後日談その1 大学受験

 ――霜月しほは激怒した。


「おべんきょーなんてきらい! きらいきらいきらいきらいきらいー!!」


 高校三年生、一月初旬。

 こたつで勉強していたしほは、シャーペンを投げ捨てて床に寝転んだ。


「もうやだっ! おべんきょーしたくない……ゲームしたいよぉ。ふぇぇえん」


 泣きべそをかきながら弱音をはくしほ。

 そんな彼女を隣で見守っていた中山幸太郎は、あやすように彼女の頭をなでた。


「よしよし。あと一週間だからがんばろう。その後はたくさんゲームできるからね」


「ぐぬぬ……いっしゅーかん、やだぁ。今やりたいっ」


「今かぁ……本当にいいの? 同じ大学、いけなくなるかもしれないのに」


「うぐっ」


 幸太郎の一言を受けて、しほは喉を詰まらせた。

 もうすぐセンター試験が訪れる。つまり、しほにとっての正念場が迫っていたのだ。


「しぃちゃん、合格ラインギリギリだからなぁ」


「……うぅ」


「いや、でもストレスがたまるくらいだったら、少しくらいゲームした方がいいのかな……?」


 優しい幸太郎だからこそ、しほのことを心配している。

 しかし、甘やかすだけが優しさではないのだ。そのことを幸太郎も分かっているし、もちろんしほも……甘やかされることが、必ずしも良いことじゃないと理解しているわけで。


「いいえ。幸太郎くん、厳しくしてって前にもお願いしたでしょう? そうじゃないとわたし、サボっちゃうから……」


「……そうだね。大変だと思うけど、今はとにかくがんばろう! 終わったらたくさんご褒美あげるからっ」


「うん! いっぱいご褒美もらうっ……幸太郎くんにたっぷり甘やかされるためにも、がんばる!」


 自らに喝を入れて、しほは再び起き上がった。

 しっかりとシャーペンを握りしめて、解きかけの数式に挑むしほ。

 その顔つきは真剣そのものである。


『一緒の大学に行って、楽しい大学生ライフを送る!』


 それを目標に、しほは勉強を頑張っていた。

 目指している大学は、勉強が得意な幸太郎にとっては少しレベルが低く、勉強が苦手なしほにとってはややレベルが高い。おかげで幸太郎には余裕があるものの、しほは限界ギリギリだったのである。


 彼女はもちろん、生粋の勉強嫌いだ。好きなことをして生きていきたい彼女にとって、受験はかなり過酷な試練である。


 一人だったらもうとっくに投げ出していたことだろう。

 しかし、恋人の幸太郎が常に隣でサポートしてくれていたので、なんとかここまで継続できた。

 努力すれば合格も現実的と言えるほどに成績が上がったのも、彼のおかげである。


 応援してくれた、幸太郎のためにも。


「しぃちゃん、そろそろ休憩する?」


「……ううん。あともうちょっとだけがんばるっ」


 彼女は一生懸命、がんばっていた――。







 ――そして、なんとか受験を終えて。

 合格発表までの期間、不安で幸太郎から離れられない生活を送った後……ついに合否の発表が行われた。


 目標としていた大学で、合格者の試験番号が掲示されている。

 その中から、祈るように自分の番号を探すしほ。


 不安そうに、幸太郎の手を握りながら順番に番号を見ていたしほは……自分の番号を見つけて、飛び跳ねた。


「や、やった……幸太郎くん、やったー! 合格、合格してるっ……わたしの番号、あるっ!!」


「やったー! すごいよ、おめでとうっ! よくがんばったね」


「うん! わたし、がんばった……いっぱいがんばったよぉ。ふぇえええん」


 泣きながら安堵するしほと、満面の笑みで彼女の合格を喜ぶ幸太郎。

 もちろん、幸太郎も合格していたので、二人とも満面の笑みで帰路についた。


 これで二人も、春から大学生である――。





//////////

お読みくださりありがとうございます!

大学生編、後日談として不定期で続けたいと思います。

もう物語は終わっているのですが、二人の何気ないひとときを楽しんでくれると嬉しいです。

まずは小説家になろうの方で投稿していた8話まで毎日登校して、それ以降はまた不定期の更新となります。

どうぞよろしくお願いしますm(__)m

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