第13話 運命の出会い
ボフンという感触と背中から全身へと衝撃を感じた。運よく砂になった亀の体がクッションの代わりとなり落下の衝撃を和らげくれたらしい、まだちゃんと生きている。
「…死ぬかと思った。」
倒れたまま落ちてきた場所を眺めると、どうやらここは人工物でできた空洞になっているみたいだ。経年劣化もあったのだろう、そのせいで亀の重さに耐えられなくなり崩れてしまったみたいだ。
そのまま眺めていると天井の方から何かが落ちる、降りてくるのが見える。それはふわりとしたスカートから見える2本の足と黒いレースのついた可愛い系のパンツだった。
「ご主人生きてますか~?」
ムゥが翼を出してフワフワと降りてきて隣に着地した。そのまま周りをきょろきょろと見渡すとこっちに向き直る。
「大丈夫そうでございますね、ご主人。」
倒れてる主人の顔の横で下着を見せつけたまま安否確認をされた。
「思いっきり下着見えてるんだけど、隠す気無いの?」
それを聞くとムゥはニヤっとした。
「エッチなご主人様へのサービスでございますよ!」
見せつけておいて心外な相棒だった。
「お前まで降りてくる必要なかったのに、なんで来るんだよ…。」
「あたくしにとっては勝とうが負けようがご主人以外関係ないのでいいのです。あぁ、なんてご主人様思いの従者なのでしょう~。」
ムゥはそう言いながらおちゃらけている感じだった。
「お前、翼あるんだし連れて上がれないの?」
「無理でございます!」
即答された。
「でもこの前ドラゴンの姿で飛んでたよな?」
「あれは一定の高さまで浮遊できるだけでございますよ。」
そう言うと立ち上がった俺と同じくらいの高さまで浮いてこれ以上高くは上れないと見せてきた。
「今のあたくしは滑空はできても飛行はできないのでございますよ。」
残念ながら。と手をあげてひらひらとしてみせた。
「とりあえず、ここは何なんだろ…人工物みたいだけど。」
あらためて周りを見渡すと、石レンガがドーム状に積まれていてそこに苔がびっしり生えている。だいぶ放置されている場所なのがうかがえた。
「お城の地下ですかね、だいぶ使われてないみたいですし地下にしてはちょっと遠い気がしますけど。」
確かに落下した場所は城壁方面と言っても城外の農村地帯であって城の地下施設にしては遠すぎる気がする。
起き上がり周りをもう一度見渡してみると通り道のような通路が奥に続いていることに気づいた。だいぶ暗いと思ったらもう夜らしく天井の亀裂からの光が薄っすらとした月明りになっていた。この地下施設はなぜか月明りだけでもある程度周りが見渡せると思ったら、びっしり生えてる苔が薄っすらと光を放っているみたいだった。
「ヒカリゴケでございますね、暗い場所に生息して常に発光してる習性がございます。」
ムゥが苔を摘みとりながら説明してくれた。要は周りの苔が光っているから明かりが無くてもある程度見渡せるということらしい。
「薄っすらと緑色に光ってて神秘的だな…。」
「そんなこと言ってる暇は無いでございますよ。さっさと出口を探さないと二人そろって骸骨でございます。」
呆れたような顔でトゲのある言葉を言う従者だった。
そんな話をしていると、通路の方からゆらゆらと光る何かが近づいて来ているのに気が付いた。
腰の鉈に手を掛けながら通路の方にゆっくりと歩み寄っていき、警戒しながら通路をゆっくりと覗いてみた。
驚いた、そこには薄っすらと淡い光を纏った白いドレスに裸足の同い年か少し年下であろう少女が不思議そうな顔をしてこっちを見つめていたのだ。
「君は、いったい?」
気がついたら目が合っていて、話しかけていた。彼女はすごく綺麗な整った顔立ちに薄紫のロングで少し眠そうな雰囲気の美少女だったのだから。
「…ない。」
声が小さくて聞き取れなかった。
「もう一度お願い、君は誰?」
今度は耳を澄ませて聞いてみようとする。
「わからない…の、私は誰なの?」
質問を質問で返されてしまった…。
「すごい美人さんでございますね、記憶喪失かなにかですかね?」
俺の後ろからひょっこり顔を出したムゥが彼女を見てそう言いながら観察しているようだった。
「とにかくこんなとこから出なきゃ、一緒に行こう?」
そう言いながら彼女に手を差し出した。彼女も頷いて恐る恐るという感じがしたが手を取ろうとしてくれる。その時、手がすり抜けてしまった。
「えっ!?」
彼女も不思議そうにこっちを見つめてきた。
「何と言いますかたぶん、彼女は魂だけのような状態で肉体から離れてしまっているため存在が不安定になり記憶障害などを起こしてるんだと思うのです。」
後ろから観察していたムゥが今の手のすり抜けを見てそう答えてくれた。
「じゃあ、彼女は死んでいて魂だけでここを彷徨っている幽霊ということ?」
不思議そうにしている彼女を見ながらムゥに問いかけた。
「いいえ、おそらくですけど何らかの理由で肉体が封印状態か何かにあっていて彼女の意識だけが離脱してこうして放浪しているのだと思います。」
「さすが異世界、そういうこともあるんだなぁ…。」
流石異世界、地球ではありえないことが普通に起こるんだなっと改めて実感した。
「こっちの世界でも相当珍しい事でございますよ、彼女の体質がアンデッドなどのマイナスの力と親和性が高いために起きた現象です。」
すごく珍しいらしい。
「じゃあ、とりあえず彼女は生きているんだな?」
