五百五話 ようやくの水着回! その35


「ねぇねぇ、メアリーちゃん? もう一回砂のお城作って!」


「おいおい。キミが踏んで壊したことを覚えているかい?」


「忘れた!」


「無邪気であれば許されると思わないでくれ。ワタシはもうイヤだ」


「分かった。じゃあ、作って?」


「な、何を分かったんだい???」


「作って!」


「ちょっ、なんでワタシが……ああ、もう分かったよ! 作ればいいんだろう、作ればっ」


「うん!」


「作るけど、絶対に壊さないでくれよ? これは振りじゃない。絶対に、絶対に、絶対に――だ!」


「分かった!」


 ……と、いうやりとりを経てメアリーさんは再び砂のお城づくりに着手した。

 どうして彼女は梓の言いなりになっているんだろう……そして梓はなんで、メアリーさんのことをあんなに舐めることができるのか。今も、自分で『作って!』と言ったくせに手伝うことなく、ビーチチェアに座ってメアリーさんを眺めていた。


 あの二人の関係性は不思議だけど、まぁ楽しそうだしいいや。


 メアリーさんと梓の意識は、すっかり俺たちから外れている。さっきまで勝負してたのに、決着した瞬間にはもう俺に興味をなくしていた。


 そんなんだから、俺は君たちにドキドキしないんだと思うよ。

 一方、しほはずっと手を繋いだままで……そういうところが好きで、ついついドキドキしてしまうのだと改めて認識した。


「幸太郎くん、このままちょっとお散歩したい?」


 ぼんやりしていたら、不意に指をギュッと握られる感触で我に返った。


「え? ああ、散歩か……しぃちゃんが散歩したいなら、全然いいよ」


「違うわ。幸太郎くんが散歩したいか聞いているのよ? したいんだったら、別に付き合ってあげてもいいんだからねっ」


「なんで急にツンデレ?」


 何を照れているんだろう?

 あ、そっか。俺もドキドキしているように、しほもなんだかんだドキドキしているのか。


 この子も、俺に負けず劣らず『うぶ』なのだ。

 類は友を呼ぶ、とは古くからある言葉だけど……人の性質を的確に表現しているんだなぁ。


 いや、でも最初から似ていたわけじゃないか。

 長い時間を一緒に過ごしたことで、お互いがお互いに寄っていっているのだろう。


 それはそれで良い傾向だと思って、素直に嬉しかった。


「じゃあ、散歩に行きたいから、一緒についてきてくれたら嬉しいよ」


「あら、そう? じゃあ、仕方ないわね……うふふ♪ 仕方ない男の子なんだからっ」


 と、嬉しそうに笑ってしほは歩き出す。

 仕方ないと言っている割には、足取りが軽い。俺を引っ張る様に歩き始めたので、慌てて足を速めて隣に肩を並べた。


「さっきね、海で泳いでいる時に岩場?っぽい場所を見つけたの。あっちの方にあったわ」


「へー、そうなんだ」


 向かっている先は、ビーチの端っこである。

 湾状になっているのでその先が見えないけど、岩場になっているらしい。


「まぁ、あの先はビーチの管理下に入ってないし、危なそうだったら引き返そうか」


「ええ、そうね……って、あ! べ、別に私は行きたくないのよ? 幸太郎くんが行きたいから、ついていっているだけなんだからねっ」


「はいはい、そういうことにしておくよ」


 ついていっているというか、先導しているようにしか感じない。

 でも、そういうたまに素直じゃないところもしほらしいので、嫌な気分はまったくしなかった――







いつもお読みくださりありがとうございます!

現在、3巻が発売中でございます(`・ω・´)ゞ

web版既読の方にも楽しんでもらえるように、ほとんど書き直しております。

ぜひぜひ、手に取ってくださると嬉しいです。

どうぞよろしくお願いしますm(__)m

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