第19話 王国の過ち
「ちょっとコスパが悪いのはまだ馴染んでないのでございましょうね、まだ時間がかかりそうでございます。」
なんだかムゥが小声で呟いてた気がしたが今は気にする気にもなれなかった、そのままゆっくりと意識が沈んで行く。
暗闇の中何かが蠢いている、ドルテルスに止めを刺した時のような自分の奥底から湧き上がってきた何かだと直感で感じる。それが少しずる少しずつ近づいてくる。目を凝らすと強大な竜の頭のようなものがこっちを見据えているのがわかり、それに吸い寄せられていく。
お互いが目の前にやってくると少しずつそれと自分が混ざり合っていくような感覚に襲われた。意思が飲み込まれる…ヤバイと思っても何もできない…どうすればっ…。
「ご主人!」
その時、ムゥの大きな声に現実に引き戻された。今のは何だったのだろう、考えようとしてもどんどん記憶が薄れてすぐにわからなくなってしまった。
「夜中ですけどおはようございます、お客様でございますよ。」
そう言われて俺はベッドからゆっくりと起き上がる。
「失礼する。」
そう言いながらテントに入ってきたのはサーリア姫だった。
「姫殿下がいったいどうしたのですか?」
「昼間の礼をと思ってやってきた。ホントはもっと早い時間に来るつもりだったのだがいろいろ雑務があってな…。」
「我ながら無茶はしたなと思いますけど、姫殿下がご無事でよかったですよ。」
昼間、お姫様を助けた時のお礼に来たらしい。律儀で民にも気を配るいいお方なのだろう。
「ありがとう、本当に助かった…其方が来なかったら私はどうなっていたかわからなかった、感謝する。」
「そんな、お気になさらず。」
感謝を言い、頭を下げるお姫様にむずがゆさを感じた。
「あの、姫殿下丁度いい機会なのでお時間よろしければ今戦ってる勇者のこと。そして貴方の妹、ゼルアの事をお聞きしても?」
ゼルアの名前を聞いた途端お姫様は驚いたような顔をしてこっちを向いた。
「なぜ、ゼルアの事を?あれのことは城の中でも一部の者にしか知られていないの
に…。」
「あったのです、街はずれの地下施設で。」
それを聞いてお姫様はさらに驚いたようだった。
「その場所はたぶん王家の旧霊廟だな…数代前の王が作らせた場所で今は使われていないはずだが…。」
「お話長くなりそうですし、お茶でも貰ってきますね~。」
黙って話を聞いてたムゥがそう言うとさっさと出ていった。珍しく従者らしいことをしている。
「この前の戦闘で地割れに巻き込まれた時、その霊廟に落ちたようで、その時に偶然出会いました。」
「だが、ゼルアは城から出ていないはず。いったいなぜ?」
「霊体の状態でさまよっていたのです、おそらく霊廟に発生していた紫水大結晶に引っ張られたのだろうと。」
そうなのか…とお姫様はムゥが座っていた椅子に腰を下ろした。
「ゼルアは、妹と話したのは幼い時だけだった。その時は普通だと思われていたのだがある日、妹は死んだネズミ動かして踊らせて見せたのだ…。」
お姫様はゼルアの事を語り始めた。
「それを見た父は妹の異形の力に恐怖し、地下に専用の部屋を作りそこに軟禁してしまったのだ。それ以来私にも会うこと禁止した、父はとても臆病な方だったよ。」
なんとなく感じたが国王であるお姫様の父は、あまり王として相応しい人物ではなかったみたいだ。
「ゼルアに関しては私もこの位しかわからないのだ、すまないな…。」
「いえ、なんとなくどういう環境だったかはわかりました、ありがとうございます。」
ゼルアの事を聞き終わったあたりでムゥが紅茶のセットを持って戻ってきた。
意外にも慣れた手つきで二人分の紅茶を用意してお姫様にお辞儀をすると自分はささっとベッドに行きボフっと座った。
「あとは、勇者のことだったな。この国は少し前まで周辺の土地に強力な魔獣や魔物が生息していて危険な場所が多く、国民に犠牲者も出ていたし領土も足りなくなって困っていた。」
「そこで勇者を?」
「あぁ、困り果てた父は儀式により異世界より勇者としてとある少年を呼び出した。彼の名前はユージ・ヤマダ、最初は戸惑っていたがやはり儀式で呼び出した人間だ。」
山田雄二だろうか?おそらく同じ日本出身なのだろう。
「彼は我々より身体能力も高く聖剣の力もあってすぐに順応し三人の仲間と共に次々と魔物、魔獣を討伐していき我が国は土地も増え豊かになっていった。」
