第4話 血塗れのチュートリアル

 俺とムゥは少し近づき木陰から様子をうかがうことにした。

 

 そこには荷車を背に鍬を構えてる男とそれを囲うように二人の男が短剣を構えながら立っている。

「別に命をくれなんて言ってねぇんだよ、ただ食糧とか金目の物が欲しいだけでよぅ。」

「女ならともかくてめぇみたいなゴツイ男なんていらねぇしな、奴隷として売ってほしいなら別だけどな。」

 ハハハと笑いながら盗賊であろう二人が一人に向かって煽っているみたいだった。


「何度も言わせるな、お前たちのような糞野郎にやる食料も金もない!もう村に近づいてくるんじゃない!!」

 体格のいい荷車を守っている男が鍬を構えながら盗賊を牽制しようとしている。


「ったくめんどくせぇおっさんだなぁ、おい、もう殺して荷車だけ持って帰るぞ手ぶらじゃお頭に殺されちまう。」

「おうよ、おっさんこれはお前が悪いんだからな?せっかく命は取らないって言ってるのに言うこと聞かねぇんだから。」

 盗賊二人はニヤニヤと嫌な笑いを浮かべながら男にじりじりと迫っていき、男は鍬を構えて応戦しようとしていた。


「ちょっとよくない状況ですねぇ、ご主人どうします、隠れてやり過ごしますか?」

「それはちょっと寝覚めが悪いでしょ、丁度いいかもしれないし試してくる!」

 なにを?と言うムゥを尻目に俺は盗賊に向かって全力で走り出した!


「ライダァーキィィィック!!!」

 全力で走り、間合いを見計らって思いっきりジャンプし空中で宙返りをしながら盗賊に狙いを定め全力の飛び蹴りを食らわせる!!


「あぁ?…グゲェッ!?」

 鋭いキックは今にも襲いかかりそうな盗賊の一人の首を見事に捉え、何か硬いものをメキメキッと砕く感触が足から伝わってくる。盗賊はそのまま勢いよく吹っ飛んで木に激突して動かなくなった。


「ヒッ…な、なんだお前は…なんなんだよ!?」

 もう一人の盗賊はそれを見て何が起きたのか理解できないまま一目散に逃げだそうとしていた。


「あ、待て!!」

 俺は蹴った拍子に地面に転がった短剣を拾い上げ、そのまま逃げた盗賊を追いかける。


「お、おいちょっとまて…いったい!?」

 鍬を構えてた男がキョトンとしながらそう叫んでるのが聞こえたが、とりあえず俺は盗賊を追いかけることにした。盗賊は山道をどんどん駆け上がって逃げていく、さすがに地球人より平均能力が高いのか足も速くペースが落ちる気配すらなかった。

 そして、俺自身も全速力で走ればその速度に追いつけそうな気もするし疲れる気配も全くなかった。


 そのまま盗賊を追いかけていくと木々が減り、ゴツゴツとした岩が多い崖になり逃げる盗賊はそのまま岩の影に消えていった。後を追い、消えたあたりに来てみるとそこには岩の陰になって気づきにくいが洞窟がありまさに隠れ家という雰囲気だった。


 洞窟の奥、ガタイのいい角のついた兜に毛皮を纏った男が昼間から酒を飲みながら座り、周りで手下であろう盗賊が肉を食べたり檻の中の女性に手を出そうとしたり酒を飲んだりと好き放題していた。

「お、お頭ぁ!!」


 そこに手下が一人慌てた様子で駆け込んできた。

「なんだ騒々しい、せっかくの酒が不味くなるじゃねぇか!」

「村の方に行ったら一人、変な奴が出てきて蹴られてやられちまった!!」

 その盗賊は肩で息をしながらお頭に報告しようとしていた。


その時、その盗賊は腹のあたりに熱いものを感じた…短剣が背後から突き立てられていたのだ。

「えっ…?」

 盗賊がそう言った瞬間お腹に突き立てられた短剣が思いっきり右に振りぬかれ大量の血を吹き出しながら倒れた。


「変な奴とか失礼だな、お前に言われたくないわ…。」

 周りの盗賊共は一斉にこっちを向いてくる。


「てめぇ何しに来た?一人で乗りこんでくるたぁいい度胸じゃねぇか、かわいい子分をやって生きて帰れるなんて思ってねぇよな?」

 お頭と思われる男が立ち上がり、やっちまえ!と声をあげると一斉に手下が武器を構え襲ってきた。


「絵にかいたようなテンプレ展開、ただで帰ろうなんてこっちも思ってないよ。」

 俺は最初に襲ってきた手下のサーベルをギリギリで躱し、そのまま胸に短剣を突き刺しサーベルを奪い取りそのまま別の奴へ蹴り飛ばし、そのまま左から迫っていた手下の腹をしゃがみながらサーベルで切り裂いた。


