第7話 旅立ち、冒険者セットは忘れずに
俺たちは朝食後、早速裏の倉庫に向かいコウダイの昔使っていた装備を取りに行くことにした。倉庫は大きくはなく農具などの物置という雰囲気だった。
「ちょっとホコリっぽいが気にしないでくれ、たぶんまだ使えるはずだ。」
そう言うとコウダイは倉庫の奥に置いてあるズタ袋を引っ張り出しホコリを叩いていく。
「俺はこっちの世界に来たのは19××年だったんだが今は何年ぐらいなんだ?」
コウダイはちょっと気になったのかこのタイミングで聞いてきた。
「俺がこっちに来たのは20××年の12月ですよ。」
そう言うとコウダイは、懐かし気に上を向き思いふけっている。
「そうか、もうそんなに経っていたのか…そりゃいい歳になってるわな…。」
ふふふと笑いながらズタ袋を抱えてこっちに戻ってきた。
「とりあえず中身が大丈夫か確認しよう、消耗品はうちにあるのを分けてやる。」
「ありがとうございます!」
俺たちは一回倉庫から出て地面にズタ袋を広げた、コウダイが順番に並べながら状態を確認する。袋からはフライパン、コップ、大小2本のナイフ、水筒にザツノウなどが出てきたが他の物がわからなかった。
「これは食料を入れておく保存箱、こっちは財布代わりの袋で貴重品なども一緒に入れるんだ。」
コウダイは察してくれたのか軽く説明しながら物を確認してくれた。
「スコップはわかるよな?トイレとかにも使うからこれも大事だぞ。」
野宿や何もないとこでしたくなったら掘ってするらしい…。
「ロープはちょっとボロボロだな、こっちのフックは大丈夫そうだ。」
淡々と確認を進めてくれてありがたい限りだ。
「そういえば、お前さん魔法は使えるか、適正は?」
「実はなぜかはじけちゃってこのくらいしか使えないんです…。」
そう言いながら使える程度の水の玉を手のひらに作りコウダイに見せた。
「転生者で魔法が全然ダメっていうのも珍しいな、だがそのくらい使えれば生活には問題ないだろう。全く使えなかったらいろいろ大変だったぞ。」
そう笑いながらコウダイは次の物を出していく。
「これは魔導ハーネスといって腰のこの箱にクリスタルを装着してその効果を発動させるインナーの上に着る装備だ。」
それはサスペンダーのような形で、皮のような物でできた装備らしく体温維持などに使うらしい。
「後はこのカバンと、プロテクションマントだ。少し摩耗してるがまだまだ使える高級品だぞ!」
最後に出てきたのはアイテムをしまうカバンとプロテクションマントと呼ばれたマントだった。プロテクションマントは物理、魔法などあらゆる攻撃から身を守ってくれる魔術が編み込まれたマントでダメージを受けるたびにその部分から摩耗し効果を失っていく消耗品だが高い防御性能を誇る高級品とのことだった。
「とりあえず、ロープ以外は大丈夫そうだ、あとは消耗品だな…ウチに戻ろう。」
一通りの装備の確認が終わったコウダイに俺は疑問を問いかけた。
「あの、コウダイさんはここに来てもう長いみたいですが、もう冒険しないのですか?」
問いかけるとコウダイはふっと笑いながらこう言った。
「俺はこの村で嫁さんと出会っちまったからな、それまで自慢だった槍も捨てて、ここで二人で生きていきたいって思っちまったんだよ。」
ちょっと照れくさそうにそう言うとカバンにアイテムをしまい、家の方へと歩いて行った。
「とりあえず、使えそうなの持ってくるから座って待っててくれ。」
コウダイは何かを探しに家の奥に行ってしまった。
「ご主人、よかったですねいろいろもらって大満足でございます。」
さっきまで黙ってついて来るだけだったムゥが突然話しかけてきた。
「お前さっきまでだんまりだったくせになんだよ急に。」
「それはご主人もでございますよ、敬語なんて使っちゃって。あたくしには使ったことすらなかったですよ?」
そりゃ急に異世界に連れてこられて最初から召使いですとか言われて理解できないことばっかで敬語なんて使う意識も余裕もなかった。
「これは、何と言うかサラリーマンの名残というか…初対面の人とはついつい出ちゃうんだよ。」
ジトーッとこっちを見ながらムゥはそうですかと椅子に座ってくつろぎだした。
「またせたな!ん?なんかあったのか?」
「いえ、なんにもないですお構いなく。」
戻ってきたコウダイはいろいろな物を手に抱えていた。
「とりあえず、地図に拭き布、クリスタル、毒消しに干し肉やドライフルーツっとこのくらいだな。」
「ありがとうございます、ところで拭き布ってなんですか?」
毒消しや携帯食料はわかるのだが布巾なのか拭き布というのがよくわからなかった。
「あぁ、この世界は魔法スクロールっていうのがあったりと紙が結構貴重品でな、トイレの後尻を拭いたりするのはこういう布を使うんだ。」
早い話が大きいのしたらお尻をこの布で拭くということらしい。
「魔法が使えるならまず水の玉を生成してそれで尻を綺麗に洗うんだ、そのあとに拭き布で拭くって感じだな。」
ちょっとでも魔法が使えて良かったと本気で思った。
「魔法が使えない奴はそこらへんの葉で拭いたり汚いままの拭き布を持ち歩いて使いまわさなきゃいけなくなるからな。」
それは現代日本で生活していた自分にとっては抵抗があるってか無理だ。
「で、こっちのクリスタルなんだが緑が風で赤が火、青が水属性だ。ハーネスに装備すると水、風系は涼しく火、土系が暖かく体温を維持してくれるから状況に合わせて使い分けてくれ。」
コウダイは順番に説明しながら消耗品を分けてくれた。
「で、毒消しなんだがこれには体内の毒を消す以外にな、食べれるかわからないキノコなどにかけて毒を確認するのに使えるんだ。かけたものが溶けたり萎れたりしなければ食べれるぞ!」
毒消しがゲームで見てた以上にすごく優秀なアイテムであることがわかった。
「なにからなにまでホントにありがとうございます、これならすぐにでも出発できそうですね。」
「やっぱりすぐにでも出発する気だったんだな。」
察していたようにコウダイは黙々と準備を手伝ってくれた。
「はい、そちらにもいろいろあるでしょうし準備ができたらすぐに出発しようと思ってました。」
コウダイさんにはお世話になったが、結局のところ突然現れ盗賊団を皆殺しにした得体の知れない人間は普通の人にとっては怖いだろうと思っている。
「別に気にしなくていいんだがな、まぁもう決めてるなら止めはしないしこのアイテムも好きに使ってくれ!」
「コウダイさんホントにお世話になりました、準備ができ次第この村を出発しようと思います。」
そっかとコウダイは少し残念そうにだが装備の使い方や付け方を丁寧に教えて手伝ってくれた。
ハーネスをつけ皮鎧を装備し戦利品の鉈を腰に装備しザツノウにクリスタルや毒消し、拭き布など使うものを移し大きい方のナイフも剥ぎ取り採取用として装備しマントを羽織りカバンを背負って冒険に出る準備を整えた。
「ホントにいろいろありがとうございました、お二人もどうかお幸せに!では、失礼します。」
お辞儀をして感謝を言う。
「おう、近くにくることがあったらまた寄ってくれ!」
「また来てくださいね、冒険者さん!」
こうして、コウダイ夫婦に見送られながら村を後にした。
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