第15話 約束

「見事ナリ、若キ戦士ヨ…我ニエイユウノ器ヲ示シタ…。」

 老騎士の胴体の右側に大きな風穴が開いている。


「ソナタモ、難儀ナ運命ヲ背負ッテオルノダナ…フフフ。」

 難儀な運命?よくわからないことを言っているが何とか勝てたみたいだった。横を見るとムゥも溜息を吐きながらペタンと座り込んでしまっていた。


「受ケ取ルガヨイ…我、ドルテルス・ダン・ラドレスノ積ミ重ネタル経験ノ全テ、クレテヤル…。」

 そう言うと老騎士ドルテルスの左手に金色に輝く光の玉のようなものを作り差し出してきた。


「技能継承でございます。自分に蓄積された経験を死の間際に譲渡する特別な儀式でございますよ。」

 疲れ切ったムゥが教えてくれた。俺はゆっくりと立ち上がりドルテルスに右手を差し出す。するとドルテルスの作り出した光が俺の体に光の粒子となり吸い込まれていった。


「それは戦闘技術など体が覚えていく経験や感覚を別人に継承させるものなので、記憶などを継承するわけではございません。何が変わったとかはおそらく実感できないと思います。」

 ムゥの説明を聞き、確かに何がどう変わったかは分からなかった。だが明らかに欠けていた戦闘経験や技術を補ってくれているような気がする。


「コレデ、我モ愛スル者ノ元へ行ケル…感謝、スル…。」

 ドルテルスからの継承が終わった時、すこし微笑んだ気がした。


「シカシ…貴様ノ言葉ガ偽リダッタノナラ、死ンデモユルサヌ…見事我ガ愛シノ孫ムスメを幸セニシテミセヨ。」

 なんだかんだで孫が大切なおじいちゃんだったらしい。


「言われなくてもわかっています、お・じ・い・さ・ま!」

 そう言うとハハハとドルテルスは笑い足元から少しずつ光に包まれ始めていた。


「我が孫娘ゼルアは、異形の力のせいで悲しき運命を背負ってしまっている。貴様はその運命を打ち砕き幸せを与えてやってくれ…任せるぞ。」

 カタコトだった話し方が消滅の間際元に戻ったようにはっきりと語りかけてきた。


「あの水晶を砕くがいい、その先に出口がある。しかし、あれを砕けばゼルアは肉体へと戻されるだろう。」

「おじい様…。」

 少女がゆっくりと歩み寄ってきた。


「ゼルア、幸せになるのだ。少しの間だが共に居れて嬉しかったぞ。」

 そう言うとドルテルスの体が完全に光に包まれ、光が天に昇って行った。

「後は任せたぞ、難儀な運命の小僧よ。さらばだ!!」

「俺はタカユキだ、覚えておけよジジィ!!」

 ハハハという笑い声が聞こえた気がした。完全に光が消えたその体はドサっと音を立てて砂へと変わり崩れ落ちた。


「おやすみ、おじい様…安らかにお眠りください。」

 ゼルアはそう言うと両手を握り祈りを捧げていた。

「君は、ゼルアと言うんだね、ごめん。おじい様を…。」

 そこまで言うとゼルアはこっちを向き首を横に振ってくれた。


「違うの、これでよかったの…おじいさんの願いを叶えてくれてありがとう。」

 そういうと涙を流しながら微笑んでくれた。涙を拭ってあげれないのが悔しい…。


「次はゼルア、君の番だよ。絶対助ける!」

 うんと頷く彼女を必ず救い出すこと改めて心に誓った瞬間だった。


「とりあえずご主人、水を差して悪いのですがドルテルス王の装備頂きませんか?とりあえず傷は止血して処置しますが装備が損傷していますしそっちも受け継いでしまいましょう。」

 見事に雰囲気をぶち壊してくれたムゥは魔法と布を使い俺の肩と腕の傷を治してくれた。怪我を治したムゥは早速ドルテルスの着ていた鎧を確認しに行く、拾い上げ素材などを確認しているようだった。


「面白い子だね…。」

 ゼルアはそう言いながらムゥを見て笑っていた。

「現金な奴というかなんというか…。」


 苦笑いをしているとムゥが鑑定を終えたらしく鎧を二つに分けていた。

「とりあえず、あのジジィの装備はツギハギでございます。こっちの胴や左腕、肩や腰の一部、太ももはシルバーミスリルの高級品で、その他の部分は鉄や銀などを一式装備みたいに装備してただけでございますね。」

