第21話 勇者の仲間

 その時だった、黒ローブの片割れがこちらに向かってすごい勢いで飛び掛かってくる。

 ガキンと金属がぶつかり合う、俺は一番前に飛びだし鉈を抜刀して攻撃を受け止めた。


 敵の武器は槍で金色に輝きながら電気を帯びてバチバチといっていた。あいつだ!

「お姫様、ここの二人は俺とムゥが引き受けます!今のうちに先へ!!」

「すまん、任せる!第三小隊は跳ね橋へ迎え!残りは私に続け!!」


 そう言うと兵士を連れた姫様が中庭を駆け抜けていった。


 無事姫様達が行ったのを見送ったら思いっきり鉈を振り敵を弾き飛ばす。

「ムゥ、あっちはまかせても?」

 遠くで立っているもう一人の方を見ながらムゥに聞く。


「雷耐性のマントまで用意して、ご主人はそれを倒す気満々じゃないですか…。」

 ちょっと呆れたような雰囲気のムゥが俺の横に並ぶ。


「ご主人、鉈貸してくださいませ?」

 俺は右手で構えていた鉈をムゥに投げ渡した。


「お任せください!」

 そう言いながら受け取った鉈を水平に構え奥で立っていたもう一人のローブへと高速で駆け寄っていった。


 ローブはムゥの初撃を交わすと両手を上げムゥに向けて火炎弾を放つ。ムゥはそれを鉈で払いながら自分も火炎弾を撃って返していく。

「魔法戦はムゥに任せて、さぁ始めようか?この前のようにはいかないからな!!フォン・クロード!!」


 俺は勇者の仲間だという槍使いにこの前の仕返しをするつもりだった。出迎えてたなら好都合だ!!

ブレスレットからハルバードを取り出しフォンに向けて構えた。フォンも敵と認識したのか武器を構えなおす。


 次の瞬間、ガンとお互いの得物がぶつかり合う。お互いの武器を弾きクルクルと回転させその勢いのままもう一度振りかかる!フォンはそれを躱してそのまま突いてくる。


 当たるスレスレでフォンの体を蹴り飛ばし軌道をずらしながらこちらも突きに行く!フォンはそのまま態勢も立て直さず槍から紫色の電撃を放ってくる。


「クッソ…!」

 俺はマントで雷撃を受け流すために突きを止められてしまった。フォンはそのままドサっと倒れるが何もなかったかのようにそのままスッと立ち上がって再びこっちに向かって突っ込んできた。


 負けじとハルバードを構え突進を受け流しそのまま斬りつける!ハルバードはローブに絡みついてしまいそのままフォンからローブを剥ぎ取るだけになってしまった。


「素顔は初めて見たけど、めっちゃ青い顔してるなぁ目も虚ろだし…。」

 フォンの姿は長い髪を後ろで束ねた紫の軽鎧を纏うキリッとした青年という雰囲気だった。纏わりついたローブを引き剝がす一瞬でフォンはまた斬り込んでくる。一瞬反応が遅れたが、どうにか柄で受け止める。


 ぐっと物凄い力で押し付けてくる攻撃をどうにか受け流しグルンと一回転しながらカウンターで反撃をするもすぐにバックステップで距離をとられてしまう。


 距離をとったフォンはまた雷撃を放ってくる、それをマントで払いながら今度はこっちから斬り込んでいく。柄を撃ち合い縦に横にと何度もガン、ガンとぶつけ合うも中々決定打が決まらず競り合っている。


 距離をとれば雷撃、近接戦も見事なまでに捌いて見せてくる。流石生前幾多の強敵を打倒してきた槍術の名士といったところだろう。


「生きてたら正々堂々としたカッコイイ奴だったんだろうな…。」

 そう感じつつも、もう一度フォンを蹴りつけそのままハルバードを回転させながら自分もぐるりと回り勢いのままに斬りつける。


 受け流されるがそのまま斬り上げながら突きを繰り出すも柄をつかいうまい具合に弾かれてしまう。

 反撃の雷撃はマントで弾けているもののバチバチという感覚には襲われてしまう。何度も突き、斬り合うがなかなか一撃が決まらない。


 ムゥの方も優勢ではあるがまだ決着は付いていないようだった。

 ボフンという爆発音が響きもう片方の黒ローブが燃え落ちた、そこには予想通りというかやはり勇者の仲間だったランと呼ばれていた少女だった。この前倒した時に片足が引き千切られていたはずだが今は両足ともしっかり生えておりムゥの攻撃を避けながら器用に魔法を仕掛けていた。


