第18話 悲しき襲撃者

 音がした方を見ると土煙の中、人の胴ほどの太さのある蛇のような長い物がウネウネと蠢いているのが見えた。周りにいる人々がその蠢く物を見据えていると、次第にその姿がはっきりと見えてくる。


 それは長い体に人の物や虫の鎌のような腕がガシャガシャと動き、その長い体は人の上半身を雑にツギハギ繋ぎ合わせたようなとても直視できない醜い姿をしていた。


「なっ、ムカデ人間じゃねぇかよ!!」


 それの姿はまさに人を繋ぎ合わせたムカデのような怪物ムカデ人間としか呼べないような化け物が蠢き腕を振り回し周りを攻撃して回り始めた。


「そんな…いや、いやぁ…お父様あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ムカデ人間の先頭の顔を見たお姫様が急に悲鳴をあげ膝から崩れ落ちた。


 どうやらあのムカデ人間の先頭の体がこの国の王様つまり姫様の父親だということらしい。


「うああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 お姫様はその場で泣き叫びながら動けなくなってしまった。

 ムカデ人間はその声に反応したのか父親の意思かわからないが姫様の方を見つめている気がした。


「あれヤバいでしょ!!」

 全速力でお姫様の方に一直線に駆け寄る。

 お姫様を見つめるムカデ人間の先頭、王様の体にある左肩から右脇腹にかけて縫い合わされている傷口がブチブチと音を立てて開きだす。


 王様の傷口の中から何か虫のような頭がグリンと顔を出した。


 どうにかその頭がお姫様を狙い何かをする前に間に駆け込んだ。次の瞬間虫の頭から紫色の液体が噴射された。

 俺は右手でプロテクションマントをバサッと広げ自分とお姫様に覆い被せた。バチバチバチバチとマントに液体がかかりそれにマントの防御術式がどんどん削られて薄くなっていくのを感じる。


「どぉおおおおおりゃああああああ!!!」

 そろそろヤバいと思ったその時だった。雄叫びと共に大斧を振り上げた男がムカデ人間に突撃して腕を5、6本斬り落としながら体制を崩してくれた。


 液体の噴射を止められ、体制を崩してよろめくムカデ人間、俺はチャンスと思いマントを振り払い強引にではあったがお姫様が握っていたスペルシューターを借り受けてムカデ人間の先頭に狙いを定めトリガー引く。


「ッ!?」

 スペルシューターは見た目は地球にあったアサルトライフルそのものなのだがトリガーを引き、術式が発動し先端に魔法が生成されて発射されるみたいで、ゲームで遊んでいた銃の感覚で撃とうとすると2テンポ程遅れてすごく違和感を感じる。

 それでも一度発動すれば連射はできるようで最初の狙いはズレたがダンッダンッダンッと王様の傷口から生えていた頭を焼き落とすことには成功した。


「いまだ野郎ども!!ムカデ野郎の足を斬り落として胴体を地面に磔ちまえ!!」

 最初に突撃した男の指示に従い動ける冒険者や兵士たちがムカデ人間に群がり腕を斬り落とし槍や剣で地面へと突き刺し動きをどんどん封じていった。


「ご主人、大丈夫そうですね!」

「今更かよ、もうちょっと早く来て助けてくれてもいいんだぞ??」

 どうにかピンチを切り抜けたところでムゥが安否確認にやってきた。


「よくわかんない液体吐いてるんですよ?下手に魔法使って引火したらやばでございますでしょ?」

 それもそうだが、ちょっと納得いかなかった…。


 そんな話をしているとムカデ人間の先頭がこっちに突進攻撃を仕掛けてきた、俺は銃を左手に持ち替えながらそれを回避しそのまま右手で鉈を抜刀と同時に先頭の胴体の繋ぎ目を狙い振りぬいた。


