五百三十七話 主人公のように
「べ、別に一緒に作ったわけじゃないわよ。あたしは手伝い程度のことしかしてないから」
本人としては素っ気なく言ったつもりだろう。
しかし、声がわずかに上ずっていて、動揺していることがバレバレだった。
「ふーん? 手伝い、ねぇ」
「そうよ。ただの、手伝い」
手伝いであることを強調してはいるけれど、一緒に作業したことは否定していない。
共同作業をした、という認識はあるようだね。
だからだろうか……そのことに、クルリは少しだけ気後れしているように見えた。
普段、彼女はワタシに対してあまり弱みを見せない。
ああ言えばこう言う厄介なメイドに上げ足を取られないように気を付けているのだろう。実際、彼女は頭の回転もいいので、このワタシに舌戦でも負けることはほとんどない。
しかし、クルリにはどうしても強く反論できない弱点が一つだけある。
それは『中山幸太郎』のことだ。
「勘違いしないで。あたしはこのことで何も思ってないから」
ほら、聞いてもいないのに言い訳をしようとしている。
ワタシに動揺を悟られまいと口数を多くしていた。逆にそれが不自然であることにも気づけないほど、クルリは冷静じゃない。
「そうなんだね。別にワタシは疑ってないけど?」
「ウソね。顔がすごく……ムカつく」
「それは生まれつきだから仕方ないねぇ」
軽薄に笑いながら、室内へと上がる。
先ほどは一方的に叱られていたものの、コウタロウの話題になってからはワタシの方が優勢だ。サボっていたことの叱責もできないほどに戸惑っているのだろう。
どうして、そんなに困っているのかな?
ワタシに問い詰められることを、そんなに嫌がっている理由は何かな?
……その答えは、聞かずとも理解している。
だってワタシは天才(クリエイター)だからね。
『また、好きになってしまったんだろう?』
胡桃沢くるり。
この物語で唯一、メインヒロインに牙を向いた恋敵(ライバル)。
そんな彼女が再び、物語の舞台へと戻ってきた。
かつては惨敗した端役でも、今の腑抜けたメインヒロインには強敵となりえるだろう。
さぁ、ここから始めよう。
ヒロインが二人存在する『三角関係』のラブコメを。
片方を不幸にする、という痛みを代償にモブキャラのアンチハーレムメタラブコメを、完結させようじゃないか。
優しいだけでは終われない。
コウタロウ……優しいままでは、終わらせないよ。
傷つける強さを持て。
それでようやく、キミは完成する。
中山幸太郎は、霜月しほに比肩する『主人公』へと成れる。
だから、数多ある物語の主人公のように、自分勝手な正義で他者を切り捨てろ――
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