五百七話 ようやくの水着回! その37
なんだか不思議な状態である。
俺もしほも、お互いに両想いであることは分かっている
友達という表現では物足りない関係性であることは確か。
それなのに、ある一定のラインから先に足を踏み入れることができない。
……別に、そのラインを越えて何かがやりたいわけじゃない。
目標があるわけではないのだ。だからこそ、足を進める理由を見失っている。
たしかに、このままゆっくりと時間をかければ……いずれ、俺としほは友達以上の関係に慣れるとは思う。
だけど、それはいつなんだろう?
……ダメだな。少しだけ、嫌なことを考えてしまった。
――時間をかければかけるほど、俺としほはこの関係性が壊れるのを恐れるようになるのでは?
そんな不安が、焦りに薪をくべる。
しほはあまり強い人間じゃない。だから、待ってあげることが大切だって分かっているのに、不安を拭いたいがために急かしたくなってしまう。
この精神状態は良くないな。
「……あれ? 幸太郎くん、急に黙ってどうしたの?」
ほら、しほだって何かを察しようとしている。
だから俺は、肩の力を抜いて彼女の髪の毛にそっと触れた。
柔らかくて、繊細で……少し力を入れただけで切れてしまいそうなほどに細い白銀の髪に触れると、いかに彼女が脆いのかを実感できる。
出会った直後に顔を見せていた『霜月さん』の仮面は、すっかり剥がれてしまっている。
それが俺にとって良いことでも、しほにとっては必ずも良いことだとは限らない。
なぜならそれは、彼女が『無防備』になったことを意味するからだ。
脆い自分を守るために、彼女は冷たくて無感動な『霜月さん』という仮面を作ったわけで。
それが必要なくなったのは……いや、悪い言い方をすると、その仮面を強引に引き剥がしたのはこの俺に他ならない。
仮面がない今、しほを守るものがない。俺しか……俺だけしか、しぃちゃんを守れる人間はいない。
いや、違う。言い方が間違っている。
彼女の仮面を壊した俺には、彼女を守る義務がある。
霜月しほを守る仮面に、俺がならないといけないのだ。
だから、焦るな。
怖がるな。
大丈夫。時間をかけて、ゆっくりと歩み寄ればいいだけの話なんだから。
まさか、時間をかければかけるほど、恋人になるのが難しくなるなんて――そんな不安を抱くことは、間違っている。
「なんでもないよ。ただ、涼しくてちょっとだけぼーっとしただけ」
数秒後、髪の毛から手を離してそう伝える。
しほは一瞬、キョトンとした表情を見せたけれど……すぐにいつもの無邪気な笑顔を浮かべてくれた。
「あらあら、幸太郎くんったらはしゃぎ疲れちゃったのかしら? 子供っぽくてかわいいわ」
――疑わない。
俺の言葉を、一心に信頼している。
俺の言葉であれば、全て正しい……いや、正しくなくても、それでいい。
それくらい、彼女は俺のことを愛してくれている。
嬉しい。
でも、やっぱり怖い。
(俺と喧嘩でもしたら……しぃちゃんはいったいどうなるんだろう?)
そして、中山幸太郎という存在がもし消えてしまったとするなら。
霜月しほは、どうなるのか。
……そんなこと、考えたくもなかった――
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