聞いた感じはよくあるゲームやマンガのような展開で勇者が闇堕ちする気配は全くなかった。
「そんな日々が続くなか、勇者達をよく思わない者たちが現れ始めた。貴族たちだ…。」
雲行きが怪しくなってきた。
「勇者が活躍し国民の人気を集める中、何もできなかった貴族たちは兵を無駄死にさせ無能を晒し信用を完全に失ってしまった。」
「勇者に丸投げして頼った結果ですね。」
お姫様はああと頷いた。
「その結果、国民の反発を受け使える領地は増えたが税を集めることができなくなってしまったのだ。」
国民が何もしてくれない領主に怒ったみたいだ。
「無理矢理税を巻き上げ、国民の味方の勇者を敵に回すなんてことできるはずもなく領主達は新たな問題に困ってしまった。」
お姫様の表情が少し暗くなった気がした。
「そこで、貴族たちは王に、父に勇者達を労い今後の国の方針などについて話す食事会を開くことを提案した。もちろん勇者の人気に不安を感じていた父もそれを了承しすぐに食事会は開かれた。」
そこで少し沈黙してしまった。
「それが地獄の始まりだった…その食事会で勇者達に振舞われた食事に毒が盛られていたのだ。次々と仲間が倒れユージ自身は加護のお陰で無事だったようだが騙されたとわかり激怒していたらしい。」
それはそうだろう、罠にかけられたのだから怒るのは当然だ。
「その時だった、とある貴族が私兵と共に勇者を殺そうと不意打ちを仕掛けたのだ。しかしそれは失敗に終わった、我が末妹にしてユージの仲間だったナタリアがそれを庇ったのだ。」
いくら勇者の仲間でも流石に王の娘は毒を盛って殺すわけにはいかなかったのだろう。
「でも、勇者なら癒しの魔法くらい使えたのでは?」
お姫様は頷いた。
「あぁ、その貴族は魔法の対策として治療不可能の傷を与える短剣、呪剣ガラボを用意していたのだ。」
呪いを与えるような武器もこの世界には存在しているらしい。
「ガラボに心臓を刺されたナタリアはそのまま命を落としてしまった。それがきっかけになってしまったのだ、ユージは怒り狂いその場にいた貴族全員を斬り殺し何もしなかった…できなかった父も…。」
おそらくあのムカデ人間にされていた国王の傷が勇者に斬られた時のものなのだろう。
「そして、勇者はおそらくゼルアの力を利用して今まで倒した魔獣や魔物の亡骸を使い怒りのままにこの国を崩壊させようとしているのだと思う。」
「よく、姫殿下は御無事でしたね。」
「私はその時、スペルシューターを受け取りにドワーフの都に遠征していたのだ…帰ってからゴルド殿に状況を聞き今に至る。」
早い話が貴族が暴走し、その結果勇者の逆鱗に触れてしまったらしい。
「おじい様が居てくださったらこんなことにはならなかったのだろうがな…。」
「そうなのですか?」
「あぁ、おじい様は騎士王と呼ばれそれは立派な王だったらしい。私が小さいころ父に何処かへ来るように伝えたまま行方不明になってしまい、開いた空席に座る形で父が王位を継承したのだ。」
あのじいさんが力をホントに継承させたかったのは俺じゃなくその臆病な王だったのかもしれない。
「今の国を見たらおじい様は嘆き悲しむだろうな…。」
無能が王となった結果、死の王国となってしまったらそりゃ悲しむだろう。
「すまんな、長話が過ぎた。これが今の我が国の状態であり、もう余裕もない…どうかこれからも力を貸してくれるとありがたい。」
そう言うとお姫様は深々と頭を下げた。
「それでは、私も少し休むとする。失礼するよ…。」
そのままお姫様はテントを出て去っていった。
「自業自得でございますね。」
ベッドでゴロゴロしながらムゥがはっきりと言ってしまった。
「まぁなぁ~、罠にはめられて仲間を皆殺しにされたら耐えられないよな…。」
正直勇者に同情したい気持ちもあった。
「ご主人はどうします?あの話を聞いてまだ協力して戦うのでございますか?」
「あぁ、戦うさ。あの人達のためじゃない約束のためにね。」
ゼルアとの約束を守るために俺は戦う、もうそう決めているのだ。
「ご主人ももうちょっと休んでおいていいんじゃないですか~?」
「そうするわ、おやすみ。」
そう言いながらベッドにドサっと倒れて目を閉じるのだった。
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