 先頭の胴体を斬り落とし、周囲を見回すとそれに気づいた大斧を担いだ男が片付いたぞと手を振って合図をしてくれた。


「ア…ッ…ア……。」

 王様の体だけはまだ動けるらしくうめき声のような声をあげながらゆっくりと呆然としているお姫様の方へと這いずり寄っていく。


「サーリヤ姫、お気を確かに…残酷かもしれませんがお父上は貴女に眠らせてほしいのです。」

 俺はそう言いながら姫様に近づき借りていたスペルシューターを差し出した。


「私には…できない…お父様を、この手でトドメをさすなんてっ…。」


「そうかもしれません、ですがこれは貴女の使命なのです王族としてこの国を継ぐ者として、貴方が背負わなければいけない覚悟なのです。」

 そう熱弁しながら姫様の右手に銃を握らせる。


「私は…私はっ!!!」

 そう叫びながら、サーリヤ姫は銃を王のアンデッドに向けて両手で構える。


「お父様ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 悲しい叫びと共にダンダンダンと銃声が響き渡り、姫の悲しみに答えるように雨がポツポツと降り始めた。


「姫様、最後の時、王様も救われたように笑っておられました…お見事です。」

 銃を構えたまま崩れ落ち涙を流すお姫様にそう話しかけながら俺はその場で立ち上がった。


「ご主人後ろです!!」

 その時だった、ムゥの叫び声を聞き振り向きざまに左手のガントレットを構えた瞬間、ガキンッという音が響き黒いローブの男が槍を構えて突っ込んできていたのだ。


「なんだお前は!?」

 その黒ローブは俺に攻撃を弾かれるとそのままさらに連続突きを繰り出してくる、それをどうにか凌ぎ切ったと思ったその時、雷撃を纏った鋭い一撃がガントレットに直撃しそのまま吹き飛ばされてしまった。


「ぐっっ!」

 左腕がビリビリと痺れて感覚が無くなってすぐに起き上がることができなかった。


「ご主人!!」

 追撃しようとしていた黒ローブとの間にムゥが火炎弾を撃ちながら割って入り牽制し、大斧の男が思いっきり斬りかかり助けてくれた。


「だい、じょうぶ…!!」

 左腕の感覚が無くなっていたがどうにか立ち上がり右手で鉈を構える。


 すると黒ローブの男はランと呼ばれていたリッチーの傍へと下がり、そのまま突き刺さっている剣を引き抜きランを抱え上げた。


「あの野郎、ランを回収するのが目的か!?」

 大斧の男が叫ぶと黒ローブは槍を倒されたムカデ人間の方に向けて雷撃を放った。


「まずい、全員離れろおぉぉぉぉ!!!!」

 男が叫ぶと同時に雷撃の直撃したムカデ人間の体がボコボコと膨張していきズドーンと大きな音を立てて爆発したのだ。周りにいた人はもちろん俺達も爆風に吹き飛ばされ、ムカデ人間は跡形もなく吹き飛び、黒ローブは姿を消していた。


