五百四十話 不自然な変化
朝ごはんを食べ終えた後のこと。
「おにーちゃん、お散歩に行ってあげてもいいよっ?」
梓がいきなり外出しようと誘ってきた。
普段はあんまり二人きりになろうとしないのに……何かあったのだろうか?
「あら、あずにゃんったら珍しいわね。いつもは幸太郎くんにツンデレするくせに」
「つ、ツンデレなんてしてないもんっ。別に変な理由はないんだからね!」
その言い方だと、まさしくツンデレみたいに聞こえてくるなぁ。
「ちょ、ちょっと、その……食後の運動を、しようかなって」
「え? なんで? あずにゃん、健康なんて気にするタイプじゃないわよね?」
「まぁ、気にはしてないけど……」
「あ、分かった。普段は幸太郎くんを独り占めできているのに、昨日はあまり甘えられなかったから、物足りないのね? こういうのをなんていうか知ってるわ。『よっきゅーふまん』でしょ?」
「違うよ!? そういうわけじゃないもんっ。し、霜月さんとかくるりおねーちゃんが細すぎるから、ちょっと体重が気になっているだけだもん!!」
さすがに欲求不満を疑われるのは心外だったのだろう。恥ずかしくて言えなかったであろう本音を教えてくれた……なるほどね。
確かにしほと胡桃沢さんは細い。一方、梓も細くはあるけれど……やや幼児体形というか、くびれがないというか、寸胴体形気味というか。
洋服を着ていたらそこまで気にならない程度の差である。ただ、水着姿になるとスタイルが顕著になるわけで……梓はそれが気になっていたようだ。
ぽっちゃりしているわけじゃないので、俺としては気にしなくてもいいと思うけど。
そして今更、足掻いたところで大して変わらないだろう。
とはいえ、軽い散歩は健康に良い。
否定する理由もないのでもちろん頷いた。
「ふーん? 『よっきゅーふまん』じゃないのね」
そういえば、しほって言葉の意味を正しく理解しているのだろうか。
ふわっとした理解で使っているような気がしてならないけど、詳しく説明するのは恥ずかしいし、まぁいいや。
「幸太郎くんが行くなら私も行くー!」
「あー! それ以上細くなってどうするの!? 霜月さんは行かなくていいよっ」
「なんで? 幸太郎くんがいいなら私もいいわよねっ」
「良くない! おにーちゃんはただの付き添い。ビーチで一人きりだと寂しいし」
ああ、それで俺を誘ったのか。たしかにここは胡桃沢さんの家が所有しているプライベートビーチなので、人が全くいない。誰もいない海岸を歩くのは心細かったのだろう。
あと、しほに言わなかったのは、ダイエットと言うのが恥ずかしいので隠そうとしていたのかな。
結局全部バレているけど。
「はぁ、もういいや……どうせイヤって言ってもついてくるでしょ?」
「うん! ついていくわ」
「じゃあいいよ。霜月さんも一緒に行こ」
「わーい」
そういうわけで、話はついたようだ。
三人で別荘を出て、海へと向かう。
人気のない海岸をのんびり歩こうと、そう思っていたけれど。
「あれ? おにーちゃん、人がいる……しかもいっぱい!」
「本当だわ。一、二、三……うん、いっぱいいるわね」
「え? なんで……?」
ビーチに出て、真っ先に見えたのは複数の人影。
プライベートビーチのはずなのに、ビーチには結構な人がいた。
いったいどういうことだろうか。
不自然な変化は、何を意味しているのか……それが良く分からなくて、なんだか不気味だった――
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