第8話 身体能力

「いよいよ冒険の始まりって感じですね、ご主人!」

 全然喋らなかったムゥが何もなかったかのように話し出した。


「お前なんでコウダイさん達が居る時全く喋らないんだよ。」

「それは、ただの人間に興味ございませんし?」

 ちょっと酷い感じのことをサラッという相棒にちょっとびっくりしながらゆっくりと歩きだした。


「ところでご主人はどこを目指すのですか?」

 俺は地図を見ながら少し悩みつつ。

「とりあえず山を下りて一番近くの街を目指そうかなって思うよ、正式に冒険者として登録しなきゃなんだろ?」


 そうムゥに尋ねると、頷きながら。

「そうでございます、この世界ではギルドに行き正式に登録して初めて冒険者と認められるので今のご主人はただの放浪者でございますね。」

 なんかトゲがあるような気がするが、やはりギルドのある大きな街を目指すのが最優先となるだろう。


「じゃあせっかくの異世界ぶらり旅を楽しむとしますかね。」

 そう言いながら山を下る道を進んでいった。

「あ、ご主人シルフが居ますよ。丁度いいのでクリスタル分けてもらいましょうよ!」


 山道の途中しばらく歩いていると空中をふよふよと飛びまわる小さな虫の羽が生えた黄緑色の人型の何かが居るのをムゥが見つけた。

「シルフっていわゆる妖精だよね、クリスタルをもらうってどういうこと?」


「丁度いいからいろいろ説明しちゃいましょうか、シルフは精霊の一種で属性は風でございます。」

 ムゥはこの世界の、俺がいまいち理解していない魔法面のことを説明してくれた。


「この世界には魔力が満ちておりまして、それをエーテルって呼んでおります。精霊はそのエーテルが命を持ち生物の形をとったもであり魔力をあげるとお礼にその属性のエーテルの結晶、クリスタルを生成してプレゼントしてくれるのでございますよ。」

 とりあえず試してみてくださいとムゥはシルフを指さした。


「えっと、シルフに魔力をあげるんだよね、これでいいのかな?」

 ゆっくりとシルフに近づき手に魔力を流しながら差し伸べると、シルフはそこによってくる。手にシルフが触れたらさらに魔力を強めてシルフに流し込んでいくイメージをしてみた。


「さすが魔力量は折り紙付きですね、魔法が使えないのがほんと謎でございます。」

 すると俺の手のひらに山のような緑に輝くクリスタルの山が出来上がっていた。


「これ、どういうこと?こんなにクリスタルって貰えるものなの?」

 手からこぼれ落ちるほど大量にクリスタルを生成したシルフは満足そうにその場を飛び去っていった。


「普通はそんな貰えないですよ、ご主人のエーテルが膨大で美味しかったんだと思いますよ?」

 そう言いながらムゥはクリスタルをカバンに詰めていく。


「この世界の生物は動物はもちろん草木にも魔力、エーテルが流れていてそれが生命力と直結しているのでございます。生物が死ぬとその体からエーテルは抜け出て世界へと帰っていく感じですね。」

 世界の理のような大切なこと、もっと早く教えてほしかった。


「つまり、エーテルって言うか魔力が生命とかいろいろかかわってるってことでいいんだよな?」

 ムゥはそうでございますよと頷きながらクリスタルをすべてしまい終わりこっちを向いた。


「ご主人、そのカバンもこっちに入れましょうか?保存食や調理器具などはかさばりますし!」

 ムゥが俺の背負っていたカバンを降ろさせ、そのまま自分のカバンへとズルりとしまい込んでしまった。


「どういう構造なんだよ、明らかにそのバックよりカバンの方が大きかったろ…」

「企業秘密の異次元バックでございます、ささっご主人先を急ぎますよ。」

 ふふふと笑いながらムゥは歩き出した。


「なんだかんだ、ヒミツが多い気がするわ…。」

 頭を掻きながらムゥに俺は付いて行った。


 山を降る中、自信の身体能力についても調べてみることにした。まず脚力腕力共に外見は一般的な人間と変わらないのに桁違いのパワーがあり、瞬発力や動体視力も先日の盗賊団との戦闘を余裕でこなす程だしスタミナは地球ではあり得ないほどの持久力を見せ戦闘に関してはまさに転生勇者という感じだった。


 飲食も欲求は感じるがかなりの時間摂取しなくても活動してられる感覚があり、貰った携帯食料だけで余裕で街まで行けそうだが、自分の能力チェックもかねて結構な速さで山を降っている。


