第11話 ラドレスの勇者
「サーリヤ様は何も言わなかったのですね。」
クランはクスっと笑いながら今この国の状況について教えてくれた。
「まず、今ラドレス王国は勇者の反逆によりマイナーエーテルが溢れ大量の民がゾンビ化し様々なアンデッドが召喚され危機的状況となっており、生き残った兵士や貴族をまとめ姫様を旗印に勇者討伐を目指し日々戦っています。我々冒険者ギルドもメンバー総出でそれを支援し戦っております。」
勇者の反逆?なんかすごい単語が出てきた気がする。
「ちょっと待ってください、勇者の討伐ってどういうことですか?普通こういう危機を解決するのが勇者じゃないのか?」
クランは少し困ったような顔をしながら話を続けてくれる。
「少し前になりますが、この王国には召喚された勇者がおりまして、最初は戸惑っていましたがだんだんと慣れていき仲間と共に数々の危険な魔物を討伐し国を救ってくださいました。」
やはり勇者として国のために戦っていたらしい。
「しかし、その勇者の人気に危機感を覚えた国王と一部の貴族が勇者達を罠にはめ処理しようとしてしまったのです。」
要は自分の権力が失われるのを恐れた国王と貴族が勇者をハメたらしい。
「その際、勇者と恋仲となっておられた第三王女のナタリア様が巻き込まれて命を落としてしまわれたのです。」
最愛の姫を殺された勇者の怒りは計り知れないものだったのだろう…俺には想像もできなかった。
「勇者様は怒り狂い王をその場で斬り殺しました。そして、詳しくはわからないのですがそのまま怒りに任せマイナーエーテルを活性化させる紫水晶を発動させ死の王国へと変貌させてしまったとのことです。」
紫水晶というアイテムを使いこの国を一気に死の王国へと変貌させたということだろう。
「その後、勇者は死者を操るネクロマンスの術をどこかで習得したみたいで、事件にかかわったであろう貴族を家族ごと皆殺しにしていき今は王城に立てこもっています。」
まさに小説とかに出てくる闇堕ち勇者の復讐劇という感じの出来事だった。
「今はギルド長も最前線に赴き紫水の欠片で動いている危険なアンデッドの殲滅をされております。」
だいたいの状況は把握できたが正直自業自得という感じだった。あまり長居することもないかなと思う。
「で、もしよろしければお二人も戦闘に協力していただけないでしょうか?」
こっちの考えを読んでいたかのように協力要請をしてきた。
「もちろん、物資の補給に冒険者になる時の評価にも加算されますし悪い話ではないと思うのですが、いかがですか?こちらとしても戦力が足りなくて…。」
少しでも戦える人が欲しいらしい。ムゥをチラっとみるとやれやれという感じのジェスチャーでご主人にお任せしますという感じだった。
「わかりました…、微力ですが戦闘に参加します。その代わり補給や登録時の評価などよろしくお願いしますね…。」
「ありがとうございます!では砦内を案内しますね!!」
そう言うとクランはすごく嬉しそうな顔をして俺達を案内していった。
「そこは武器庫になっておりまして、必要があれば好きなだけ使ってくださって大丈夫です。食事は配給制ですがまだ食料には余裕がありますので必要ならあちらへ行ってください。」
食事や武器庫など必要な場所を教えながらさらに進んで行く。
「こちらのテントが今空いていますのでご自由に使ってください。」
簡素なテントだがしっかりベッドなど必要最低限のものがありプライベートは守られてる感じはした。
「わからないことがありましたら私は本部に居ますのでいつでも呼んでくださいね!」
そう言うとクランは本部と呼ばれた場所へと戻っていった。
「ご主人、結構お人好しでございますね…。」
めんどくさいことを…とムゥがボソッと文句を垂れる。
「しょうがないだろ、ここ以外の街の情報もないしあんな顔してる人を無視して近くの街を聞いて速攻出ていくなんてできないよ…。」
疲れを癒そうとベッドにボフっと倒れ込んだ。
「まったく、日本人は他人を無視する人種だと思ってましたが違うのでございますね。それともご主人は人のお願いが断れないイエスマンなのですか?」
