五百四十五話 自分が良く分からない


 いや、待て。

 あまりにも独白が多すぎる。


 最近、いい意味で考えすぎることが減っていたのに……これでは昔の、自分をモブだと思い込んでいた頃みたいだ。


 ネガティブになりすぎたところで解決することなんて何もない。

 それをしほが教えてくれて、ちゃんと修正できていたはずなのに。


 しかし、さっきは俺らしくない、主人公のような思考が出てきていたわけで。

 昔の俺に戻ったり、本来の俺ではなかったり……自分が定まっていないような気がして、なんだか落ち着かない。


 いったいどうしてそうなったのか――って、また考えようとしている自分に気付いて、うんざりしそうになった。


 変化に動揺するのは仕方ないと思う。

 でも、それを今考える必要は絶対にない。

 せっかく、海水浴に来ているのだから後にするべきである。


 そんなことにも気づかないから俺はダメなのだ……と、自己嫌悪のループによく陥っていたのは昔の事である。


 とりあえず、気分を切り替えよう。


 ここまで経って、ようやく内側ばかり覗いていた思考が外を向いた。

 ナンパ男たちと一緒に一難が去ったわけだけど。


 そういえば、しほと梓はどんなリアクションをしているんだろう?


 うーん。ちょっと前までの俺なら、すぐに二人のことを心配してあげられたはずなのになぁ。自分の状態が相変わらず分からないけど、とにかく様子を確認しないと。


 もしかしたら、俺の対応に不満を抱いている可能性もある。

 情けない俺を見て幻滅していたらどうしよう……って、あーもう!


 中山幸太郎、めんどくさいぞ。

 考えるより先に行動しろ!


 そう自分に言い聞かせて、半ば強制的にしほと梓に意識を向けた。


「おにーちゃん、梓は中学生じゃなくて高校生なんだけど!? ねぇ、さっきから生返事ばっかりしてるけど、ほんとに分かってる!? うにゃぁああああああ!!」


 それからやっと、梓が俺の背中をぺちぺち叩いていることを把握した。

 どうやら俺は考えることで頭がいっぱいになっていて、生返事していたらしい。恐らくは数分くらいかな? ぺちぺち叩かれている背中が少しだけヒリヒリしていた。同じ場所ばかり叩かれているから赤くなってるのかもしれない。


「う、うん。ごめんな」


「『うん』ばかり言ってないで、他にも――って、ちゃんと謝った!? ねぇ、ちゃんと話聞いてたの?」


「それは……もちろん、聞いてたよ。中学生って言ってごめんな」


「……ほんとに? おにーちゃん、なんかぼーっとしてたけど?」


 怪しまれているものの、話はなんとなく把握している。全部をしっかり聞いたわけじゃないが、さっきの発言で彼女の言いたいことはちゃんと理解できている。


 ナンパ男たちを撃退するために『梓が中学生』とウソをついたのだ。そのことに彼女はご立腹のようである。


「中学生じゃないんだからねっ。梓はちゃんと大人なんだから!」


 中山梓は、幼い見た目がコンプレックスなのか子供扱いされるのを極端に嫌う。

 先程はナンパ男たちの目があったから何も言わなかったけど、やっぱり不服だったようだ――

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