五百十七話 一夜目 その6
【メアリー視点】
時折、考えることがある。
当初の予定では、幸太郎のラブコメはどうなる予定だったのろうか――と。
まさか最初から、こんな歪んだ物語にする予定はなかったと思う。
モブが主人公に下克上を果たすまでなら分からなくもない。
モブがメインヒロインと親しくなる。それもまぁ、意外性はあるもののまだ想定の範疇内。
しかしながら……それ以降が少し、納得できない。
(まさか、ここまで恋人になることを引き延ばすとはねぇ)
もっと前に恋人になってもおかしくなかったと思う。
いや、今の関係性を鑑みると、すでに恋人になっていなければおかしくない距離感にいる。
それなのに付き合っていないせいで、こうやってシホとコウタロウにすれ違いが生じているのだろう。
だとすれば、二人が付き合えないことにだって意味が生じるはずだ。
何か理由が……いや、意図があってあえて付き合わないようにしていたとするならば。
(モブがただの主人公ではなく、ハーレム主人公になる物語……やっぱり、そうなる予定だったようにしか思えない
)
奇しくもそれは、ワタシが最初に組んだプロットと同じシナリオだった。
まだワタシが登場したての頃……文化祭のときに、自称クリエイターとして君臨したワタシは、コウタロウのハーレムラブコメを作ろうとして失敗した。
それからだ。彼の物語に違和感を覚えるようになったのは。
(アズサ、キラリ、ユヅキ……かつて、コウタロウと親しかった少女たちは、一度リョウマに寝取られた。しかしコウタロウがリョウマを完膚なきまでに打ちのめして、彼女たちの間違いを理解させる。改めてコウタロウの魅力を理解した少女たちは、コウタロウに懇願してハーレムメンバーとなる……しかし彼女たちが入り込むすきはない。なぜならメインヒロインのシホがいるから。一度裏切ったサブヒロインたちは過去の過ちに後悔しながらも、コウタロウの寵愛を賜るために媚びる……そういう流れが見えるねぇ)
すべてはワタシの妄想にすぎない。
でも、こういう経緯があったのではないかと推測できるようなキャラクターの配置がなされている。
つまりこれは、ラブコメにあらず。
コウタロウの復讐……そうなるような物語が、当初は想定されていたのではないだろうか。
(ワタシやクルリなどの、新登場ヒロインも結局はコウタロウに好意的な感情を抱いてしまっている。つまり、本来であればワタシたちは新ハーレム要員だったんじゃないかな?)
チートキャラの金髪巨乳。
ツンデレキャラのピンク貧乳。
なるほど。キラリ、アズサ、ユヅキ、それからシホともかぶっていない属性のヒロインだ……バラエティ豊かな『ハーレム』らしい構成ともいえる。
(要するに、コウタロウは当初の予定では『ハーレム主人公』に成り上がる予定だった。だから今もシホとは付き合えていない……そういうことになるのかな?)
モブからハーレム主人公になったなら、シナリオ的に大逆転劇が展開されてとても爽快だ。
ワタシ好みの『ざまぁ系』である。
ただし、仮にそうだったとしたら……やっぱり現状がおかしいのだ。
(コウタロウは、まだシホだけが好きなままだ)
彼が、異常だ。
底抜けに優しくて、他者の感情を否定できないはずのコウタロウは、しかし恋心だけは頑なである。
誰に好きと言われても、シホへの愛情だけはブレない。
そこだけは、物語の都合が良いように動いてくれない。
だったら……こうすればいいのか。
(コウタロウに、選ばせてあげようか……シホだけを愛するのか、ハーレムを形成するのか)
揺さぶろう。
彼の恋心を。
追い込もう。
シホの恋心を。
そうすればきっと、物語はさらに盛り上がる。
それこそが、ラスボスのお仕事だった――
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