第6話 初めての村の朝
「俺はコウダイっていうんだ、とりあえずもう遅いし詳しい事は明日にして解散しよう。お前さん達はうちにでも泊ってくれ!」
コウダイと名乗った男の提案に俺は甘えることにした。
「はい、ありがとうございます。」
そう微笑んで俺とムゥはコウダイについて行く。家に付くとすぐコウダイは部屋に案内してくれた。
「狭くて申し訳ないが今日はこの部屋を好きに使うといい、それでは今日はありがとうゆっくりと休んでくれ。」
そう言うとコウダイは去っていき俺とムゥはベッドのある小さな部屋に取り残された。
「なんでお前も一緒なんだ?一応女の子だろ?」
「部屋が無いんじゃないですか?贅沢言うのは失礼でしょうし~。」
やれやれというジェスチャーをしたらムゥはベッドにボフッと座りくつろぎ始めた。
俺は明かりを付けて胸当や皮の腰当など装備を外していく、右の肩当を外そうとした時少しズキッとする痛みを感じた。
服をめくり右肩を見てみると少し青く変色し痣になっていた、盗賊のお頭に殴られた場所だろう。
「そっか、俺は命のやりとりをしてたんだよな…。」
一歩間違えれば自分が死んでいたかもしれない無茶をしたんだなと今更になって実感している。
「あのくらいの雑魚にやられてたら先が思いやられるのでございますよ。」
いつの間にか竜の姿になったムゥがベッドでゴロゴロしながら話しかけてくる。
「そもそもご主人もチュートリアル感覚で後先考えずに突撃したくせに今頃になって実感してるだけでございましょ?」
確かに盗賊に襲われてる人を見かけて試せると思ったし、逃げられたらめんどくさいと思って追いかけもした。
「ちょっと軽率だったなって反省してるよ…。」
結果、洞窟で盗賊団皆殺しというかたちでどうにかできたが、もしかしたら村を巻き込んだ盗賊団の報復戦にもなっていたかもしれない行動だった。
「あたくしはご主人について行くだけなので何するかはお任せですよ~。さすがに死なれたら困るのでできることはしますけどね。」
とりあえず考えていても仕方ないし新しい環境に疲労感も感じてきている、今日は寝ることにしよう。
「お前はそのまま丸まって寝るのか?」
ムゥはお構いなく~と尻尾を振っていたので俺は明かりを消してそのままベッドに入り目を閉じた。
最初は今日の盗賊との戦闘など思い出すこともあったが次第に意識は深く沈んでいき、いつの間にか眠りについていた。
どのくらい寝たのだろうか、日の光を感じ目をゆっくりと開く鳥の鳴き声とふと右を向くと腕に抱きつくように少女の姿のムゥが裸で寝息をたてていた。
「お前は何してんだよ!!」
寝ぼけていた意識が一気に覚醒しビックリした拍子にベッドから転げ落ちてしまった。
「あ、ご主人おはよ~ございます…ゆっくり眠れたみたいですね。」
目を擦りながら眠そうなムゥがむくっと起き上がってくる。
「いいから服を着ろよ!!」
俺は目を覆いながら生まれたままの姿をさらけ出すムゥに困惑していた。
「別にご主人に見られても気にしませんし、なんなら抱いてくれてもいいのでございますよ?」
ふわ~っとあくびをしながらすごい事を口走るとんでもドラゴンだった。
「ふざけるな!とにかく隠してくれ、目のやり場がっ!!」
俺が慌てた様子で騒いでいるとムゥはにやっとしながらこっちを向いた。
「なに照れてるんですかぁ?せっかく右肩直してサービスもしてあげたのに酷いじゃないですか~。」
ニヤニヤとしてるムゥを見ながら右肩を触ってみると確かに痣もなくなり痛みも無くなっていた。
「お前、こういうこともできるのな…ありがとう、そして服を着ろ!!」
そんな感じで、目の前のどや顔であまり無い胸を張っているムゥと騒いでいると外から声が聞こえてきた。
「起きてるか~?朝食の準備ができたからよかった一緒にどうだ?」
コウダイの声だった、朝から騒いでるのを聞いて呼びに来てくれたのだろう。
「あ、はい!今行きます~。」
俺はそう返事をしてムゥを見るとすでにいつものメイド服に身を包み髪を整えていた。
「さぁご主人ご飯でございますよ、いきましょう!!」
「いつの間に服着たんだよ…。」
ふふふと笑いながらベッドからすっと立ち上がりこっちを向き。
「いつまでもそんなとこに座ってないでさっさと行きますよ~。」
そう言いながら手を差し出してくる。
「大丈夫だよ、今行く…。」
そう言いながら扉を開け歩いて行った。
