第14話 死闘、おじい様
「ナンジ…我ノ、孫、ムスメニ何ヨウカ…?」
あの老騎士のだろうか、口も動かさずドームに迫力のある声が響き渡った。
「おじい様、この人たちが私をここから外に出してくれるって、助けてくれるというのです。」
無言だが明らかに空気が変わった、肌がピリピリするような圧を感じる。
「貴様ガ、我ガ愛シイ…孫ムスメヲ助ケ、ルトイウカ…?」
重く迫力を感じる声が響き渡る。
「俺はタカユキ、貴方の孫を助け出し友達になろうと思っています。」
その瞬間ブワッという風圧が駆け抜けたのを感じた。
「フハハハ、ドコゾノ馬ノ骨トモ知ラヌ小僧ニソノヨウナ事ガデキルトデモイウノカ!!」
明らかにバカにされた気がしてムッとした。
「俺は本気だ、どうにかしてここを抜け出し彼女を救って見せる!!」
そう叫び返すとさらに圧が強くなる。
「本気ト申ス…カ、ナラバ証明セヨ…我ヲ倒シ、ソノ屍ヲ越エテ見セヨ!!」
地面に突き立てられた剣を抜き放ち俺に切先を向けてこれでもかというほどの圧を飛ばしてくる。
「そこまで言われて黙ってたら男じゃないよな…。」
俺はゆっくりと中央に向かい歩き出す。
「別に一人で来いとは言ってませんし、あたくしも戦いますよ?そもそもここでご主人に死なれるわけにはいきませんので。」
いつもと明らかにムゥの雰囲気が違った、それだけ強力な危険な相手ということなのだろう。
「ご主人、一応言っておきますがさっきまでの戦闘のようにゲーム感覚で戦うと死にますよ、いいですね?」
言われなくてもわかっている、異世界に転生して強化された力に任せてゲームの主人公感覚で楽しんでいたのは間違いないだろう。だが、明らかに今までとは違う本当の闘いに挑もうとしているのだ。
「ごめんね、俺はおじいさんを倒さないと先に進めないみたい。」
心配そうにこっちを見ていた少女に微笑みながらそう言った。
「大丈夫、それがおじい様の願いでもあるから…頑張って。」
彼女の声が心に染み渡る、自分でも気づいていなかった震えが和らぐのを感じた。
中央へと歩み寄りながらブレスレットからバスターソードを一本取り出す、すると老騎士も剣を構えゆっくりと歩み寄ってくる。
深く息を吸い深呼吸をし剣を握る両手に力を込める。ゆっくりと歩みよりお互いの距離が近づく…。
「はああああああああ!!!」
気合と共に叫び老騎士に一気に斬りかかる、すると同時に老騎士も剣を振るってくる。
ガキーンという音が響き剣がぶつかり合う、老騎士の剣は片手長剣でバスターソードとは明らかに質量が違うはず、しかし押し負けるどころかこっちが負けそうになるほどの圧を与えてくる。
「ご主人!」
不利を悟ったのかムゥが横に回り込み両手で火炎弾を老騎士に向けて連射する。老騎士は剣で俺を押し飛ばすと左腕の小さな盾のような手甲とマントで火炎弾を振り払いながら後ろに飛び距離をとった。
「挟撃行きますよ!!」
こっちも押し飛ばされつつもバランスをとり直しながらムゥと反対側に回り老騎士に斬りかかる。それに合わせてバトルアックスを取り出したムゥが同時に斬りつける。
ガキンと金属のぶつかる音が響き俺とムゥの攻撃は左右に剣と手甲を構えた老騎士に受け止められてしまった。
「くっそ、馬鹿力がっ!!」
そのまま老騎士は攻撃を振り払うとこっちに向かい剣を突き出して突撃してくる。俺は踏ん張りながらプロテクションマントで受け流そうと左腕でマントを構える。
「なっ!?」
老騎士の剣がマントを切り裂いてそのまま貫いてくる。
「はぁぁぁぁ!」
ギリギリでムゥの投げつけたバトルアックスを回避するために攻撃を中断して距離をとらせること成功した。
「ありがとう、ムゥ…ヤバかった…。」
俺はバックステップを踏んで距離をとるもバスターソードは落としてしまい左腕の皮の小手もボトンと今、地面に落ち左腕からは血がぽたぽたと滴っている。
「大丈夫ですね、ご主人…。」
左腕を押さえながら膝をついている俺の隣に飛んできたムゥは状況を確認する。
「大丈夫、小手と薄皮が切れただけだよ、お前のが居なかったらたぶん左腕ごと落ちてたわ…。」
ほんとギリギリだった、攻撃を弾き受け流せると思ったプロテクションマントが全く機能しなかったのだ。
「気を付けてください、たぶんあれ魔剣でございます。何らかの効果でマントの魔法効果が消されたんだと…。」
左腕が熱い、本当の命のやり取りを前に恐怖を感じている自分がいる…。
「ご主人、どうしますか?逃げます?」
ここで逃げだしたらおそらく老騎士は追ってこないだろう。だが、間違いなく俺は何も得られない負け犬に成り下がる。
不安そうに見つめている彼女を裏切ってしまう、そんなことできるか?