「ご主人、生きてますか~?」

 ムゥが体についたホコリを払いながら吹き飛ばされて転がっている俺の元に寄ってきた。


「どうにかね、左腕がまだ痺れてて動かないけど…」

 電撃を纏った槍の一撃をモロに受けた左腕はまだビリビリと痺れて感覚が薄くなっていた。


「いやぁ~参った参った…あのウネウネ野郎の中に爆発系のスクロールが仕込まれてたみたいで見事にやられたわ…。」

 そう言いながら大斧を担いだ男がこっちに歩いてきた。よく見るとガタイはよく短い銀髪に短い顎鬚を蓄えた気のいいおっちゃんというイメージの中年の男性だった。


「坊主、大丈夫か?怪我はなさそうだな?」

「はい、さっきはありがとうございました、危なく溶けるとこでした。」

 そういうとガッハハと笑いながら手を差し出してきた、それを握ると力強く引っ張るように起きるのを助けてくれた。


「俺は、ゴルド・アルガードこの国のギルドマスターをしてるもんだ!よろしくな!!」

 そう言いながらギュッと手を握りそのまま握手をしてくる。


「ありがとうございます、俺はタカユキって言いますここには一応冒険者になるために来たんですけど…。」

「知ってるぜ、クランから話聞いてたからな。なかなか会えなかったが冒険者希望のすごく戦える少年が来たって!!」

 ゴルドと簡単ではあるが挨拶をしてそのまま周りを見渡す。


「結構やられましたね…」

「あぁ、なんせ配給所で爆発されたからなぁ…被害が結構出ちまってる。」

 周りには吹き飛ばされた冒険者や壊れたテントや机、椅子の残骸などめちゃくちゃな状況で救護班が駆けまわってるのが見え、爆心地は黒く焼け焦げクレーターとなっている。


「お姫様は無事でした?」

「たぶんな、今は近衛の連中が囲んでどっか行っちまったがな。」


 とりあえず、お姫様は無事らしい。俺は左腕を握りながらさっきの黒ローブが気になっていた。


「あれは多分フォン・クロード、勇者の元仲間の槍の使い手だな。姿が見えたわけじゃないがあの槍は魔槍ライボルザード、間違いないだろう。」

 ゴルドは察してか不意打ちしてきた黒ローブの正体を予想してくれた。


「勇者の仲間がリッチー化して襲ってきてるってことですか?」

「あぁ、ライボルザードはフォンが愛用してた槍だからおそらくな。」


「でも変ですよね、戦場で見たのもですけどリッチーって自分の欲望のために動く意思のある上位アンデッドのイメージだったんですけど、あの二人も戦場に居たのもそういう雰囲気は感じられなかった。」


 そう、リッチーと言えば会話もできるほど理性がはっきりしているはずなのにあれらにはそういうものが一切感じられなかったのだ。


「ドールリッチー、生前の能力を行使できる意思無き人形ってところだろうな。」

「実際結構強かったですね…。」

 左腕を押さえながらさっきの槍さばきを思い出す。


「まぁ細かいことは今考えてもしかたねぇ、お前も今は休んでくれ!俺も後処理行かねぇとだしな!!」

 ゴルドは俺の背中をバンッと叩く。


「なんかあったら呼びに行くから、そん時はよろしくな!!」

 そう言うとガハハと笑いながらゴルドは去っていった。


「豪快な人だったなぁ…。」

 背中をさすりながらゴルドを見送った。


「ご主人結構注目されてるみたいでございますね。」

 隣で傍観していたムゥが急に話しかけてくる。


「そうか?確かに今はお姫様庇っちゃったけど。」

「そもそも1メートルくらいある鉄球を戦場でブンブン振り回してたら嫌でも目立ちますよ。」


 確かに初参戦の時はゲーム感覚でガダラスを振り回していたのは事実だったし骨の怪物も結構潰してた。


「とりあえず、テントが無事なら戻ろう、疲れたよ…」

「そうでございますね。」

 話ながら二人でテントまで戻ることにした。


「そういえばご主人、左腕はもう大丈夫なのでございますか?」

 幸いテントは無事で今は中でベッドに寝そべり休んでいた。


「あぁ、もう平気だよ。痺れもとれたし。」

 そう言いながら左腕をブンブンと振り回して見せた。


「それよりも、マントがもう限界かなぁ。」

 そう言いながら椅子に掛けたマントを見やる、マントはもう裾はズタズタで広げると大きな穴がいくつも空いておりもう限界だろうというダメージだった。


「コウダイさんのマント、めっちゃ助けられたなぁ。」

「なんだかんだ一番役に立つアイテムでございましたね。」

「まだ使えると思う?」

「なに貧乏性だしてるのでございますか、一応魔法効果は残ってるみたいですけどちょっとみっともないでございますよ。」

「でも高級品らしいし支給品とかであるもんなのかな?」

「聞いてみたらいいんじゃないのでございます。」


 ベッドに寝そべりながらムゥと雑談をして休憩しているとだんだんと眠気に襲われてきた。


「ご主人、少し寝た方がいいんじゃないでしょうか?」

「そうする、何かあったら起こしてくれ。」

「わかりました、おやすみなさいませご主人様~。」

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