第20話 決起の朝、城内へ
テントに今日も光が差し込む、目を開けるとなんだか外が騒がしい。
「ん~…。」
頭を掻きながらむくりとベッドから起き上がるとすでにムゥが起きており外を眺めていた。
「ご主人、おはようございます。なんだか本部前に集合して欲しいって朝から大騒ぎでございますよ?」
「じゃあ行ったほうがいいのかなぁ…。」
「とりあえず、装備つけるのお手伝いしますね。シャキっとしてくださいませ!」
そう言いながらムゥが装備を持って寄ってきた。
装備を整え人が集まっている広場へと二人で歩いていく、すでにたくさんの人が居て大騒ぎとなっている。
「注目せよ!!」
大きな声が響き渡った。ゴルドだ、彼は上り台の上に立ち周囲の人々の注意を一言で集めた。
「今まで激しい戦いに参加してくれて改めて感謝する。本日、前々から話されていた一大作戦を結構することを宣言する。」
初耳なんだが…
「これよりサーリヤ姫より詳細を説明していただく!」
そう言うとゴルドは横に移動しお姫様が上り台に上がってきた。
「皆、朝早くからの集合感謝する。本日兼ねてより計画していた勇者の討伐作戦を実行しようと思い集まってもらった!!」
「この作戦はこの国の運命を左右する重大なもので命の保証もできない。よって皆に無理強いはしない、だが!どうか私に、この王国に力を貸してほしい!!」
そう叫ぶとお姫様は深々と頭を下げた。
「「「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」
次の瞬間集まっていた冒険者や兵士から揺れるほどの歓声があがった。皆やる気らしい。
「作戦は正面からゴルドを指揮官とした本体に城攻めをしてもらい、その隙に私の少数精鋭部隊で城内に侵入し勇者ユージ・ヤマダを討ち取るというものだ。」
めっちゃシンプルな作戦だった。
「詳細は各部隊分けをおこないそこで各部隊長に伝達する。これより作戦準備を開始し準備でき次第開始する。」
「シンプルイズベストってことじゃないですか?」
ビックリしていた俺を察してか隣のムゥが話しかけてきた。
「ラドレス城の壁は厚く怪物共もいる、正面から攻めるのは苦戦を強いられるだろうが皆の命決して無駄にはしない!!」
「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
やっぱこういうところはノリというか勢いが全然違うんだろうなと感じるとこだ。
決起集会のような作戦会議が終わり部隊編成が始まった。
「俺はどうすっかなぁ…。」
「冒険者部隊に混ざりますか?それとも参加やめときます?」
「あ、タカユキさんムゥさん~!」
俺とムゥがどうするか話しているとクランが駆け寄ってきた。
「お二人に話があるとのことでゴルドさんが呼んでいました。一緒に来てもらってもいいですか?」
なんかご指名が入った。
「わかりました、今行きます。」
「ご指名はいりま~す!でございます。」
おちゃらけるムゥを小突きながら一緒にクランの後を追う。
「お連れしました!」
クランに連れられて本部テントに来た俺とムゥの前にはサーリヤ姫とギルドマスターゴルドそしてお姫様の近衛であろうガチガチにフルプレートの騎士が数人いた。
「お呼びでしょうか?」
尋ねると姫とゴルドはこっちを向いた。
「あぁ、よく来てくれた。君たちは今回の作戦参加してくれるのだろうか?」
「はい、とりあえず冒険者部隊に混ざって参加しようと考えてました。」
それを聞いたお姫様の顔が少し安心したように緩んだ気がした。
「そうか、ならば単刀直入に聞こう。私と共に城内に潜入する部隊に加わってほしい。」
願ったり叶ったりだがまさかの申し出に少し驚いた。
「なぜか聞いても?」
「あぁ、元々潜入はここに居る私と私の近衛で行く予定だったのだが、この前の戦闘で君を加えようとゴルド殿と相談していたのだ。」
「お前さんはあの時誰よりも早く状況を把握して対応しようとしてたし姫殿下も助けてくれたしな。」
どうやらムカデ人間の時の戦闘が評価されたみたいだった。
「そういうことでしたら、お受けします。全力で協力させていただきますよ。」
「ありがとう、感謝する。」
ゼルアを助けるためにはどうしても城に行く必要がある、この申し出は自分にとっても都合のいい展開だった。
「俺は外の野郎共の指揮があるから一緒には行けない、健闘を祈るぜ。もちろん無事成功して帰ってきたらそれなりの報酬を用意するから期待してくれ!」
「それは楽しみですね。」
冒険者登録もいい様に融通してくれるかもしれない。期待しよう!
