…ナタリアが居ないこんな世界滅んじまえ…。」
「そうやって諦めたからこうなっちまったんだろ!!」
ブレスレットにはここに来てからたくさんの武器をしまってきた、その武器のほとんどを使いきり鉈もムゥに貸している状態だ。そして今、最後の一本を、託された最高の一本を振りぬいた。
危険を感じたのだろうブレスレットから武器を出す瞬間、ユージは後ろに飛び距離を取った。
「それに今の俺には託された想いも、助けたい人もできた…だから俺はここに立っている!!」
エメラルドに輝く長剣、霊廟で受け継いだ魔を打ち破る聖剣を!!
「おじい…さまの剣…聖剣ディスペリオン?」
後ろからお姫様の声が聞こえた、この剣はディスペリオンというらしい。剣も盾も死闘の末おじい様から受け継いだものだ。この限界状態でそれが希望に感じられるのならいいことだろう。
俺はディスペリオンを構え、一歩、また一歩と歩き出す。
「何が想いだよ!そんなもん高が知れてるだろうが!!」
そう叫びながらユージは斬撃を飛ばしてくる、それをディスペリオンで斬り払いながら一歩ずつ進んで行く。
「なんなんだよ!急に出てきて知ったような口ききやがってふざけんじゃねぇよ!!!」
怒りに任せ何度も何度もオーラシオンを振り回し多数の斬撃を飛ばしてくる、それをすべてディスペリオンで斬り払う!!
「確かに俺は最近になってここに来たよそ者だよ、それでも知り合って、話して、絆はできた。お前が俺以上にたくさん持ってたはずの絆を!!」
「黙れよ!!!」
俺とユージは同時に踏み込み中央で激突した。
ディスペリオンはオーラシオンのオーラをはじめから無い物のように切り裂き剣と剣がぶつかり合う。
「俺は、ゼルアを助け出すんだ!!」
「俺は、ナタリアを助けられなかった!!」
両手で握った剣がギリギリと音を立ててぶつかり合う。
「何があったかわからない、俺は約束を守るために戦うと決めてここに来た!!」
「絶対にわかるわけがない、大切なものを失った絶望がどれほどだったのか!!」
ギィっと歯を食いしばりながらユージはどんどん力を込めてくる。
「たくさんの人と話したし、助けもした…その結果何もできない貴族から不満を買っていたのも気付いていた…それでも国のためになると皆が喜ぶって信じて戦ってきた…。」
ガキンと剣を思いっきり押し付け、お互いに弾かれあう。
「それが勇者なんだろ?お前だってたくさんのことが起きるだろうなか、自分の意志で引き受けて勇者になったんだろ!?」
「そうだよ!!!」
ガキーンと再びお互いの剣がぶつかりあう。
「そうなんだよ…信じてたんだよ…勇者として、希望であるはずだった…なのにぃ!!!」
ギギギと音を立てながら少しずつ押されていく、剣から怒りが伝わってくるようだ。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ」
力任せにユージは思いっきり踏み込んでくる。
俺は剣を反らしながら受け流しそのまま流れるよに斬りつける。
しかしユージはそれを体を捻り回避すると再び斬りかかってくる、何度も何度も振り下ろされる刃に自分も剣を合わせ撃ち合い続けた。ガンと音を立てて剣がぶつかり合った次の瞬間ユージは一気に後方に飛び距離を取った。
「あぁ、もううぜぇ…全部吹き飛べ!!マトリクストルネード!!」
ユージは剣を自分の前方で構え、こちらをすべて飲み込むような勢いの竜巻を発生させ撃ち放った。
俺はそれを正面からディスペリオンで斬り裂いて撃ち消した。
「隙ありだ!!」
その瞬間だった、竜巻の中から飛び出したユージに完全に反応が遅れた。剣を振り結界を撃ち消すも斬撃に間に合わない、直撃コースだった。
「ぐあぁぁっ!?」
直撃を覚悟した時のことだった。急にユージの体制が崩れこちらの斬撃が胴体を捕らえたしかしギリギリで距離を取られてしまい鎧にヒビが入る程度だった。
距離を取ったユージは左目のあたりを押さえながら苦しんでいた。
「この糞女がぁ!!!」
あの瞬間、ディスペリオンが結界を斬り裂いた瞬間にお姫様がスペルシューターでユージの顔を撃ったのだ。
「私だって、多くの民の思いを背負ってここに来た!何もしないでただ寝ているだけなどできるものか!!」
銃を構えたお姫様が俺の隣に寄ってきた。
「すまない、情けない姿を見せたな。」
「いいえ、お姫様かっこいいですよ。」
「!!…」
たくましいお姫様も少し照れているようだった。
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