第5話 報酬と感覚
鎖を解除し血が噴き出すお頭だった物がごろんと地面に崩れ落ちる。そのまま俺は檻へと歩み寄り、檻の鉄格子と少女達を拘束していた枷を鉈で叩き割ってあげた。
「大丈夫だった?」
そう言いながら微笑みかけてみる。
「あ、ありがとう…ございます…。」
少女達は泣きそうな顔でそう言ってくる、俺に怯えているような雰囲気だった。
「無理もないのでございますよ、そんな返り血まみれで大暴れしてた人が寄ってきたら助けられても怖いのでございます。」
そう言いながらいつからいたのか人の姿になったムゥが歩いてくる。
「居るなら手伝えよ、普通について来て手伝ってくれるもんだと思ってたよ…?」
「もちろん危なかったら助けに入りましたけど…ご主人、なにも言わずに走っていっちゃうし、能力チェックしたかったのかなぁと思っていたので見学させていただきました。」
確かに自分がどのくらいできるのか確認したかったし、正直ここまで不利な状況でもどうにかできてしまう確信はなかったが自信はあった。
「それにこの程度の相手ならいいサンドバッグだったんじゃないです?」
そう言うとムゥは檻の方へ歩いて行った。
「さぁお嬢さん達、助けに来たのでこんなとこさっさと出てしまいましょ?あたくしとご主人はちょっと後片付けしてから行くので待っていてくださいな。」
捕まっていた少女達に外で待ってるように促すとこっちに向き直り、指をクルクルと回して、それに合わせて水が俺の体に巻き付いてきて付いた返り血を洗い流していく。
「まずはご主人に付いた汚い血を洗い流しましょう。」
それなりに綺麗になったところで両手をパンッと叩いて水を吹き飛ばして見せた。
「ほんとお前って器用なんだな。」
「お褒めにあずかり光栄でございます。」
にっと笑ってみせたムゥは周りを見渡しながら奥へ進んでいった。
「せっかくですので金銭とかはこのまま貰っちゃいましょう。討伐報酬でございます!」
そう言うとお頭の座っていたあたりから宝箱を引っ張りだしお金や財宝をバックに次々としまっていく。
俺はお頭の死体から鉈の鞘を外し自分の腰に装備しながら鉈を眺めた、なにか名前が無いか確認していくと刀身の付け根に頭蓋砕と書いてあった。
「スカルチョッパーってとこかな?」
頭蓋砕ことスカルチョッパーの耐久性を考えこのまま俺はこの武器を貰うことにした。
「ご主人もいい武器ゲットでいい感じですね!」
ムゥは財宝の回収を終えるとこっちへと戻ってきた。
「ご主人その頭目の兜持っていきましょう、さっき一人蹴り飛ばした場所の近くに村がありましたので盗賊団が壊滅したのを捕まってた少女達と一緒にもって行って証拠にしましょう。」
そう言うと転がっていた頭から兜を剥がしこっちへ持ってきた。
「ばっちぃのでご主人これ持ってください。」
酷い召使いだった。
俺は戦闘が終わり冷静にこの状況を見て違和感を感じていた、さっきの少女が感じていたようなごく普通の感覚が無かったのだ…。
「なぁ、ムゥ」
はい?とこっちを向くムゥにこの疑問を問いかけた。
「俺、これだけ多くの人を殺したのに特に何も感じてないんだ…しょうがないこと、当たり前のことだと感じているんだが…。」
そう、これだけ人を殺したら狂ってもおかしくないはずなのに何も感じなかったのだ。
「あぁ、それはご主人が転生するに伴って思考をいじったのでございます。言い方を変えると頭のネジを一本外したって感じですね。」
なんかとんでもないことを言われた気がする。
「この世界は地球と違って死が隣にあるので怖くて人を殺せないとかそういう感情は冒険者になるであろうご主人には邪魔になると思われたのです。」
「そう、だったのか…。」
転生の直前に言われたのはこのことだったのだろう、どうしても人を殺さなければいけなくなるだろうこの世界でそういう常識は邪魔になると…。
「それではご主人、いきましょ?女の子達待たせてますしこの量の血の臭いです、獣がたくさん寄ってきますよ~。」
「あぁ、今行くよ。」
俺はまだ、このできてしまうことに納得できていなかった。しかし今は前に進むことにする、せっかく転生して新しい人生が始まるのだから。
洞窟の出口にムゥと歩いていくと、捕まっていた少女達三人が待っていた。怖がっていたしあのまま勝手に行ってしまうかと思っていたがそこは待っていたみたいだった。
「皆さん、お待たせしました近くの村までお送りしますのでとりあえず一緒に行きましょうか。」
なるべく刺激しないよう優しく接するように心がけて話しかけてみる。
「は、はい…よろしくお願いします…。」
少し不安そうな返事が返ってきた。
「じゃあ、いきましょうか。」
そう言うと俺たちは歩き出す、岩場を抜け少女達も居るのでなるべくゆっくり歩いて山を下っていく。
「ご主人、もう暗くなり始めてるし急がないと真っ暗になってしまいますよ?」
洞窟で戦っていたせいで気づいてなかったが結構時間がかかっていたようでもう空は薄暗かった。しかし少女達は消耗してるしなるべく早く村に届けてあげたかった。
「あ、あれ…。」
そんな時、少女の一人が正面から近づいてくる松明のような光に気づいた。
俺は腰の鉈に手を掛け警戒をしていると、光の方から声が聞こえてくる。
「お~い!大丈夫か~?」
よく見ると何人かの集団だろうか松明を振りながらこっちに近づいてくる。先頭に居る人は昼間盗賊と対峙していたガタイのいい男の人だった。
どうやら様子を見に来た村の人達みたいで安心して剣の柄から手を離す。すると少女の一人が集団の中に一人の顔を見つけて走り出していった。
「お父さんっ!!」
松明を持ってた男もそれに気づき少女に駆け寄っていく。
「マオっ!!」
男と少女は駆け寄っていき、ぎゅっと抱き締め合いながら父と娘の再会を喜び涙を流していた。
「昼間、急に現れたと思ったらそのまま盗賊連中を追いかけていっちまったからわけもわからず驚いたぞ。」
「その節はどうも、ご迷惑かけてしまったみたいですね。」
二人の場所まで歩いていき村の男の人達と合流し、軽く挨拶を交わした。
「いや、あれは不可抗力だし正直俺は助かったよ。とりあえず立ち話も何だし村へ来てもらっても?」
「はい、お願いします。」
そう言うと、村人達とゆっくり歩きだした。
村に到着したころにはすっかり暗くなり、白い綺麗な月が薄っすらと照らしている、残りの少女達もこの村の娘だったらしく両親が泣きながら出迎えていた。
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