五百十五話 一夜目 その4

 お家で食べるお肉も当然おいしい。

 でも、海辺で食べるい肉は、もっとおいしい。


「うみゃ~い!」


 しほが幸せそうな顔でお肉を頬張っていた。

 寝起きでも関係なくバクバクと食べている。そんな彼女を見て、俺と胡桃沢さんは苦笑していた。


「よく食べるわね。いつもこうなの?」


「しほは意外と食べるタイプだよ。食事が好きみたいで……まぁ、いつもはこんなに食べないけど」


 現在、俺たちはビーチでバーベキューをしていた。

 折りたたみできるアウトドア用の椅子に座りながら、紙皿を片手にのんびりと食事を楽しんでいる。


 このビーチは人里離れた場所にあるので明かりが少ない。しかし、今日は満月で天気も良いので、周囲がくっきりと見える程度には明るかった。


 昼間は暑かったけど、日が沈んだおかげでだいぶ気温も落ち着いている。吹き抜ける海風も少しだけひんやりとしていて心地よかった。


 絶好のバーベキュー日和である。

 そのおかげか、しほと……それから梓も食欲が旺盛だ。


「メアリーちゃん、次のお肉焼いて! ほら、はやくっ」


「……なぁ、アズサ。ワタシはキミのメイドではないのだけれどね? そうやって命令されるのは少し気に食わないねぇ」


「分かった! じゃあ焼き鳥でいいよっ」


「何が分かったのかワタシには分からないよ。やれやれ……」


 未だに水着姿のメアリーさんがさっきからずっと食材を焼いている。

 その隣にしほと梓は陣取っていた。


「というか、コウタロウもここに来ないかい? そんな後ろでちまちま食べてないで……遠慮しなくてもいいんだよ?」


「別に遠慮はしてないけど」


「ほら、ここに大きなお肉があるだろう? ワタシの大きなお肉を眺めながら、おいしいお肉を食べるというのも最高だと思わないかい?」


「…………」


 自分の胸元を強調しながら何やら言ってるけれど、微塵も興味がないので無視しておいた。

 そうか、なんで水着を着ているのか気になってたんだけど……そういう意図があったのか。


 お肉の油がはねて熱いと思うんだけどなぁ……いや、メアリーさんのことだしどうでもいいか。

 彼女はよく分からない人間なので、理解しようとする行為が間違えているのである。


「うちのメイドがごめんね、中山……あれの性格を直すのはもう諦めてるわ」


「大丈夫。メアリーさんの言動には慣れてるから」


「ああいう言動さえなければ完璧なメイドなのに……ほら、食材の焼き加減も完璧よ? だからクビにするのは惜しいのよね。仕事だけはできるから」


 メアリーさんは器用で物覚えがいいので、基本的にできないことはない。

 性格は快楽主義者というか、極端なくらいの利己主義で、自己中心的な人間だけど……最近は他者を害するような行為もないみたいで、すっかり有能なメイドさんだった。


 もう、彼女は昔のような『クリエイター(自称)』ではない。

 だから、メアリーさんに関しては特に何も気にしていなかった。


「あずにゃん、私のお肉もお願いしてもらっていい?」


「え? いいけど……霜月さん――じゃなかった。おねーちゃんが直接言えばいいんじゃないの? いちいち梓が仲介してめんどくさいなぁ」


「だ、だって、なんか怖いわ……さっきからなんだか不気味だもの」


 ただ、しほは少しメアリーさんを警戒しているようだった。

 さっきは割と普通だった気がするけど、今は直接的な会話を避けている。


 今も、梓を介してしか言葉を交わさない。

 それがなんだか不思議だった――

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