第9話 死の王国ラドレス
俺とムゥはハーネスを試し、雑な食事を済ませて雑木林を再び歩みだした。ここを抜ければ目的のラドレス王国の領地に入るとのことだったが進むにつれ違和感を感じてきた。
王国に近づくにつれ木や草が少なくなっていく、正確には草木が枯れているのだ。
「ムゥ、この林に入った時はあんなに生い茂ってたのにおかしくないか?」
気になってムゥに尋ねるとちょっと嫌な顔しながら答えてくれた。
「王国に近づくにつれエーテルの質が変わってきています。通常のエーテルではなくマイナーエーテルが強くなってますね…。」
また新単語がでてきた。
「そのマイナーエーテルってなんだ?そんなエーテルに種類とかあるのか?」
「ありますよ、マイナーは魔法を使ったりしてエーテルを消費すると増えるんです。早い話が魔力バージョンの酸素と二酸化炭素の関係でございます。」
すごくわかりやすく説明してくれた。
「このマイナーエーテルの量がエーテルより増えると生命を停滞させてしまうのです、そうすると植物など弱い物は影響を受けて枯れたりしてしまうのです。」
確かに進むにつれ空気が重くなってるように感じる。
「ちなみに、マイナーエーテルが多くても魔法の行使はできます。少し威力や命中精度に影響は出ますがね。」
まだ知らないことがたくさんあるらしい、こうなってくると地球での知識がどのくらい通用するかもわからなくなってきた。そんなことを話ながら進んで行くと枯れた雑木林を抜け、ラドレス王国領地へと足を踏み入れた。はずなのだがそこに広がっていたのは枯れ果て放置された農作物の畑だった。
「これは、どういうこと?こんな広さの畑が放置されたら明らかに王国の食料に影響が出るんじゃ…?」
ムゥと一緒に農村地帯を進んで行くのだが、人の気配もなければ畑もすべて放棄され枯れ果てている。とにかく街の方へと急いでみることにした。
俺とムゥは王都の街にたどり着いた。しかしそこは明らかに空気が重くマイナーエーテルが農村地帯以上に濃いのが感じとれた。
「街が、死んでるみたいだな…。」
率直な感想だった、死が充満しているような不快感に包まれていて明らかに異常なのがわかった。
「ご主人とりあえず、進んでみましょう。お城の方に行けば何かわかるかもしれないのでございます。」
俺達は、城壁を目指し街を進んで行く。その途中だった、がさ…がさ…と物音が聞こえてくる。
「誰かいるのか?」
声をかけてみるが反応はない。
「ご主人、ちょっとめんどくさいことになりそうでございますよ…。」
ムゥが俺と背中合わせに立ちながら急に緊張したような口調で答える。俺はスカルチョッパーの柄に手を置きすぐに抜刀できるように準備をする。何かが呻くような声、ガサガサと何かが近づいて来る音に警戒しながら周囲を見渡しているとそれは現れた。
「これは、人…じゃないな、ゾンビか?」
白目をむき体の色も青く変色し干からびたように血の気がないそれらはゆっくりこっちに向かって歩み寄ってくる。それは人というよりはゲームなどに出てくるゾンビと言ったほうが正しいと思えた。
「ゾンビで間違ってないですよ、弱った人間にマイナーエーテルが大量に入り込み肉体を侵食して生きたまま死んだ者たちでございます。」
両手から火の玉を出し臨戦態勢に入ったムゥが今俺達の周りに集まってきている者の説明をしてくれる。
「じゃあこれは、マイナーエーテルが抜けたら人間に戻るのか?それだと悪人じゃないし倒していいのか…。」
殺すことへの抵抗が消えてるとはいっても倫理感は残っているらしい。
「言いましたよね?生きたまま死んでいるのです、この状態になった人間はもうエーテルを求めてさまよい、仲間を増やす化け物、アンデッドなんですよ!!」
そう言うとムゥは近づいてきてたゾンビ2体に火の玉を投げつけ燃やした。
「ご主人は魔力が異常なくらい多いのでそれに反応してめっちゃ寄ってくるのでございます。」
「魔法が使えないのに魔力が桁外れっていいこと全然ないじゃんかよ!!」
俺はそう言いながらスカルチョッパーを抜き放ち、一番近いゾンビの脳天から縦一線に振り下ろした。
「ゾンビは手や足、頭が取れたくらいじゃ動きは止まりません、とにかく消滅させるかバラバラにしてマイナーエーテルを外に追い出すしかないです!」
ムゥはそう言いながら俺の反対側のゾンビに火の玉を投げどんどん燃やしていく。
「バラバラにってそんな余裕ない!!ゾンビが多すぎる!!」
どうにか一振りで体を分断して、蹴り飛ばし処理できているが後から次々と寄ってくるゾンビにジリ貧になるのは目に見えていた。
「でも噛まれて直接エーテル吸いつくされたらあたくしもご主人もゾンビの仲間入りでございますよ!」
ムゥは話しながら近づいたゾンビを蹴り飛ばし、火の玉を飛ばしどんどん燃やしていく。ものすごく器用に戦っている。
「いっそドラゴンになって薙ぎ払ったりはできないの?」
こっちも負けずとゾンビを胴薙ぎに斜めに、縦一線にと斬り倒しながら処理していく。
「あたくしにもいろいろ制約があってできないんでございます!!やれるならとっくの昔にやってます!!」
お互いにゾンビを倒し続けては居るのだが倒す数よりも寄ってくる数が多すぎて次第にジリ貧になってきた。
「ご主人、このままだと2人そろってゾンビの仲間入りでございますよ。」
再び背中合わせになった俺達はどんどん増えていくゾンビに追い詰められていった。
「それは嫌だ!!異世界転生して数日でゾンビですとか笑えない!!」
俺は再び気合を入れて正面のゾンビを斬り飛ばした。その時だった、予想だにしない方向から火炎弾が飛んできて目の前のゾンビ達を焼き払っていく。
「そこの二人!今のうちにこっちにくるんだ!!」
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