廊下を進むと大きなテーブルがある部屋に出た、そこには朝食が四人分用意されていてすごく美味しそうだった。
「おはようございます、好きなとこに座っちゃってくださいね。」
ふと聞こえた声の方を見てみると台所だろうかから優しそうな美しい女性が飲み物の準備をしながら声をかけてきた。
言われるままにコウダイと名乗った男の向かい側に座りその横にムゥがスッと着席していた。
「俺の嫁さんだ、綺麗だろ!」
はい、と答えるとコウダイは嬉しそうに微笑んできた。
「冷めないうちに召し上がれ!」
嫁さんがそう言いながら全員にコップを配って、コウダイの横に座った。
「「いただきます!」」
朝食は食パン2枚に目玉焼き、ウィンナーに野菜スープとスタンダード感じで地球の朝食と変わらなかった。ウィンナーはパリッとしていてパンやスープも向こうで食べていたのとなにも変わらないむしろこっちの方が美味しいくらいだった。
「パンは毎朝早くに作ってくれるおばさんが居てそこにもらいに行ってるんだ、卵や肉も専門にしてる人が居る。」
コウダイはそう言いながら朝食をバクバク食べていく。
「コウダイさんも何か作ったりしているのですか?」
そう尋ねるとコウダイはコップをコンコンと叩きながら。
「うちはこれだよ、飲んでみな!」
そう言われ、コップの中のオレンジ色の飲み物をゴクッと飲み込んでみる。
「美味しい、ミカンジュースですか?」
コウダイは美味いだろ!と嬉しそうにニコッとしながらおかわりを差し出してきた。
「俺はみかん農家と用心棒みたいなことをしてるんだ。」
食事が終わり、ジュースを飲みながらゆっくりしているとコウダイは話し始めた。
「最近ここの村の近くに盗賊団が住み着いていろいろ苦労してたんだが、それを急に現れたお前さんが討伐してくれたから結果的には助かったよ。」
このコウダイという男は俺が何を考えているのかわかっているようだった。
「そう、ですか?それならよかったのですが…。」
「そうさ、確かにお前さんが娘達を連れて帰って来るまでどうするかもめたがな、とりあえず俺を中心に腕っぷしに自信があるやつらで様子を見に行くってことにしたんだ。」
そうコウダイは村の状況を簡単に説明してくれた。
「そういえば、お前さん名前はなんて言うんだ?」
完全に名乗るのを忘れていた。
「すみません、名乗るのが遅れました自分はタカユキと言いますこっちは仲間のムゥです。」
そう言うとムゥも軽くお辞儀をして、ジュースをまた飲みだした。
「タカユキ、やっぱりな…お前さん地球人だろ?」
俺はビクッとした、なぜ異世界の地球の人間だとわかったのかわけがわからなかった。
「はっはっは、実はな俺も元地球人なんだよ!あのライダーキックって向こうの特撮番組の必殺技だろ?懐かしかったわ!!」
そう言いながらキョトンとしている俺を見ながらコウダイは笑ってみせた。
「装備を見るに来たばっかで自分の能力とかが気になってた感じだろ?俺もそうだったからわかるんだ!」
そう言いながらジュースをグビグビと飲んでいく。
「そう…だったんですねまさかこんなすぐに同郷の人と出会うなんて思いもしませんでしたよ。」
まったく予想だにしていなかった、しかし初めてであった人がいい人そうでホントよかった。
「お前さんはこれからどおするんだい?目的とかはあるのか?」
コウダイはそう質問してきた。
「とりあえず、街に行って冒険者になろうと思ってます。目的とかはそれから考えるつもりです。」
そうか、とちょっと残念そうにしながらもこっちを向き直りコウダイは続ける。
「もしよかったらこのまま村に住んでヨウジンボウでも思ったがやっぱ異世界に来たからには冒険しなきゃだよな!」
用心棒で一生この村で過ごすのはちょっともったいないと思う。
「そうですね、せっかくなのでいろいろ見て回ろうと思ってます。」
そう言うと、コウダイは急に手をパンッと叩いた。
「よしっ、なら俺が冒険者だったころの装備を譲ってやる。盗賊退治の礼とでも思ってくれ!!」
これはすごくありがたい、資金はできたが冒険セットは全くなかったのだ。
「助かります、でもほんとにいいんですか?」
「構わんよ、どうせもう使わない道具だしな。落ち着いたらさっそく取りに行こう、裏の倉庫にあるはずだ。」
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