五百八話 ようやくの水着回! その38
もしかしたら、以前までのしほなら……他者に敏感だった頃の彼女であれば、俺の異変も察していたかもしれない。
だけど、今の彼女は気付かない。
いや、気付く必要がない……なぜなら、俺のことを信頼しているし、信用しているから、何があっても大丈夫と思ってくれている。
良く言えば、愛が深い。
悪く言えば、盲目的に。
彼女の鋭い聴覚は、俺の感情を聞いていなかった。
聞こえないのではない。聞こうとしていないのだ。
それが良いことなのか、悪いことなのか、俺にはちょっと判断がつかなかった。
「幸太郎くんっ。そろそろ戻る? なんだかここにいるのも飽きてきたし、あずにゃんで遊びたいわ」
岩陰で少し涼んでいたら、しほがスクッと立ち上がった。
相変わらず、楽しそうだ。元々、大人しくしているのが苦手というか、インドア趣味に活発的だからなぁ……静かにしているのが退屈だったのかな。
「分かった。じゃあ、戻ろっか」
立ち上がると、しほは当たり前のように手を差し伸べてくる。
そっと手を取ったら、今度はあちらからギュッと握りしめてきた。
「えへへ~」
緩い笑顔と、幸福そうな表情に、俺もつられて笑う。
そっか。しほは今、とても幸せなんだ。
だから、現状を変える必要性がない。
だったら……それでいいんだ。
彼女が幸せであれば、それ以上のことなんて求める意味がないのである。
(悪いクセだなぁ……考えすぎだ)
まだまだ、卑屈だったあの頃の悪癖が抜けない。
いつもいつも、脳内でグルグルと思考を回している。
余計なことは考えないように努力しよう。
今はとにかく、この旅行を楽しむ……それでいいんだから。
物語的にも、それであってるんだから――。
【メアリー視点】
あれ?
おかしいね。
なぜワタシが戻った?
おいおい、物語的にはもうそのフェーズにないだろう。
チートキャラのメアリーさんはもう用無しで、今はふざけたドジっ子巨乳金髪メイドだったはずだけどね……何が狂ったんだ?
コウタロウか?
それともシホ?
ふむ……まぁどっちでもいいか。
戻ったのであれば、それでいい。
ギャグキャラとして処理されるのは心外だからね。
ここからはまた、少し荒らせるかな?
にひひっ。これはまた、面白い状況で戻れたものだよ……ああ、これは最高だ。
また、キミたちの物語に介入できる。
終わったはずの物語。
ただのイチャイチャラブコメになるはずだった、後日談。
普通のラブコメであれば、もう終わっているはずの現在。
『二人はこの先もずっと幸せに暮らしました。めでたしめでたし』
その一文で締めくくるのは、やっぱりもったいないよね。
さてさて、どうやって物語を狂わせてやろうかな!
「あ! メアリーちゃん、お城ふんじゃった……ごめーん」
「あー!? アズサ、勘弁してくれよっ。力作だったのに!!」
……そして、ワタシが作成した素晴らしいクマモト城を容赦なく踏みつけている、このナマイキな小娘をどう裁いてやろうか。
ってか、キミはワタシのこと舐め過ぎじゃないかな?
この作品における偉大なる敵キャラの一人だぞ?
リョウマに並ぶ厄介なキャラでもあるのに……やれやれ、この扱いには不満しかないよ――
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