第10話 紅髪の旗印

 火炎弾の飛んできた方向を見ると派手な赤い装飾のされた鎧を纏う綺麗な紅髪の女性が兵士を数人連れて立っていた。


「ムゥ!」

 近くのゾンビを斬り倒しながらムゥを呼び一緒にその女性達の方向へ走った。


「よし、全員一斉射撃、薙ぎ払え!!」

 俺達が女性達の場所へ駆け込むのを確認すると兵士たちの弓や魔法でゾンビの群れに一斉掃射が行われた。ゾンビは一か所に集まっていたのもあり一気に消滅していった。攻撃している兵士達の中俺はリーダーであろう女性に目が行った、彼女が使っている武器は火の玉を連射している緑色の金属に木製のグリップとストックまさに地球でいうアサルトライフル、AKと呼ばれる銃の形をしていたのだ。


「ムゥ、あの武器って?」

「あれはスペルシューターでございます、銃をベースに作り出されたクリスタルを弾に魔法が使えない人でも魔法を使えるようにする高級武器ですよ。」

 剣と魔法の世界だと思い込んでいた俺は唖然としてしまった。スペルシューターという特殊な武器があることもだが何より。


「銃あるの!?」

「ありますよ?どっかの帝国が正式採用して主力装備にしてますけど、フルプレートやプロテクションマント、魔獣の皮などを貫通できない物が多くて地球ほど脅威が無いのであまり普及してませんけど。」


 銃がある、ちょっと夢が崩れた気がしたがそれでも脅威が無いというのがちょっと意外だった。


「昔来た転生者が普及させて、ゴブリンなど雑魚を掃討するのに最高の武器ですけど鉄がエーテルとの相性が悪く魔法が乗らない、ミスリル以上の鉱石では銃へ加工が難しいなどいろいろ欠点があるのでございます。」


 地球では銃が最強というイメージだったから驚いた、こっちでは装備が弾丸を通さない物が多く魔法の乗る弓矢、剣や槍などの方が主力となっているらしい。

「ですが、その構造は射撃に理想的だったのでスペルシューターという魔導兵器が開発されたって感じでございますね。」


 そんな話をしていると掃討の終わった女性がこっちに歩み寄ってきた。

「怪我はなさそうだな、今この国は破滅の危機に瀕しているのだが君たちはここで何をしていた?」


 赤く、派手な装飾が施された鎧を身に纏い紅い髪をなびかせ、片手に銃を握りしめている。

「俺たちは向こうの山の方から冒険者になるために一番近いと教えてもらったこの王国に来たのですが、着いた途端にあのゾンビ達に襲われてしまい…。」


 紅髪の女性は少しやれやれというような表情をした。そのとたん周りでピリついていた空気が少し弱くなった気がした。

「そうだったのか、だが申し訳ないが今ギルドも含め総動員でことに当たっている状態なのだ。詳しい話が聞きたいならついて来るといい。」


 そう言うと女性たちは歩き出す、俺とムゥはお互いに頷き合い彼女達に付いて行くことにした。それを確認すると彼女は歩きながら話し続ける。


「とりあえず我々の陣地へと招待しよう、そこに冒険者ギルドのマスター達も居るから話を聞くといい。そしてもしよければ…いや、なんでもない気にしないでくれ。」

 そう言うとすこし足を速めて進んで行った。


「少し急ごう、またあの者たちが寄ってきてしまう。」

 よく見ると建物もボロボロになり街中で何度も戦ったのだろうことがうかがえた。しばらく歩いていくと街を抜け農村地帯だったのだろう平地に木壁の砦が見えてきた。


「ここが我々の拠点だ、奥の方は居住区になっていて生き残った市民たちが生活している。少しは休めるだろう…」

 そう言うと女性は誰かを探すように周りを見渡し始めた。


「クラン!ちょっといいか?」

 そう叫ぶとオレンジのメイドドレスにエプロン姿の黒髪の少女がこちらを向き駆け寄ってくる。


「姫様、おかえりなさいませ!無事で何よりでございます。」

 クランと呼ばれた少女はそう言いながら紅髪の女性にお辞儀をした。


「ああ、ただいまだ。忙しいとこ悪いのだがこの者たちにいろいろ教えてやってほしい、冒険者になるためにここに来てしまったらしいのだ。」

 あらぁ…という反応をしながらクランは俺達を見るとこちらに向き直った。


「初めまして、ラドレス王国冒険者ギルドに所属しておりますクランと申します。よろしくお願いしますね!」

 自己紹介をしながらお辞儀をした。そうすると紅髪の女性は後は任せると兵士を連れて奥へと歩いていってしまった。


「初めまして俺はタカユキ、こいつはムゥと言いますここには冒険者になるためにやってきました。」

 こちらも挨拶をするとムゥは無言でお辞儀をした。


「姫様から聞きました、ですが申し訳ございません今ラドレス王国ギルドは緊急事態につき登録の手配ができない状況となっております。」

「俺達もゾンビに襲われました。なんとなく大変なのはわかりますが詳しくお聞きしてもよろしいですか?あと姫様って…?」

 クランはキョトンとした顔をして、何かを察したように話してくれた。


「あぁ!今お二人を助けてくださった紅髪の女性はラドレス王国第一王女のサーリヤ・トラン・ラドレス様でございます。今の状況でも諦めず国のために戦うお姫様です。」

 戦闘を聞きつけ俺達を助けてくれたのは最前線で旗印として戦う深紅のお姫様だったらしい。

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