五百二十六話 ギミック

 物語を作る手法は数多く存在する。

 人によって異なるだろうし、決して正解なんてない。


 仮に『正しい物語の作り方』が存在するのであれば、面白くない作品なんて存在しない。

 創作論とは、すべてにおいてただの『結果論』だからね。


 参考にするのは良いことだろう。異なる考え方を取り入れて自分の技を昇華させることは必要だ。

 でも、従属してはならない。『この創作論の通りにやったのにダメだった』は当然のことだからね。


 何せ、正解がないのだから。

 そもそも『面白さ』とは感情であって『論理』ではない。数学のように定式化できないからこそ、創作論は人の数だけ存在する。


 人の感情を定量的に表すことができない限り、正しい創作論は生まれないだろう。まぁ、人間は物事の正否ではなく、好き嫌いで行動を決める動物だから、感情を数式化なんてできないと思うけど。


 ともあれ、創作というものは難しいということが、ワタシは言いたいわけだ。


(どういうギミックにすれば良い? コウタロウとシホに、どう仕掛けていこうか)


 海岸を歩きながら、思考を巡らせる。

 サンダルのはいた素足を波が通過していく。砂の混じった海水が足の裏に入っているけれど、それは気にならなかった。


 いい感じに集中できていた。

 透明な思考が、波のように押し寄せている。


(やっぱり、他者の介入が一番の解決策かな)


 停滞した物語を動かすテンプレとして、新キャラの投入は最も簡単な手法である。

 しかし今はもう終盤。新キャラの投入なんて悠長なことをしている暇はない……でも、既存のキャラクターでも二人の物語に肩を入れることは容易だ。


(アズサは……違う。あのナマイキな妹キャラはもう牙を持っていない……いや、最初からなかったのかな? あの子にシホのライバルは荷が重い)


 物語の当初こそ、リョウマのハーレムメンバーという役割を持っていたものの。

 今のアズサは良くも悪くも『妹』でしかない。シホの成長を促す『きっかけ』にはなりえない。


(やっぱりワタシがやるべき? いや、しかしながら……ワタシでは少し、弱いような気もするね)


 残念ながら、ワタシはキャラクターとしてやや弱い。

 シホやリョウマのような特別性を有していない。立ち位置こそ特殊ではあるけれどね……シホに敵うキャラクターではない。背伸びして挑んだところで、かつてのようにかませ犬にしかなれないだろう。


(だからこその――ピンクか)


 しかし『胡桃沢くるり』は違う。

 この物語で唯一、コウタロウを好きになったサブヒロインだ。


 シホを除いて、コウタロウに恋心を抱いたのは彼女しかいない。

 だからこそ相応しい。




 ――物語を終わらせる『ラスボス』には、もってこいの存在だ。




 最後はこのラスボスを乗り越えて、シホとコウタロウが付き合う……そういう『ギミック』を仕掛ければ良さそうだ。


 よし。ここまで理解できたら、ワタシがやることも自ずと明確になるね。


(クルリの恋心を『再燃』させてしまえばいい)


 また、彼女にはコウタロウを好きになってもらおうか。

 そのためのイベントをワタシが作ろう。


 そして、二度目の敗北を味わってもらうことで、この作品は綺麗に完結を迎える。

 すべての人間に平等に優しかったコウタロウには心苦しいだろうけど……そろそろ、優しいだけの人間でいることは、やめたほうがいいだろうからね。


 さぁ、サブヒロインを切り捨てて、真の『主人公』となってくれ。

 ただのモブキャラが、主人公になって物語が終わる。


 そういう最高の『ハッピーエンド』を、ワタシは見たいよ――

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