「すごいな、全然疲れないし地球人じゃありえない感覚だよ。」

 俺は自分じゃないような力をすごく楽しんでいた。

「そりゃ、地球人は知能はすごいですけど身体能力に関してはゴミでございますから、そのままじゃすぐ死んじゃいますしね。」


 いつの間にか竜の姿になったムゥがパタパタと飛びながら追いかけてきた。

「ご主人の場合は肉体を作り直す時にいろいろ強化されてますからこっちの世界でもずば抜けた身体能力でございますよ。」


 確かに体を一度作り直していたし年齢も27歳のおじさん目前だった俺が18歳くらいまで若返ってるのはありがたい限りだ。

「それはいいな、でも素人の剣技じゃすぐやられちゃいそうだしこんなことなら剣道でもやっておけばよかったなぁ…。」


 実際、盗賊団との戦いも相手が弱すぎて動きを見てから余裕で避けれたし殺しに対する抵抗も消されているらしいから躊躇なく確実に殺りにいけた。


「能力を考えると戦闘面も実戦的な剣道とかよりアニメやマンガの動きを意識したほうが戦えるんじゃないですか?」

 現代日本かぶれの相棒からアニメやマンガの異次元的な戦闘を真似たほうがいいとアドバイスを頂いた。


「そういえばムゥ、グレイプニルについても詳しく教えてくれない?咄嗟に相手の動きを封じる以外にもちゃんと使い道あるんだろ?」

 戦闘の話をしていてふと思い出した転生特典の無限鎖、いまいち使い勝手が掴めていないとこがありそこも整理しておこうと思った。


「グレイプニルは封魔の鎖と呼ばれていて捕らえた相手の魔力を封じる力がございます、これは接触した時点で発動しますので先端が相手を捕えれば発動します。」

 とりあえず呼び出した時点で効果は発動してるらしい。


「それとご主人の魔力を吸い取って無限に伸び縮みしてある程度イメージ通りに飛んでいきます。」

 要は触れたら魔法を使えなくして俺次第で好きなように飛ばせる便利鞭という感じだろう。


「ちなみに、ちょっと特殊な使い方だとミスリル系などの魔力と親和性が高い素材の装備に括りつけて一緒に振り回すとその装備にも魔力封じが付与された武器になるので上手く使ってくださいませ。」


 ミスリルと言ったら硬いゲームに出てくる鉱石くらいの知識しかなかったがいろいろ特性とかもあるらしい。

「なるほどね、とりあえず使って覚えろって感じなのはわかったよ!」

 そう言うとムゥは何か思ったのかこっちを向きながら何かを言おうとしていた。


「ご主人が結構脳筋のおバカって感じなのはわかりましたよ。」

 はっきり言いやがった!!


 確かによくラノベの主人公になるような頭のいい軍師や参謀みたいなことはできないし、向こうでもそこら辺にゴロゴロ居るただのサラリーマンだったし、別に専門的な勉強してたわけじゃないからこういう世界で革新的な技術なんてなんも作れないし思いつかない身体能力の高い男ってだけだけど…脳筋だった。


「お前、はっきり言ってくれるよな…」

 おバカなのを自覚してしまいちょっと凹んでしまった。


「まぁご主人には元々そんな発明家みたいなこと求めてございませんので、存分にその筋肉で暴れてくださいませ。」

 なんで俺を転生者の自分の主に選んだのかホントにわからなくなってしまった。


 そんなことを話ながら山を駆けているとだんだんとなだらかな道へと変わっていく、山が終わり平地についたみたいで道の先には雑木林が広がっていた。


「山を降るのに三日はかかるだろうって言われてたけど、一日で抜けれちゃったな。」

 自分の身体能力には驚かされる。


「とりあえず道沿いに進んでいけば街に行けるらしいのでさっさと行きましょ?」

 俺とムゥは雑木林へと続く道を歩き進んで行った。


「あ、ご主人言い忘れてたのですが、ちゃんと食事しないとあの力発揮できなくなるので気を付けてくださいね?」

 ムゥに不意に言われて俺はえっ?となった。


「そりゃロボットじゃないんですからちゃんと食べないと不調になりますよ、持ちそうや平気そうに感じてもそれは無理してるだけでしっかりダメになりますよ。」

 説明してくれてると思ったらいつの間にかムゥは人の姿に変わっていた。


「お願いだからそういうことは早く言ってくれない?」

 空腹感や食欲を感じたりするが我慢できるし、まだ持ちそうな気がしていたがよくないことだった。俺とムゥは近くにあった倒れた木に腰掛け干し肉を齧った、しょっぱい味付けがされていてビーフジャーキーのような感覚で食べることができ一緒に甘いドライフルーツを食べればいい感じの食事になってくれそうだった。


「そういえばご主人、ハーネスにさっきもらった風クリスタルつけてみたらどうですか?試しておくには丁度いいと思うのでございます。」

 食べ終わり、水を飲んでいた俺にムゥはふと提案してきた。確かにまだ試してなかったし余裕がある時にやっておくのはありだと思った。


 ハーネスの腰あたりにある小さな箱のようなソケットに風クリスタルをはめ込んでみた。すると体に付けたハーネスから流れる風を感じる。それは涼しく、下山で火照った体を心地よく静めてくれた。


「これはすごくいいアイテムだな、こうなるとほかのクリスタルも集めなきゃなぁ…。」

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