五百十三話 一夜目 その2 ※お知らせ有

【メアリー視点】


 ――これからが山場だ。


 不意に返却されたチートキャラとしての権能は、おそらく山場に向けての準備だろう。

 ワタシにも再び役割が与えられたと、そういうことになると思う。


 まったく、都合良く利用されるものだね……できればこの権能を維持してこれからも好き勝手に遊びたいところだけど、残念ながらこれは一時的なもので、ことが終わればすぐにワタシはポンコツ無能ドジメイドキャラへと戻ってしまうのだろう。


 だったら、役割に徹してあげようじゃないか。

 ワタシにとって最後の活躍だ……ラスボスとしてしっかり、このラブコメに花を手向けよう。


 しほと幸太郎のラブコメを、完成させる。それがワタシに任された役割な気がする。


 そのために何が必要で、何が不足しているのか……情報を整理しようか。


 まず、二人の間には現在、すれ違いが生じている。


 恋人として先に進みたいコウタロウ。

 恋人になることを怖がっているシホ。


 前者は有意識。後者は無意識。

 気持ちが明らかに噛み合っていなかった。


 理想でいえば、コウタロウがやや強引にでもシホにアプローチできたらいいんだろうけど……そんな手段は彼にとれるわけがない。


 優しいからこそ、コウタロウはシホに選ばれた。

 優しくない手段は、コウタロウと矛盾している。


 故に彼は一歩引いた。

 そのせいで状況を俯瞰してしまい、乗り越えたはずの『物語的な思考』を思い出してしまった。


 自らがやるべきことを、自らに言い聞かせる。

 そうすることで、昂る感情にカギをかける。


 優しいコウタロウらしい選択だね。

 相手を傷つけられないところは、彼のいいところであり……そして今回は、それが悪く作用したというだけの話だ。


 ワタシはこう思う。


『優しさとは薬だ』


 毒ではないよ。薬なので、体にとって本来は良いものであることは間違いない。


 他者を癒す効果はあるけれど、服用を続ければ効果が薄れていく。

 シホはどうも、優しさを過剰にもらってしまって……その効果が薄れている気がした。


 だって、コウタロウに悪いところなんてあるいかい?

 彼はとにかく、シホのことを大切に思っているじゃないか……そろそろコウタロウの思いが報われていいはずである。


 それなのに、シホがそれを拒んでいる。


 こうなると物語は進まない。

 シホはコウタロウにとって唯一、逆らえない存在だ……たとえ彼女が間違えていようとも、正すことを彼はできないのである。


 そう考えると、なるほど……今回のイベントの意味も見えてきた。


(ピンク……いや、クルリ。君の存在意義がイマイチわからなかったけれど、なるほどねぇ……こんな大役を任されていたなんて)


 物語にとっての異物だと思っていた。

 いてもいなくてもいい存在のくせに、要所要所で登場する謎のキャラクターは、どうもこの物語においてとても重要な位置にいたらしい。


 ワタシが彼女に仕えることになったのも、あるいは……そういうことなのかもしれない。


(唯一、シホに危機感を抱かせた存在のキミだからこそ、できることがある)


 かつて、コウタロウを奪おうとしたサブヒロイン。

 その牙が丸くなろうとも、やはり彼女の性質は変わっていない。


 ヒロインに爪を立てられる、物語の異物……いや、異端として彼女には活躍してもらおうか。


(さて、ワタシもいろいろと準備しようか)


 お膳立ては任せてくれよ。

 メアリーは、下準備が大好きだ。


 長く続いたこのラブコメ、いよいよ終わりが見えてきた。

 それを盛り上げるためにも……頑張るとしようか――









【お知らせ】

『霜月さんはモブが好き』4巻の発売が決定しました!

12月20日に発売予定です。その執筆に追われてまして、ウェブ版の更新が止まっております……申し訳ありませんm(__)m

来月にはまた安定すると思います。どうぞよろしくお願いします!


おそらく、4巻の発売と同時期くらいにweb版の物語も終わりになると思います。

作品にとって大きな山場です……書籍版もぜひ、読んでくださるとうれしいです。

web版を軸に、更に昇華した物語に仕上げました。

web版のおかげで素敵な作品になったと思います。皆様のおかげだと思ってますし、だからこそ読んでほしいという気持ちも強くあります。どうか、見てくださると幸いです(`・ω・´)ゞ


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