 そう言うと俺が戦闘中にぶち抜いた脛の部分を拾い上げた。


「だから鉄製のハルバードでぶち抜けたのですね、ミスリルなら絶対無理でございましたよ。」

 鉄や銀、ミスリルのツギハギ装備だったため部位によって防御力が違ったとのことだった。


「全身フルミスリルだったら詰んでたかもしれないってことか?」

「たぶん魔法も効果がさらに薄くなってもっと苦戦していたと思います。」

 頷きながらムゥは戦闘の分析をしてくれている。こういうことをちゃんとしないと次に活かせないのだろうなと感じた。


「となると、この鉈はとんでもないのかもな…ミスリルぶち抜いたってことだろ?」

 スカルチョッパー、異常なほどの強度をもちシルバーミスリルの胴鎧を打ち砕いた、これはもしかするととんでもない武器なのかもしれないと思った。


「かもしれませんね、あれだけ打ち合って刃が欠けてすらないのでございます。」

 さてと、とムゥは鉄の防具の方からシルバーミスリル製の防具の方へと移動して胴鎧を拾い上げこっちを向く。


「胴は右側が綺麗に吹き飛んで損傷が激しすぎて無理でございますが左腕や肩はこのまま使えそうなので装備しちゃいましょう。」

 ムゥは左腕や肩の防具も持ってこっちに歩いてくる。


「でもそれおじい様の遺品だろ?ここに一緒に埋葬した方がいいんじゃ…。」

 俺はゼルアの方を向きながらそう尋ねると彼女は首を横に振った。


「おじい様は、貴方に託すって言ってた…だから使えるのなら使ってあげて、その方が喜ぶと思うの…。」

 ゼルアはそう言いながら微笑んでいた。


「ささ、親族から許可も出たことですし使わせてもらっちゃいましょ!」

 そう言うとムゥは装備をポンと投げて押し付けてきた。


「とりあえず左腕の防具なのですが、それはガントレットシールドという小型シールド一体型の腕防具でございます。グローブを使わなければブレスレットも露出するので影響はないかと。」


 ムゥに手伝ってもらいながら左腕に装備しサイズを調整していく。

「少し大きいのでベルトの一番短いとこでギリギリでございますね、調整できる人が欲しいでございます。」


 少し大きく中に皮を詰めたりしてぶかぶかではなく、慣れれば問題ないくらいには調整できた。

「確かにさっきみたいにマント貫通とかされたら笑えないし小型で扱いやすい盾はありがたいな。」


 左腕を動かしながら感覚を確認していく。

「少々大きく重くなりますが、その上から大型シールドを使うこともできますし便利な防具でございますよ。」


 せっかくの形見の防具だ、しっかり使いこなして報いて見せよう。

「肩はこのまま交換で大丈夫そうですね。太ももは動きにくくなりそうですしやめておきましょう、ご主人はナイトというよりファイターのバトルスタイルでございますし。」


 ムゥは俺の戦闘スタイルも理解したうえで装備を考えてくれているみたいで、意外なほどちゃんと従者をしているみたいだった。


「今失礼なこと考えましたね?」

 感も鋭かった。


「とりあえず、何かの役に立つかもしれませんしシルバーミスリルの防具は頂いて行きましょう。」


 そう言うと残りの部位をカバンの中にしまい込んだ。

「さてと、武器も回収しとこうかな。もったいないし!」


 そう言いながら立ち上がり、周りを見渡しバスターソードなど使えそうな武器を回収しなおした。ムゥが投げつけたバトルアックスは奈落に落ちてしまったみたいで回収不可能だし、最後に投げたハルバードはあの謎の力に耐えられなかったらしく完全に崩れ落ちて炭化していた。


「武器がこんな風になるなんてほんとなんだったんだろ…。」

「火事場のクソ力でございますね!」

 ムゥに言われてとりあえずそういうことにしておこうということになった。


「そろそろお別れだね…。」

 俺が水晶にめり込んでいるガダラスに目を向けた時ゼルアが少し寂しそうに話しかけてきた。水晶を壊せばゼルアの霊体はおそらく囚われている肉体へと戻されるということになる。


「すぐに助けに行くから待ってて!」

 精一杯の笑顔でゼルアにそう言いながら親指を立てる。


「うん、待ってるよ…!」

 ゼルアも涙を堪えながら笑顔を見せてくれる。


 それを見て俺はガダラスにグレイプニルを繋ぎなおし思いっきり結晶から引き抜いた。それだけでも結構なダメージがあったらしくピキピキとヒビの入る音が聞こえる。


「私も頑張る…だからタカユキも頑張って…私待ってるよ、信じてる!」

 初めて名前を呼んでくれた、ガダラスをブンブンと振り回しながら大きく息を吸いそれに応える。


「ゼルア!約束だ、絶対に助けるからな!!まってろよ!!」

 そう叫びながら俺は水晶にガダラスを思いっきり叩きつけた。バリーンと大きな音を立てて紫水大結晶は粉々砕け散った。


「約束だよ…。」

 そう言うとゼルアの姿も光となって霧散していった。

「必ず助けなきゃ…。」

 俺はギュッと両手に力をこめた。


「ご主人、なんだかゲームの主人公みたいでございますね!」

 ちゃちゃを入れてくるムゥを尻目に水晶の奥に続く通路に歩みだす。


「おいてくぞ!」

 待ってくださいよとムゥも追いかけてくる、今までのゲーム感覚ではない本気で救いたい目標ができたのだ。


「ご主人もあのジジィみたいなツギハギ装備になっちゃいましたね。」

 ニヤニヤしながらムゥが話しかけてくる。


「お前がそうさせたんだろ!!」

 ニャハハと笑いながら一緒に歩いていく、主人が強くなって少しは喜んでくれているのだろう。


 他愛のない話をしながら真っすぐな通路を歩いていくと次第に風を感じてきた、出口が近いのだろうか俺達は足を速めた。


 地下墓地を探索している間に朝になったのだろう光が見えてきた、すっかり明るくなっている。


 出口につくとそこには柵がつけられ中に入れないようになっていたが長年放置されたのだろう、完全に錆びついて簡単に蹴り破ることができた。


 太陽の光が目に染みる、周りは草木に覆われた雑木林のようだがやはり枯れ果てて荒野と化していた。目を凝らすと遠くの方に見たことのある大きな丸太の柵が目に入った。誰からも気にもされない地下墓地は抵抗拠点の割と近くに出口は続いていたらしい。

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