 次は右後方の敵だ、首に目掛けてサーベルを振り上げると刃がボロボロのせいか骨に引っかかり抜けなくなってしまった、血が噴き出す中サーベルを捨てそいつが持っていた斧を奪い取りながらくるりと振り向きそのまま正面に来た敵目掛けて投げつける。

 武器が無くなったこのタイミングで下っ端二人が同時に襲ってくる、俺は後方にステップを踏みながら一人の腕を掴み武器を叩き落しながら力任せにもう一人に投げ飛ばし、落としたサーベルを拾い上げ迫って来る別の手下の胸に突き立てた。サーベルを引き抜きそいつが持っていたもう一本のサーベルも奪い二振りを使い体制の崩れていた先ほどの二人の首目掛けて切り裂き、さらに迫る敵を次々と薙ぎ払っていく。

 自分でも驚くほど冷静で敵がスローモーションのようにはっきりと見えていた。


「後はお前だけみたいだよ、お頭!」

 俺は顔に跳ねた返り血を拭いながらお頭と呼ばれていたゴツイ男にサーベルを突き付ける。


「ったく…皆、殺しやがって、てめぇもろくでもねぇ野郎だな…俺はお前の親でも殺したか?」

 お頭はそう言うとゆっくり立ち上がり腰に下げていた剣を抜き放った。それは剣というには刀身が太く片刃で先端が丸い切先のない刀、長い鉈のような剣だった。


「別にそういうわけではないさ、鉈?重そうな剣なことで。」

 フッと笑うと盗賊のお頭はその鉈を振り上げ思いっきり斬りかかってくる。

俺はそれを左のサーベルで受け流そうとしたその時だった、サーベルがバキンと音を立てて砕けたのだ。

 驚いたがギリギリで体を反らして回避しながら右手のサーベルで斬りかかろうとした瞬間、何かが飛んできた。左の拳だ。


「痛っ!」

 重い一撃が右肩に当たりそのままサーベルを落としてしまった。

 なんとかバックステップを踏んで距離をとる。鉈で斬りかかるお頭にあえて飛び込むように攻撃を躱しながら落ちていた斧を拾い上げそのまま斬りかかる。振り向きざまに切り上げてくる鉈とガキンと音を立てて弾き合いお互いにのけ反ってしまう。斧を見ると刃の真ん中に亀裂が入り砕けていたがお頭の鉈はヒビすら入ってなかった。とんでもなく硬いようだ…。

 

 俺はそのまま左手で握っていた折れたサーベルを思いっきりお頭目掛けて投げつける、お頭はそれを鉈で弾きながらそのまま斬りかかってくる。それを左に飛びながら今度は短剣を拾い、そのまま投げつける。完全に振りぬいた直後だったおかげか左肩に命中し短剣は深々と突き刺さった。


「っち、ちょこざいなぁ!!」

 お頭は怒りをあらわにして短剣を引き抜き投げ捨てる。そしてそのまま鉈を振り下ろしてくる、それを欠けた斧で弾きその瞬間砕け散った斧を捨てながら今度は右に思いっきり飛んだ。攻撃は見えている、避けたり受け流すことは簡単にできるが武器の差があり過ぎて攻め手に欠けてしまっていた。


 このままではじり貧になるのは目に見えている、どうにかしなければと攻撃を避けながら必死に考えていた。

「どうした?もうネタ切れか小僧、子分達の仇とらせてもらうぞ!!」

 そう叫びながら鉈を振り下ろしてくるお頭をまた飛び込むように避けると後ろからジャラという音が聞こえた。


「ひっ!?」

 檻に鎖でつながれて少女達だ。近くに振り下ろされてきたお頭の鉈に恐怖しているようだった。鎖の音を聞き、俺は左腕についている転生特典のことを思い出す。


「そんだけ振り回しても疲れ一つ見せないとか化け物かよあんた!」

「てめぇも化け物みたいに暴れてただろうが!」

 そんな問答をしながらお頭はまたこっちを向き鉈を振り上げる。いまだ!!


「グレイプニル、束縛しろ!!」

 俺は左腕を思いっきり前に振り下ろした。その瞬間金色に輝く鎖がガラガラガラと音を立てながらお頭の体と柱や檻の鉄格子などに巻き付いていき完全に動きを封じこめた。急な出来事に振り上げられていた鉈が絡みとられガランと音を立ててお頭の手からこぼれ落ちた。


 戦いでは役に立たないかもと言われ失念していたが要は使い方次第ということらしい。魔力で編まれた強力な鎖、それを引き千切れる者なんてそうそう存在するわけないのだ。


「クソが!放しやがれっ!ふざけるな!!」

 俺はそのまま地面に落ちていた鉈を拾い上げる。鉈はあれだけ撃ち合ったのに傷一つ付いていなく、不思議なくらい手に馴染んできてずっしりとした重みを伝えてくる。

「これで終わりだよ。」

 そのまま鉈をお頭の首目掛けて振り下ろした。

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