後日談その7 ドライブしほちゃん

 ――その光景に、幸太郎はとても不思議な感覚を抱いていた。


(違和感がすごいなぁ)


 たとえるなら、子供店長だろうか。

 店長と子供という、印象の大きく異なる二つの役職が合わさったことによる脳の混乱が、幸太郎の頭の中に生じていたのである。


「あれ? 幸太郎くん、どうしたの? とても変な顔をしているわ」


 一方、彼を混乱させている原因であるしほは、いつも通り平然としていた。

 慌てることもない。逆にいつもより集中している様子もない。あくまでいつも通りの自然体で、それがまた幸太郎を困惑させた。


 彼の知っているしほなら、間違いなく今の状況であたふたしているはずなのに。


「しぃちゃんが運転してるって、やっぱり不思議だなぁ」


 分かっている。こんなことを言ったら、しほがふてくされることなんて、分かり切っている。で会ってからもう三年以上経過しているのだ……彼女の性格は熟知している。


 だけど、その配慮が抜け落ちてしまうくらい、幸太郎はちょっと混乱していた。

 しほが車を運転している姿を、なかなか脳が処理してくれなかったのである。


「なんで!? わたし、すっごく運転が似合ってる大人のレディーなのにっ」


「おと、な……?」


「お・と・な!」


 まぁ、しほの方は自信満々なのだが。

 車の運転をしてる自分に酔っているらしい。


「だって、運転をするわたし……すっごく大人でしょうっ」


 その発言がもう子供っぽいのだが、それはさておき。


「免許をとれたとは聞いていたけど……実際見てみると、なんか不思議だなぁ」


 今日、幸太郎はしほにドライブに連れて行ってもらっていた。

 前々からドライブに行くことは約束していたし、免許を取ったことはもちろん彼も知っている。合格パーティーも開催したくらいだ。


 でも、あのしほが車を運転している光景に、幸太郎は自分で思う以上のショックを受けているようだ。


「そっか。しぃちゃんも大きくなってるんだね……車も運転できるお姉さんになって、俺は嬉しいよ」


「こ、子供扱いされてる? わたし、同級生の男の子に子供と思われてるの!? 心外だわっ……幸太郎くんのお姉ちゃんは、むしろわたしなのに!」


 幸太郎はしほの保護者気分で。

 しほは幸太郎の姉気分で。


 それぞれ二人は、お互いにお互いを可愛く思っていたようだ。

 まぁ、それは仲がいい証拠なのでいいのだが……ともあれ、幸太郎はしほの運転姿に驚いて、それから成長を喜んでいると、そういう状況なのである。


「もうっ。幸太郎くんったら……いつまでも子供扱いしないでね? 今度から、行きたい場所があったらどこにでも連れて行ってあげるわ。運転のできるしほお姉ちゃんに任せなさいっ」


 夜、海辺の道をゆっくりとドライブしながら、しほが自信満々にそう言った。

 その『任せなさい』は、今まで一番頼りがいのある言葉だった。


「まぁ、ママから借りている車だから、ママの予定がない日に限るけどっ」


 ……前言撤回。まだまだしほも幸太郎も子供なので、自由を謳歌するには少し年数が足りないらしい。

 ともあれ、車という移動手段ができたことは、しほにとって大きな喜びになったようだ。


「これで、幸太郎くんとどこにでも行けるわ♪」


 陸さえ続いていれば、どこにでも。

 大好きな人と好きな場所に行けることを、しほは嬉しく思っている。


「そうだね。今度はちょっと、遠出しよう」


 そして、その思いは幸太郎も一緒だった。

 大学生になって、二人はまた一歩大人の階段を上っているようだ――

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