あけましておめでとうございます! ~新年特別SS~ その1
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新年、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
久しぶりの更新です。
時系列はちょっと進んで、幸太郎が大学一年生のころのお話となります。
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――お正月が来るたびに、幸太郎はこんなことを思う。
(……あの人は何が目的なんだろう?)
一月一日。
目が覚めて、リビングに向かう。
テレビ、テーブル、ソファ……どこにでもあるような、六畳一間の空間。
いつもの景色。真っ暗闇でも家具の位置を把握できているくらいには住み慣れた家だ。
しかし、テーブルの上には――幸太郎の予想通り『異物』が存在していた。
「うわっ」
一目見た瞬間、声を漏らしてしまった。
手のひらサイズにも満たない白くて長方形の異物は、やけに分厚い存在感を放っている。
少し距離を開けて、幸太郎はまじまじとそれを見つめた。
どれだけ目を凝らしてみようと、やっぱり長方形は分厚くなっていて、もはや直方体となっていた。
(やっぱり今年もあるよ……まいったなぁ)
困ったように頭を掻きながら、幸太郎は念のため周囲をうかがった。
家の中にはもちろん誰もいない。いや、厳密にいうと義理の妹が自身の部屋にいるのだが、彼女はお寝坊な傾向があるダメ人間なので、朝には目を覚まさない。
今、幸太郎は一人きりだ。
だからこそ彼は、目の前の異物と向き合わなければならない。
「……よしっ」
目を背けていたところで、それは永遠になくならない。
幸太郎は意を決してテーブルへと近づき、その分厚い存在感のある直方体を手に取った。
ずっしりという重量を感じながら、直方体の封を開ける。
そこに入っていたのは……分厚い『現金』だった。
「母さん……お年玉に100万円は荷が重いって」
そう。これは中山家の恒例行事。
仕事にしか興味がない冷血な人間のくせに、なぜか幸太郎の母親は『お年玉』を欠かさない。
少し前までは、面倒を見てくれていた叔母が代理で渡していたのだが、高校二年生くらいからなぜかリビングにおかれるようになった。
おそらく、幸太郎と梓が寝ている隙に帰ってきて置いているのだろうが……だったら少しくらい話をしてもいいのになと、幸太郎はため息をつく。
大きく漏れ出た息には、母親に対する呆れと困惑が混じっていた。
「こんなに要らないのになぁ」
苦笑しながら、なんとなく札束を取り出してみる。
銀行から引き出した直後なのか、しわのないピン札が100枚束ねられていて、なんだか気味が悪かった。
「そういえば、いつからこんなにくれるようになったのかな?」
近年、お正月の悩みはもっぱらこれである。
多すぎるお年玉に、幸太郎は頭を抱えていた。
数年前までは、そこまで問題視する額ではなかった。
せいぜい数万円で、それでも親からもらうにしては多いうえに、使い道なんてないと叔母を経由して伝えたこともある。
気持ち分だけいただいて、余りは返したかったのだが……母親は決して受け取ろうとしなかった。
『返還は不要だ。もちろん、感謝もな。好かれたくてやっているわけでもない。親としての義務をまっとうしているだけだ』
直接訴えかけても、どうせこういう系統のことを言われるだけというのは分かっている。
だからこそ幸太郎は、悩んでしまうのだ。
「お金で親の義務を買えないと思うけど」
なんでもかんでも、金で解決しようとする母親にはかなり困らされていた。
あきれているわけではないが、あきらめてはいるわけで。
「うーん、梓に分けようにも……こんなにあげたら、金銭感覚が壊れそうだなぁ」
義妹は少し……いや、いろいろと緩い。
金銭感覚のブレーキもやや壊れ気味で、お小遣いはソシャゲの課金でほぼほぼ消えることもある。散財は癖になると聞いたことがあるので、幸太郎は気を付けていた。
「いや、でも……梓も大学生だし、もう大丈夫なのかなぁ」
過保護すぎるだろうか。
というか、大学生だしもうお年玉なんていらないような……と幸太郎は首を傾げて考え込む。
「…………よし、分からん」
ただ、結局いつも通りどうしていいか分からなかったので、彼は思考を放棄した。
「とりあえず家事でもしてから考えよう」
札束を丁寧に机の上に戻す幸太郎。
色々と困った結果、彼は見なかったふりをして日常を過ごすことにした。
やることをすべて終えてから、改めて向き合おうと思っていたのだが――今日は少し、運が悪かった。
「幸太郎くん、おはよー! 今日はお正月だから早起きしちゃったのよ? というかそわそわしてあんまり寝られなかったから、幸太郎くんと遊ぶ約束を守れずに寝過ごしそうで、なんならちょっと眠いから、これはもう幸太郎くんのおうちで寝ちゃえばいいじゃないって天才的なアイディアが思い浮かんで――」
しほが、約束よりも早く幸太郎の家に遊びに来たのだ。
時刻は十時頃のこと。洗濯や掃除など色々を終わって、一息つこうとしていたタイミングである。
来訪を知らせるインターホンが鳴ったので、慌てて対応するためにドアを開けた幸太郎は……しほを招き入れた後に、お年玉をしまい忘れていたことに気づいた。
「あ、ちょっ……!」
止めようとしたが、もうしほはリビングに到着していて。
「ぴぎゃぁああああああああああ!!」
まるで三下の雑魚敵がやられたときのような声を上げて、しほがしりもちをついて倒れた。
彼女の視線の先にはもちろん、裸の札束があるわけで。
「こ、ここここ……こ!」
幸太郎くん、の一言すら口にできないくらい腰を抜かしたしほ。
そんな彼女を見て、幸太郎はまたしても苦笑してしまうのだった――
(続きます)
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