「はい、ただ意識と肉体が離れるなんてめったに考えられない現象ですし相当危険な状態なのは間違いないかと…。」
正直自分たちもここから脱出しなければいけないのだが、彼女を放置することもできない…嫌だった。
「おじい様もお前はまだここに来てはいけない…早すぎる…戻りなさい…って言ってたの、その理由が今やっとわかった…私今幽霊みたいなのね。」
俺とムゥの会話を黙って聞いていた彼女が自分の状況理解したらしく少し悲しそうに話してくれた。
「おじい様って?」
話てくれた中に疑問が生まれた、ここにはおじい様と呼ばれるまた別の人もしくは何かが居るということになる。
「うん、この奥にもっと明るい部屋があって、そこでおじい様は何かを待ってるって言ってた…。」
「となるとそのおじい様っていうのに会ってみたほうが良さそうだね、案内お願いしてもいい?」
そう聞くと彼女は頷きこっちと指をさして案内をし始めてくれた。
「ちょっと待ってくださいなご主人、黙っておりましたがグレイプニルを天井に思いっきり伸ばせば脱出は普通にできますよ?わざわざそんなめんどくさい事しなくても。」
ムゥがそう言いながら通路に進むのを止めてきた。正直それはできるんじゃないかと思っていた…だけどもうそうやって脱出する気はなくなっていた。
「ムゥ、悪いけど俺は彼女を放置して脱出する気はもう無いよ…できるならどうにかしたいんだ。」
彼女が綺麗だというのもあるだろう、でもここで見捨てたら絶対に後悔するという確信だけはあった。
「ったくしょうがないご主人でございますね、確かにグレイプニルで出ようとしても割れ目が二人分の重さに耐えられずに崩れるかもしれませんしね。」
また落ちるかもしれない可能性があった…。
「そんな可能性あるならなおさらだよ。」
「いいの?」
話を聞いていた彼女からそう聞かれた、少女は自分を置いていっても構わないという感じだった。
「いいんだ、それにもう俺は決めたんだよ…一緒にここを出よう、そして君を助けたいんだ。」
「…ありがとう。」
薄暗い中少し照れくさそうにしていたのが見えて、俺も恥ずかしくなり下を向いた。
「何変な雰囲気作ってるのでございますか、こっちが恥ずかしくなっちゃうのでございます~。」
ムゥにちゃちゃを入れられて我に返らされた。
「と、とにかくそのおじい様って人に会ってみよう、話はそこからだよ。」
少女の道案内で謎の地下施設の通路を歩き出す、彼女が薄っすら光っているのもあるがヒカリゴケが緑色に照らしてくれるため松明などを使わなくても平気だった。
「亡霊姫…死霊の姫君…。」
コツンコツンと足音だけが響きわたる石レンガの通路をゆっくりと進んで行くと少女がボソッとそのようなことを呟いた。
「え?」
意味も分からず反応してしまった。
「私のこと、誰かがそう呼んでた気がするの…。」
亡霊や死霊はともかく姫と呼ばれているとなると彼女はあの城のお姫様という可能性が高いだろう。
「なんでそんな呼び方を…。」
彼女もわからないと首を傾げるが、あまりいい思いはしていなかったのかなと感じてしまった。
「もうすぐ着くよ、ここ真っすぐな道しかないから、私が居なくても大丈夫だったかな…?」
少女はふふっとちょっと笑いながらそんなことを言った。
「そんなことないよ、君と会えなかったら無茶して潰れてたかもしれないんだしね。」
ムゥの方もチラっと見ながらそう言うと、当の本人は知りませ~んというジェスチャーをして返してきた。
「私もそんな風に話せるお友達欲しいな、たぶんちゃんとお話ししてくれた人っておじい様だけな気がするし…。」
ほんとに一人ぼっちだったのだろう、微笑んでくれているがどこか寂しそうに感じた。
「俺も君もまだこれからだよ、大丈夫、外に出て一緒にいろんなことを話そう!」
そう言うしかできなかった、名前も知らない少女の寂しさはわかるが、まだ何もわからないのだから。
「ありがとう、そろそろおじい様のとこだよ…。」
寂しそうな笑顔を見せてくれる彼女をやっぱりほっておくのは無理そうだなと俺の考えは固まった。
「ここだよ、おじい様の場所…。」
そこは俺とムゥが落ちた場所よりも広い石レンガでできたドームだった。通路よりも明るく、ヒカリゴケ以外のドームの奥に明るく光っている物があった。
「紫水大結晶ってとこでございますね、あの大きさの紫水晶はめったにありませんよ。」
ムゥが奥に輝く巨大な紫水晶見てそう教えてくれる。
「あれが、おじい様だよ…ずっとあそこから動かないで私にもこの掘りより中には入って来るなって言うの…。」
部屋を改めて見渡すと、円形のドーム状に内側と外側を分ける深い堀があり正面に一本だけ内側に続く道が用意されているだけで堀を覗いてみても深淵のような暗闇が広がっているだけで底は全く見えなかった。
そして何より内側の円、紫水大結晶の前に佇んでいる人影おじい様と呼ばれていたその人だろう。
肌は青みがかっているが立派な銀色の鎧に身を包み長い白髪を後ろで束ねた白い髭の老騎士という雰囲気で、剣を正面に突き立て何かを待っているように微動だにせずに佇んでいる。
そしてなによりその剣だ、遠くからでもわかる綺麗なエメラルドグリーンの色をしたゾクゾクと何かを感じさせるほど美しい立派なものだった。
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