後日談その6 一ヵ月ぶりの再会

 ――夏休みが始まってから、一ヵ月が経過した。

 もう八月が終わり、九月を迎えている。休暇は残り二週間を切っていて、人によっては休暇に飽きて退屈している時期かもしれない。


 だが、この二人にとってはむしろ、ようやく『夏休み』が始まった気分だった。


「幸太郎くん、おかえりなさいっ」


 中山家にて。

 呼び出しを受けて玄関から出てきた幸太郎を、しほが満面の笑みで出迎えた。


 彼に会えたことがとても嬉しいようで、居ても立っても居られないと言わんばかりに幸太郎に駆け寄って、さらに飛びついていた。


「うん、ただいま」


 一方、幸太郎もまたしほと同様に、とても嬉しそうだった。

 飛びついてきたしほを受け止めて、ギュッと抱きしめている。


 そうやって、熱い抱擁を交わすのも無理はない。

 何せ、これが一ヵ月ぶりの再会なのだ。


「しぃちゃん、元気にしてた?」


「うんっ。いっぱい元気だったわ! 幸太郎くんはどう? 元気にしてた???」


「もちろん。ちゃんと元気だから、安心して」


 ……そうなのだ。

 幸太郎はこの一ヵ月、母親が住んでいるアメリカにいた。将来的なことを見据えて、彼は外国語を重点的に学んでいたのだ。


「アメリカはどうだった? 野球とか見た? オータニサンいた!?」


「球場には連れて行ってもらったけど、遠くて見えなかったなぁ……いたのかな?」


「へー! いいなぁ……ご、ごはんはどうだった? お肉大きかった? チキン! ステーキ! バーベキュー!」


 久しぶりの再会だからだろうか。

 しほはいつも以上に質問攻めを仕掛けており、幸太郎もそれを楽しそうに笑って答えていた。


 やっぱり二人は相性が良いのだろう。

 会話は途切れることなく、盛り上がっていた。


「それで、しぃちゃんはどう? 免許試験はどうだった?」


 そして話題は、あの話へと切り替わる。

 幸太郎が海外に行くということで、通うことになった自動車学校。


 この一ヵ月ほど、しほはサボることなく毎日通っていた。講習を詰め込んだおかげでもう試験は終わっており、結果はすでに出ている状態だ。


 幸太郎もその情報までは知っている。

 この一ヵ月、顔を合わせてはいなかったが、毎日メッセージをやり取りしていたわけで……二人は色々な情報を共有している。


 だが、試験がどうなったのかは、まだ教えてもらっていなかった。

 実はずっと気になっていたのだが、しほがなかなかその話題を出してくれなかったので、しびれを切らして幸太郎の方から聞いてみたわけだが。


「免許試験……」


 そのワードが出た瞬間、しほが表情を暗くした。

 幸太郎はそれを見て、まずい……と、即座に慰めようと口を開いたのだが。


 次の瞬間、彼女はポケットから何かを取り出して勢いよく掲げて、こう言った。


「――もちろん、一発合格したわ!」


 そして見せつけてきたのは、ドヤ顔の証明写真がなんとも愛らしい運転免許証。

 彼女は見事、運転免許試験に合格していたのだ。


「おお! 良かった……合格してたんだ。び、びっくりしたぁ」


「えへへ~。どうしても自分の口で言いたくて、隠してたのっ」


 無邪気な笑みに、幸太郎もまた笑う。

 出会ってからずっと、二人の笑顔は絶えない。


 その笑顔はこれからもずっと、永遠に続くだろう――。

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