…嫌だ!!
「ふざけるなよ、ここで逃げたら俺は男じゃなくなるしお前の願いにも答えられないんだろ?」
ムゥはニヤっと笑うとそのとおりですと前を向き直った。
老騎士もその答えを聞くのを待っているように様子をうかがっていたが再び剣を構え距離を縮めてくる。
「正々堂々…いや、騎士道精神って感じかな…?」
「ちょっとだけ本気を見せて差し上げますよ!!」
ムゥはそう叫ぶと両手を前に突き出しパンッと手を叩くと腕を縦に大きく広げる。
「サンダーブレス!!」
両手で竜の顎をイメージし、そこから強大な電撃を老騎士に向けて放出する。老騎士は正面からサンダーブレスを剣で受け止めようとその場に踏みとどまる。
「ご主人、剣を!」
俺はブレスレットから片手長剣を取り出し、そのままムゥに投げ渡しながら俺自身もハルバードを取り出して再び構えながら老騎士に立ち向かう。完全に電撃を受け流すことはできなかったのだろう、老騎士の鎧から煙が出ている。
俺は地面を這うように駆け寄りそのまま足目掛けてハルバードのピック状になっている部位を叩きつけた。ベキッという音を立ててハルバードは老騎士の脛のあたりに鎧を貫き突き刺さった。
しかし老騎士はそれをものともせずに剣を振り上げ、全力で斬りつけてくる!
それをハルバードを引き抜きどうにか受け流し、転がり距離をとる、するとムゥが片手で火炎弾を撃ちながら接近して剣で後ろから斬りかかる。老騎士はすぐさま後ろを振り向く、左腕で火炎弾を受け止めながらムゥの剣へと自分の剣を思いっきり振りぬきバキンとへし折ってしまった。
「わっちょっ!?」
そしてそのままムゥを左腕で掴みこっちに向かい思いっきり投げ飛ばしてきた。俺は走り寄りムゥを受け止める。
「ご主人ナイスキャッチでございます。」
すぐさま立ち上がり体制を立て直す俺達に剣を向けて少しずつ老騎士は距離を詰めてくる。
「ムゥ、さっきのブレスまたお願い!!」
呼吸を整え一気に老騎士に駆け寄りハルバードで老騎士の剣を弾き、クルクルとハルバードを回転させながら左腕を力いっぱい振り飛ばす!!
バキッと斧の部分が砕けるが無視してとにかく体制を崩すことに専念する。
「サンダーブレス!!」
ムゥの声が聞こえた瞬間、思いっきりその場からステップを踏んで飛び去る!!そして体制を崩した老騎士は防御が間に合わずに魔法が直撃した。
大きな爆発が起こり爆風と共に煙が周りを包む、俺はマントで煙をバサッと振り払いながら様子をうかがう。
バチバチと電気が駆ける音が聞こえる。その場所には膝をついてはいるがまだ老騎士は健在だった…。
「直撃でもダメとかなんなんですかあのジジィ!?」
必殺の魔法を受けても倒れない老騎士に対してムゥの口がすごく悪くなった。
だがこれはチャンスだった、俺はハルバードをその場に突き立てブレスレットからガダラスとグレイプニルを呼び出しブンブンと振り回し、思いっきり老騎士に投げつける!!