「もちろん出撃前の準備もできるだけ用意しますので必要なものは全部言ってくださいね!」
「ならお言葉に甘えて、とりあえずプロテクションマントってあったりしますか?使ってるのがこの通りちょっとボロボロで…。」
そう言いながら装備してるもう役に立つか怪しい擦り切れ穴だらけのマントを見せる。
「あぁ、すみませんプロテクションマントはサーリヤ姫殿下の一着だけしかないんです…近衛の方々の使ってる耐性マントなら何着かありますけど?」
やはり高級品でなかなかに入手するのは難しいらしい。
「無理を言ってすみません、なら雷耐性のマントってありますか?」
「はい!ちょっと待っててくださいね、それならすぐに用意できます!!」
クランはそう言うとささっと走っていった。
「ところで、どうやって侵入するんですか?」
「あぁ、それは地下水路から中庭に潜入する隠し通路があの城にある。そこから侵入して勇者を直接強襲する。」
「なぜこのタイミングなのですか?もっと早いタイミングで作戦を結構してもよかったと思うのですが?」
正直今のタイミングである必要はなかったと思ってしまう。
「それは…。」
「余裕がなくなったんだ…。」
お姫様が話してる途中でゴルドが割って入ってきた。
「昨日の襲撃で食料に対する不信感が出てしまったのとほかの国のギルドからの援助が乏しくなり始めていたんだ。」
頭を掻きながら面目無さそうにゴルドが説明してくれる。
「これ以上長引くと民に犠牲者が増えてしまう、もう時間をかけてられないのだ!」
「城内の状況が全くわからないのも決行しなかった理由だが、ここ最近現れるアンデッドの数が減っているのと、 昨日の勇者の仲間が直接襲撃してきたのを考えて向こうもきつくなっていると踏んだんだ。」
「それで今となったのですね、わかりました。」
確かに、勇者が大切にしていたであろう仲間を使って強襲してきたのなら余裕が無くなってきていると考えてもいいだろう。
「それに死人はともかく勇者自体は飲み食い必要だからな、そこら辺もジリ貧になってるだろう。」
敵は勇者以外死人というとこで時間をかけて消耗させていたみたいだった。
「兵糧攻めですね。」
お姫様とゴルドが頷いた。
「お待たせしました!雷耐性に特化したものですがよかったでしょうか?」
クランが暗い紫色のマントを持って戻ってきた。
「はい、ありがとうございます。使わせていただきますね!」
「頑張ってくださいね!!」
クランからマントを受け取りボロボロのマントを外しムゥに渡してから新しいマントを身に纏った。
「一応ムゥさん用にも耐性マント持ってきたんで、よかったら使ってください。」
「ありがたく使わせていただきますね!」
ムゥはクランににっこり微笑みながらマントを受け取りバサッと身に纏う。
「あと、皆さんの分の回復ポーションなど薬品を用意いたしました。出発の際にお持ちください!」
必要であろう物をどんどん用意して万全の準備を進めていく。
「サンドイッチになりますが食事も用意しておりますのでよかったらどうぞ。」
クランはたくさんのサンドイッチが乗ったお皿を並べて振舞ってくれた。
「美味しいですよ!」
「ありがとうございます!」
クランは嬉しそうに仕事を続けていく。
「これが城の見取り図だ、ここの水路から中庭に直接侵入しおそらく謁見の間に居座っている勇者を討ち取る作戦となる。」
サーリヤ姫がサンドイッチを片手に作戦の内容を説明していく、時間が惜しいのだろう。
「城内が今どうなっているかわからないが、勇者さえ倒せば我々の勝利だ!」
今戦っているアンデットは全て勇者が作り出して操っていると予想されている、そのため勇者さえ倒してしまえばすべてが終わるのだ。
「食事も装備の準備も済んだ、本隊の攻撃が始まったら我々も作戦を開始する準備はいいな?」
サーリヤ姫の近衛はフルプレートで表情はわからないがピリピリとした緊張した空気を感じた。
「よし、野郎共の準備も終わっただろう。こっちも作戦開始するぜ。」
ゴルドがサンドイッチをほおばるとポキポキと両手を鳴らしながら動き出す。
「姫殿下、どうかご武運を!!」
「ゴルド殿も、よろしく頼みます。」
おぅ!と手を振りゴルドはその場を去っていった。
「よし、我々も潜入地点まで移動する!行くぞ!!」
サーリヤ姫の号令と共に俺達も移動を開始した。
「皆さん、どうかご無事で帰ってきてくださいね!!」
クランの精いっぱいの見送りを受けて俺達も本部から目的地へと歩き出した。
ラドレス城の周囲には侵入を防ぐための堀が掘られていてそう簡単に近づける物ではないのだが、一か所だけメンテナンス用に外側から入れる隠し通路が用意されており今回の作戦はそこから潜入する。
ラドレス城正面、本隊の攻撃が始まったのだろう爆発など戦闘音が響き渡る中俺達は城の裏にある大型倉庫に到着していた。
中には農具や武器など様々な道具が置かれており、奥には大量の薪木が積まれている。近衛兵の人達が薪木の一部をすっと引き抜き始めた。
するとそこから地下降りれる扉が現れ、次々と兵士の人達が中へと侵入していく。最後に俺とムゥも梯子を降っていった。
地下は暗かったが先頭の兵士が光魔法で辺りを照らしながら速足で通路を進んで行く。
カンカンと鎧の走る音が響き渡る、通路は狭く一列で進んで行くのがやっとなくらいでしばらく使われていないのだろう水とカビのような匂いが充満していた。途中で複数の道に分岐しているがそこは無視して中庭目指して真っすぐに進んで行った。
やがて行き止まりへと到着した、そこには鉄の梯子があり先頭の兵士がゆっくりと登っていく。最初の一人が一番上に到着すると扉を押し上げているのだろうゴリ、ゴリと鉄のズレる音が響いてきた。
「姫殿下、大丈夫で。さぁ早く!」
兵士の声が上から響く、それを聞き順番にカツカツカツカツとお姫様と兵士達が登って行った。
最後に俺とムゥが梯子に手を掛けて登っていく。登り切り外を覗くと本来は花壇
や木に隠れているのだろうがマイナーエーテルの影響で中庭は枯れ果てむき出しになっていた。
そして、先に登っていた兵士達は今にも剣を抜き放ちそうなほどに緊張していて何
かあったことを感じさせる。
周りを見てみると中庭の中央に二つの黒ローブが見え、兵士達はその人影に警戒しているようだった。
「作戦がよまれていた?」
「あらかじめここで待ち受けていたということだろう…突破するしかない!」
お姫様もスペルシューターを構え今にも総力戦が始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます