後日談その4 パパ活しほちゃん
――大学生になると、一気に自由度が増えた。
私服の登校も、講義の時間に合わせて学校を出入りすることも、果ては自家用車を運転したり、敷地内の喫煙所でタバコを吸っている生徒を見ることもあって、とても新鮮だった。
「ねぇねぇ、幸太郎くんは免許取らないの?」
入学して一ヵ月が経ったとある日の事。
中庭の一角、芝生の上で大好きな人とお昼ごはんを食べた後、のんびりとくつろいでいた時である。
霜月しほが、少し遠くで往来する自動車を眺めながら隣にいる青年に話しかけた。
弁当を食べ終えてお茶を飲んでいた彼――中山幸太郎は、しほにつられるように走る車に視線を向けた。
「うーん。車かぁ……一応、取得できる年齢にはなるのか」
二人の誕生日は八月の半ば。
夏休みに合わせて自動車学校に通うことができれば、取得も不可能ではない。
ただ、彼はあまり乗り気ではないようである。
「でも、うちに車がないからなぁ」
そう。幸太郎の両親は仕事で海外に出かけている。
そのせいか、幸太郎の家に車がない。免許を取得したとしても、乗ることができないのだ。
「おかあさまに買って~ってお願いしてみるのはどうかしら?」
「……まぁ、あの人なら買ってくれそうな気はするけど、あまり気は進まないかも」
幸太郎の母親は厳しい人ではあるのだが、金銭面に対しては割と緩いタイプだったりする。免許取得にかかる費用も、なんなら車も買ってくれるかもしれないが、とうの本人はそれを好んでいなかった。
「どうせなら、そういうことは自分のお金でやりたいから」
他者に頼ることが苦手な彼は、時に厳しい道を好んで歩む悪癖を持っている。しっかりはしているのだが、他者に甘えられないことは一種の枷でもあるのかもしれない。
一方で、彼女は甘えることに躊躇いがなかった。
「ふーん。そうなのね……じゃあ、わたしが車の免許を取るわっ」
「……えぇ? しぃちゃん、正気?」
「なんで正気を疑われているのかしら。なんだかとてもバカにされている気がするっ」
幸太郎に驚かれて、彼女は心外と言わんばかりに唇を尖らせた。
「パパにお願いして免許を取らせてもらうわ! 大丈夫、肩たたきでもしてあげたらパパは楽勝なの。こういうこと、なんて言ったかしら……そう、パパ活! わたし、パパ活するのっ」
「随分と微笑ましいパパ活だね」
「……あら、パパ活の意味、間違ってた?」
「いや、本来の意味で当たっているし、そのままのしぃちゃんが俺は好きだよ」
「あらあら、じゃあそれでいいわね。うん、そうするわ」
のろけてイチャイチャする二人。
大学生であるにも関わらず平和すぎる二人を、周囲は生暖かい目で見ているのだが、その視線に気付く様子はなく会話は続いた。
「免許を取った後、ママから車を借りてドライブに行きましょう? どこに行きたいかちゃんと考えててねっ」
「……なんだか心配だなぁ」
「任せて! わたし、やればできる子だからっ」
そんな、和やかな会話を交わす昼下がり。
あっという間にそのひとときは過ぎていく。
「あ! 幸太郎くん、そろそろ次の講義が始まるわ」
「え? もうそんな時間か……早く行こうか」
昼食を終えて、二人は次の講義へと向かっていく。
……こうやって、幸太郎としほの大学生ライフは、のんびりと続いていた――。
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