「あぁもう、めんどくさいでございますね!!」

 ムゥもちょっとイライラしているような感じだった。


 横目に様子を見ようにもフォンの攻撃は鋭く隙を見せればすぐさま狙ってくる、意思のないアンデッドなのが不思議なほどだ。

 距離をとり仕切りなおそうとした瞬間だった、フォンが一気に距離を詰めて縦一線の鋭い踏み込みをしてきた。どうにか柄で受け止めるもパキッという音が聞こえる。


 ヤバいと感じ無理にでも思いっきり後ろにステップを踏んだ、バランスを崩すもどうにか距離を取ることに成功したがハルバードが耐えきれず二つにパッキリ割れてしまった。


 柄だけになってしまった方を投げ捨てつつ突撃してくるフォンを避けながら刃のある方で斬りつける、首を切り裂くことに成功したが相手はお構いなしに槍を振ってきた。


 やはり結晶を壊すかバラバラにするしか勝つ方法がないらしい。

 距離を取るフォンに対してハルバードの残り半分を思いっきり投げつける。


 それを弾いた瞬間、俺はグレイプニルをフォンの体目掛けて飛ばし動きを封じようとする。彼は左腕で鎖を受け止め、そのままあろうことか自身の左腕を槍で斬り落としてしまった。


 腕を斬り落としたまま突っ込んでくるフォンの一撃を鎖で弾きそのままブレスレットからバスターソードを取り出しながら横薙ぎに斬りつけた。腹部に大きな傷口を作りつつも何もなかったかのように金の槍を構えてくる。ムゥの方も鉈で斬りつけながら近接戦に持ち込んでいるようだ。


「人体ストリップとか誰も求めてないのでございますよ!!」

 よくわからない物騒なことを叫びながらランの腕を斬り飛ばしていた。


「上半身グラグラなのにまだ来るのかよ…アンデッドってやつはホントに…。」

 俺はバスターソードを構えながらもう一度斬りかかる、やはりフォンは受け流して一撃を入れようとするが腹部が裂けグラグラになった上半身ではバランスが悪いのかズレて隙ができていた。


 槍の一撃を回避しつつ剣を裂けた腹部に叩きこむ、その瞬間ズバッと腹部から上半身と下半身に体が分かたれたのだった。


「二つになってもまだ戦うのかよ…もういいだろ…。」

 フォンはバラバラになってもまだ残った右腕で槍を構え戦おうと蠢いていた。


「槍術士フォン・クロード、貴方は死してなお勇ましい誇り高き戦士だった。その誇りと共に安らかに眠れ…。」

 そうして俺はフォンの胸に深々とバスターソードを突き刺し水晶を砕いたのだった。


次の瞬間後方でズドンという爆発音が聞こえ振り向くとムゥが爆炎の中でマントをボロボロにしながら壁に叩きつけたランの胸に鉈を突き立てていた。


「この、手こずらせてくれちゃって…ご主人の方が早くケリがついたじゃないですか…。」

 戦っているときはやはり竜なのだろう、本気の目は恐ろしさを感じるほどの力が宿っていた。


「ムゥ、お疲れさま。」

「予想以上に時間がかかってしまいました。」

 そう言いながらボロボロになったマントをバサッと脱ぎ捨てた。


 俺はクランに貰っていた体力とスタミナを回復させるポーション二本をザツノウから取り出しグイっと飲み干す。


「とりあえずここは片付きましたがあの兵士達はどうなったかでございますね、もう全滅してるかもしれませんよ?」

「縁起でもないこと言うなよ…。」


 飲み終わった瓶を投げ捨て口を拭いながらムゥに突っ込みを入れている。

「あり得る話でございますよ、あたくし達より遥かに弱いでしょうし~。」

 そう言いながらムゥもポーションを飲んでいた。


「とりあえず、手分けして援護に行こうか?」

 そう言ったとたんすごくめんどくさそうな顔をしてきたムゥが目の前に居た。


「何その顔…。」

「なんでもござ~ません~。」

 そんな話をしている時、ズドーンというすごい音が響いてきた。


「今の音は?」

「たぶん謁見の間の方だと思います。」

 嫌な予感がする。


「ムゥ、跳ね橋の方の援護任せた!」

「しょうがないですね、鉈このまま借りていきますよ!」


 そう言って二人はお互い反対の方向へと走り出し、俺はフォンが握りしめていた魔槍ライボルザードを勝手に貰い、そのまま謁見の間へと走った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る