五百四十四話 想定通り『すぎる』

「せっかくのかわいい女だったのになぁ」


「まぁ、少しガキっぽいしいいだろ。あっちにも別の女いるし」


「もうちょっとノリがいいギャル探そうぜ~」


 かくして、ナンパしてきた男たちは離れていった。

 しほの容姿に惹かれて近寄ってきたけれど、執着はさほどなかったようで安心した。


 彼女は誰もが認める美少女で、時に人を狂わせる魔性を有している。

 かつての竜崎がそうだった。しほの魅力に目がくらんで、彼女に執着して、周囲が何も見えなくなっていた。しほが意図しているわけではないものの、そういう性質を持っているせいで困ることもあるのだ。


 これから先、彼女と一緒に生きていたらこういう機会に出くわすことも多々あるだろう。その際に慌てることなく、さっきみたいに冷静に対処できるように心がけておきたいものだ。


(それにしても……あっさり帰っていったなぁ)


 もうすっかりこちらに意識は無いようで、男性3人は遠くの方に歩き去っている。

 小さくなっていくその後ろ姿を眺めながら、なんとなく居心地の悪さを覚えていた。


 あまりにもうまくいきすぎた。

 想定していた結果ではある。しかしそれは、期待の先にある願望に近かったので実現するなんて思っていなかった。


 こうやって穏便に済むことを目的として、言動に気を付けたわけで。

 実際はもっと、不確定な要素が絡むことによって予期せぬ出来事が生じてもおかしくはなかったはずなのに。


 いや、むしろもっと荒れた方が『自然』でさえあるだろう。

 軽くもめて、しかし手を出すまでは至らずに、なんとか場を乗り越える……そうなっていたら、こんな居心地の悪さもなかったのかもしれない。


(思い通りになりすぎだ)


 これではまるで、事前に決められていた筋書きに従っているみたいで。

 こういう現象をなんて表現するかと言うと――


『ご都合主義』


 ――と、そう表現できる。


 まず、そもそもの話、しほをナンパするということも俺には引っかかっていた。

 彼女は高校二年生。そして見た目も、そこまで大人っぽいわけじゃない。これが胡桃沢さんやメアリーさんのような大人っぽい雰囲気があれば、ナンパされるのも納得できる。


 しかし、彼女はまだ子供っぽい。

 高校生には見えるけど、大学生と言われるとしっくりこない容姿である。

 たしかに綺麗な容姿だけど、まだあどけなさの残る少女を大学生の男性がナンパするだろうか?


 更に、俺の説得にいともたやすく懐柔されたのである……色々と無理のある展開な気がして、やっぱり不気味だ。


 まるで、誰かが仕組んだシナリオみたいだ。

 ……もう、物語的な思考はしないと、そう決めたのに。


 どうしても、そうやって考えた方がしっくりくる事態に陥っていた。


 今まで色々あった。

 数々の出来事を経て、俺は成長した。

 しかし、またしても俺の状態を元に戻そうとしているかのような強制力を感じる。


 俺を回帰させて、物語を動かそうとしているかのような。

 何者かの作為的な意思が節々に垣間見えて、やっぱり落ち着かない。


 一体俺を、どうしたいんだろう?

 その答えは、どんなに考えてもただのキャラクターには分からなかった――。

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