ムゥがニヤニヤしながら人の気にしてるとこをガリガリひっかいてくる…。
「とりあえず、ご飯にしようか…。」
俺とムゥは食事を貰いに配給所へと向かって歩いて行った。配給所は意外と本格的な器材が揃っていていい匂いが漂ってくる。
今は作り置きしているシチューとパンしかないとのことだったが、それでも充分温かくて美味しかった。
食事を終えたら次は武器庫を見せてもらうことにした。武器の収納機能がある神様のプレゼントがあることだし使えそうな武器のストックを増やしておこうと思う。
武器庫の見張りの兵に戦闘用の武器が欲しいことを伝え中に入れてもらった。
「ほんと装備の備蓄は万全なんだな…」
中を見渡すとそこには種類ごとに分けられていて、槍系の長物、大剣などの大型斬撃武器、片手剣、メイスなどの鈍器、弓矢、杖、その他という感じなっていた。
まず長物の中から振りやすそうなハルバードを2本ブレスレットに収納し隣の列の斬撃武器の場所を見ると存在感を醸し出す重そうで太い刃の剣、バスターソードが目に入った。
「ご主人ならその剣でも片手でふりまわせるんじゃないです?」
ムゥは自分の体よりも大きいバトルアックスを掴み上げ自分のカバンにしまい込んでいた。
「ほんと、どういうカバンなんだよ…」
そう言いながらバスターソードを片手で掴み上げてみる、確かにズシリとくる重さは感じるが充分に片手で振り回せる重さだった。とりあえずバスターソードも2本ブレスレットのストックに収納し他の棚も使えそうなものが無いか覗いていく。次に目に入ったのは鉄の棒の先にデカいパイナップルのような鉄の塊がついたバトルメイスだった鈍器も役に立ちそうだしこれも貰っておくことにした。
「これでスロットにグレイプニル込みで6個、まだ余裕あるし剣とかも貰っておこうかな…。」
そのまま片手用の長剣を2本スロットに収納した時だった。隅に雑においてある丸い物体を見つけた、それは日本を代表するロボットアニメの初代ロボットが振り回していた鉄球にすごく似ていた。
「あの~すみません、この隅に置いてあるデカいトゲ付き鉄球ってなんですか?」
武器庫の番をしていた兵士に気になって質問してみた。
「あぁ、それは一応魔具の一種でトゲはシルバーミスリル、本体はブラックアダマンでできた強力なモーニングスターだったんだがその強度に対応する鎖が無くて使い物にならないんだ。普通の鎖じゃすぐに切れてダメになっちまうし重い玉なんて誰も扱えないからここで放置されてるんだよ。」
少し持ち上げようとしてみると確かにさっきのメイスやバスターソードとは比べ物にならない重さだった。
「これご主人のグレイプニルなら使えるんじゃないですか?あれは魔力の塊ですからご主人が維持できればいくらでも強度は上がりますし、ミスリルなら魔力も流れるので相手の魔力を封じる超破壊球の完成でございます!!」
ムゥが面白そうなものを見つけたと楽しそうに説明してきた。
「なんだ?それが使えるなら持って行っていいぞ、どうせ誰も扱えないゴミみたいなもんだしな。」
番の兵士もハハハと笑いながら邪魔な道具の掃除を歓迎していた。
実際グレイプニルを繋げばあのロボットアニメよろしくブンブン振り回せる破壊兵器になる気はしたしちょっと楽しそうだった。
「なら、このゴミ俺が貰い受けますよ!」
そう言いながらブレスレットに鉄球を収納した。
「確か、そう破砕球ガダラスって名前だったはずだ。」
兵士が名前を教えてくれた。魔具と言うくらいだ、固有名があるみたいだ。
「ひょっとしたらその鉈も名前掘られてましたし魔具かもしれませんよ?」
「そうなのか?じゃあ大事に使わないとな。」
ムゥとそんなことを武器庫で話していると慌てた様子のクランが駆け込んできた。
「緊急です!手の空いている冒険者、兵士の皆さんは東の王城方面へ至急向かってください!!」
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