これで終わり!と思った瞬間、老騎士はグンと立ち上がりガダラスを避けると同時にグレイプニルを剣で切り裂いた。
ガダラスはそのままものすごい音を立てて奥の大結晶にめり込んでいった。
「なっ!?ムゥ、グレイプニルは斬られないんじゃなかったのか??」
最強の鎖と聞いていたグレイプニルが一瞬で切り裂かれ光となって霧散したのだ。
「おそらくあの魔剣は魔法など魔力系の力を無効化して切り裂けるのかと…。」
魔力の塊であるグレイプニルはあの剣の前では無力ということらしい。
ドキドキと高まった心臓を落ち着かせ、呼吸をもう一度整える…本気の命のやり取りがこんなにも恐ろしく激しいものだとは考えもしていなかった。
「自分の覚悟の無さを思い知らされるな…。」
圧倒的な強敵を前になぜ戦っているのか、なぜこんな思いをさせられているのかいろいろと考えさせられる、ふと後ろで見守る少女に目が行く。
「これが、一目惚れなんだよな…。」
俺はなぜこんなことをしているのかものすごく簡単で明白な答えに気づいた。
「ムゥ!もう一度隙を作るからぶちかませ!!」
ムゥの返事も待たずに俺は一気に老騎士との距離を詰める。肉薄した瞬間腰のスカルチョッパーを思いっきり抜刀して振りぬき老騎士の剣と刃をぶつけ合う。
ガンという音を響かせお互いに弾かれ、体制が崩れかけるも踏ん張り、もう一度斬りつけ合う。何度も何度も剣をぶつけ合いどうにか隙を作ろうと相手の体制を崩せるよう力を込める。
ぶつけ合うたびに腕にジンジンと響いてくるが負けじと何度も何度も喰いかかる!動体視力と反射神経、完全に身体能力だよりの俺と圧倒的な経験からくる剣技を見せる老騎士全く違う戦闘スタイルの二人だがもはや意地と意地のぶつかり合いのような、娘を嫁に欲しい男と絶対にあげたくない親の壮絶な攻防のようにも感じられた。
剣を何度もぶつけ合っていた次の瞬間だった、お互いの剣がすり抜けた。老騎士の剣が俺の右肩のアーマーを削ぎ落しスカルチョッパーが老騎士の胴鎧右側にメキメキと音を立てめり込んだ!
「今だぁ!!」
俺は肩の痛みに堪え、思いっきり老騎士を蹴り飛ばしながら後ろに飛んだ。
「さっさとくたばれ糞ジジィ、サンダーブレェス!!!」
次の瞬間老騎士目掛けて電撃が飛んできた、バチバチと激しい音を立てて直撃した爆風に巻き込まれ突き立てたハルバードのあたりまで俺は吹き飛ばされた。
「やったか!?」
「それフラグでございます!!」
無意識にボロっと言ってしまった…倒れてくれと願ってしまった。すかさずツッコんでくるムゥも流石だと思った。
「でも、ホントに倒れてほしいのでございます…あたくしの方もそろそろ限界ですよ。」
爆煙の中を二人で見守っていると、人影がゆっくりと動いている。
「我騎士道、不死身ナリ…マダ、折レヌ…。」
無言で戦い続けていた老騎士の声が響き、ゆっくりと歩み寄ってくる。鎧にめり込んでいたスカルチョッパーがゴトンと床に落ちたがそれも気にせず前に進んでくる。
これだけ攻撃しても倒れない老騎士の意地に命の危機、恐怖すら感じ体中がブルブルと震えてくる。左手で右肩を押さえながらゆっくり近づいてくる老騎士を睨みつける。こっちだって負けられない、意地なら負けていない!!
傷ついた肩をギュッと握りもう一度立ち上がり壊れかけたハルバードをもう一度握りしめる。
「俺だって意地がある、助けたい人だってできた…負けるわけにはいかないんだよ!!」
気合と根性、意地を込めて立ち上がったその時、胸の内側から、心臓の奥底から、何かが噴き出してくるような感覚に覆われた。
それは全身を覆いすべてを吹き飛ばす程の圧倒的な存在を自分が強大な竜になったのではないかと感じさせるほどだった。
俺はハルバードを引き抜き、その全身を覆う圧倒的な力をその一撃に、最後の一撃にすべてを乗せて竜が敵を打ち破る全力の一撃のごとく思いっきり老騎士に目掛けて投げつける。
轟音と衝撃波が吹き荒れ、周囲は煙に包まれた。
俺は一気に全身の力が抜けて膝から崩れ落ちる。息が荒い、どうにか膝をつきながら前を向くと老騎士は正面に佇んでいた…。
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