五百二話 ようやくの水着回! その32
自分で言うのもなんだけど、メアリーさんと梓にドキドキすることはなかった。
梓は家族なので、異性として認識していない。メアリーさんに至っては人間性の部分にゆがみがあるし、あと単純に属性的な好みという意味であまり興味がなかったのである。
我ながら独特な感性だと思う。
普通の男子高校生なら……たとえば竜崎のように一般的な下心を持つ青年であれば、きっとメアリーさんにここまで無関心ではいられなかっただろう。
梓に関しても、家族だから何も感じなかっただけで、他人という関係性であれば危なかったかもしれない。
そういう理由があって、俺は二人にドキドキしなかっただけである。
でも、彼女たちの視点では別の解釈ができてしまったようで。
「あ、わかった。おにーちゃんって、あれだ。女の子にきょーみないんでしょっ!」
あまりにも俺が無反応だったからなのか。
メソメソと泣きべそをかいていた梓が、唐突にそう叫んだ。
「梓にドキドキしないんだったら、つまりそういうことだと思うっ」
「いやいや、それはさすがに暴論じゃないかなぁ」
飛躍的な発想に苦笑してしまう。
もちろんそういうタイプではないので、梓の指摘は間違っている。
そしてそれは、頭のいいメアリーさんも分かってくれているはず――と、思ったのに。
「――そういうことだったか! なるほどね、アズサ……それは盲点だったよ。確かにその可能性は低くない。だって、コウタロウはワタシにドキドキしていないからね。つまりそういうことだったのか」
何がどういうことなのかな。
そしてメアリーさんも梓も、自信がありすぎではないだろうか……自分にドキドキしないから女性に興味がないって決めつけるのはよくないと思う。
誰にだって好き・嫌いがあるんだから。
俺にだって、好きなタイプと嫌いなタイプがある。
もうキャラクターのないモブキャラじゃないんだから。
いや、そもそも元からモブではなかった……というお話はめんどくさいから、割愛しておく。
とにかく、中山幸太郎は少し特殊かもしれないけど、ありふれた男子高校生の一人である。情欲だってだってないわけじゃない……と、思うんだけどなぁ。
残念ながら、メアリーさんと梓にはそれを感じ取ってもらえないようだ。
「道理でおかしいと思っていたんだよ。ワタシみたいな下品な体の女性になびかない男子高校生なんて存在しないからね」
「たしかに! メアリーちゃんみたいに胸しか長所がない女の子に無関心なのは、おにーちゃんが女性に何も感じないからに決まってるね」
「……え、えっと? アズサ? キミ、ワタシのことをちょっと下に見すぎてないかな? 胸しか長所がないわけじゃないと思うんだけどね?」
「w」
「鼻で笑った!?」
と、二人の間で話は勝手に盛り上がっている。
さっき、俺がしほの水着にドキドキしたり、海でしほの浮き輪にになっているときに挙動不審になっていたことを覚えてないのかな?
いや、自分たちが俺をドキドキさせられなかったから、そう思い込んでいるのかもしれない。それはまぁ、申し訳ないけど……って、いやいや。冷静に考えると、俺は何も悪くない気がする。
さて、困ったなぁ。
正直なところ、二人にはそうやって思われても別に害がないのでいいけど。
「え? え? こ、幸太郎くんってそうだったの!? わ、私……男の子にならないと、幸太郎くんに愛してもらえないのかしらっ」
しほが……しぃちゃんが、二人の会話を真に受けていた。
素直な女の子でかわいいなぁ。
あ、しぃちゃんがかわいいのはいつものことなので、今更語ることではない。
でも、うーん……彼女に好みを誤解されるのは、ちょっとよろしくなかった――。
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